島田荘司さん、『ネジ式ザゼツキー』

 御手洗潔シリーズである。何をかいわんや、である。
 『ネジ式ザゼツキー』、島田荘司を読みました。

 いやはや、とても面白かったです。本屋さんで見かけた時から、変わったタイトルだなぁ…と気になっていたのですが、いよいよこのタイトルの意味がわかってくる箇所を読んでいる時には、本当にゾクゾクしました。 
 かつて脳に障害を受けた人物エゴンが、その脳ミソを何とかしてひねりつつ、失ってしまった自分の過去の記憶をもう一度取り戻そうとした結果、生み出された奇妙な物語。それは、主人公が行く先の世界で、車輪付きの熊や羽の生えた妖精たちがあらわれるファンタジーだった。その、かなり荒唐無稽な設定や、悪夢のようなイメージが繰り広がられるこのファンタジーに、果たして事件の真相にいたる何らかのヒントがこめられているのか…? その事実を手繰り寄せることが、こんな情報で可能なのか…?

 日本を離れ北欧で脳科学を研究する御手洗が、患者として出会った人物の過去にある謎にぶつかり、認知科学、脳科学の分野からもアプローチをするという展開で、ペダントリーにおける読書の快感も、相変わらず味わえて嬉しくなります。 
 問題の、記憶障害者エゴンが書いたファンタジー「タンジール蜜柑共和国への帰還」の内容にも、奇妙な魅力があるのですが、何と言っても読み応えがあるのは、その物語を解体して分析していく御手洗の見事な手際です。その過程で浮かび上がってくる、エゴンが持っていた当時最新の科学的知見に与えられた御手洗の説明の箇所なんかも、思いもよらない展開だったので、すっごくワクワクしながら読み進んでいました。
 そうしてその分析の裏付け捜査の最後には、過去に埋もれてしまっていた事件の真犯人が…?!

 結構ヴォリュームのある一冊ですが、全く長さを感じさせなかったです。しかも今回の御手洗は、すっかり安楽椅子。ワトソン役のハインリッヒとの応酬も小気味よく、すみずみまで楽しめました。いえい。
 (2007.4.5)

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