エリック・マコーマック、『ミステリウム』

 楽しみにしていた作品。『ミステリウム』の感想を少しばかり。

 どっぷり、隅々まで堪能した。ぬるりと纏いつく独特の生々しさと悪夢のような手触りが、どうしてこんなに読む傍から快感になっていくのか…と、圧倒された。捕り込まれた。

 この物語は、当時見習い記者であった語り手がひょんなことから関わることになった、不可解な謎の事件を回想する形で語られている。先にある町の薬剤師の手記を読まされた語り手ジェイムズは、霧深く垂れこめる箱庭のようなその町を訪れ、住人たちが皆死んでしまった或いは死につつある…という中、手記に出てくる人々へのインタビューを試みる。奇病におかされた彼らへのインタビューは、なかなかに骨が折れるものであったのだが…。
 一つの謎がまたあらたな謎を呼び、その謎がまた更に次の…という物語のからくりにすっかり心を奪われ読み進むうち、まるで玉ねぎの皮を剥き続けているみたいな謎の連なりに、いつの間にか薄気味が悪くなり背筋がそそけ立っている…という読み心地が堪らなかった。何て言うか、所々に立ち現れるおぞましいイメージの所為もあってか、それらが有機的に繋がっていく…という印象を受けるのだ。玉ねぎの中心を探すという当初の目的を忘れて、指先に絡みついてくる薄皮のぬるぬるにばかり気を取られていく…という物語でもあった(何しろそのぬるぬるが素晴らしい)。
 薬剤師ロバート・エーケンの手記の中で描かれる水文学者カークの不吉さから始まり、町で起こるおぞましい事件の数々、正体不明の疫病に襲われていく住人たちの異様な姿…と、真相に迫れば迫るほど得体の知れない怖ろしさもそれにつれていや増していく…という筆致が本当に凄まじくて、息もつけないほど面白かった。
 あ、タイトルの意味がわかるところでも唸ったなぁ…。
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