ホレス・ウォルポール、『オトラント城』

 「オトラント城」の感想を少しばかり。

 “マンフレッドは再び姫を引っ捕らえようと迫ってきます。次の瞬間でした。先ほどまで二人がいた長椅子の上に、マンフレッドの祖父の肖像画が架かっておりましたが、これがひとつ大きくため息をついたかと思うと、呻き声をあげたのです。” 19頁 

 むう、楽しかった。そもそもは、ゴシック文学の先駆けということに興味が湧いた。恋と災禍、幻影と恐怖…に、笑いも散りばめられた愛すべき幻想譚で、とりわけ優美な語り口がとても素敵だった。

 真の城主、そして偽りの城主とはいったい誰のことを指すものか…。そんな謎めいた旧い予言の伝わるオトラント城を舞台に、領主マンフレッドやその娘マチルダ姫、お世継ぎの婚約者イザベラ姫、妃のヒッポリタたちが、怪異に脅かされつつ繰り広げる悲喜劇…といった按配の物語。なんと、若君コンラッドが婚礼の日に、忽然と現れた巨大な兜に組み敷かれ亡くなる…という幕開けで驚いた。
 オトラント城の地下にはお約束の秘密の通路があって、そこで窮地に陥った乙女を若者が救う一幕があり、かと思えば、巨人の姿を見て慄き騒ぐ家来たちの寸劇も差し挟まれる。愛息を失ったマンフレッドの邪恋と、貞節で敬虔なヒッポリタの苦悩、仲の良いマチルダとイザベルの思いがけない三角関係…など、幽霊と下世話が同時に描かれているところに、くすりと笑いもこぼれ面白かった。

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