フランティシェク・クプカ、『スキタイの騎士』

 『スキタイの騎士』の感想を少しばかり。
 “プラハは幻想と謎に満ちていた。” 173頁

 素晴らしい読み応えだった。チェコにどぷり…心ゆくまで浸ってため息ばかり。偉大な帝国の光芒も、その先の小昏い憂愁も、誇らかに自国の歴史を語ることの尊さに胸をうたれた。
 カール大帝に仕えた円卓の騎士の一人デンマーク王が、異教の国々を征服するものの、その後数奇な運命をたどる「オイール王の物語」に始まり、十字軍遠征、カレル四世とその妃、プラハの幻想と恋物語、占領下の人々、ブルジョア革命…などなど。徐々に時代が下ってくるように作品が並べられ、そして表題作に至ると、チェコの学者である主人公の姿には作者自身が重なる。

 とりわけ好きだったのは、王子カレルと妃ブランシュの優しい恋を描く「鶯の小径」や、プラハで最も美しい若者と呼ばれた元学生義勇軍の中尉が、悪魔と契約を交わす「プラハ夜想曲」。
 ある作家について、彼女に恋をした青年の視点から綴った「見知らぬ者の日記」も、流れの中では少し異色だが好きな話である。
 “正反対の二つの生涯”を体験したチェコの学者が語り手となる「スキタイの騎士」では、祖国を失った経緯や人の心の複雑さが独特な恬淡さで説かれている。忘れがたい作品だ。
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