キャサリン・M・ヴァレンテ、『孤児の物語 ―硬貨と香料の都にて』

 『孤児の物語 ―硬貨と香料の都にて』の感想を少しばかり。

 “「好きな話ではないけれど、終わりまで聞かないと、気がすまない。その恐ろしい場所の話をしてくれ」” 26頁

 至福の時間。素晴らしい読み応えだった。またここへ来よう、また彼らに会おう…と言い聞かせなければ、さみしくて本を閉じることも出来ない余韻の中。果てなく隣り合わされ結ぼれていく物語をたどりたどり、いったい幾つの不思議や驚きの扉をくぐってきただろう。そこに残された愛と悲しみの続きに、後ろ髪をひかれる思いで。

 「夜の庭園にて」からの続きで、第三・第四の書が語られる。女童の瞼のしみが黒々と浮かびあがり、まず始めに語りだすのは〈七〉と名乗る若者。かつて金剛石の小塔を睥睨する〈薔薇の円屋根〉を誇った都シャドゥキアムは廃れ、ただ貨幣の工場だけが稼働するマロウという街になりはてた。そこで〈七〉は髪のない女の子と知り合い、象牙色の硬貨が何を原料に鋳造されているかを目の当たりにする…。
 「夜の庭園にて」との繋がりも少しずつ見えてくるので、それもまた嬉しい読みどころだった。

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