アポリネール、『虐殺された詩人』

 『虐殺された詩人』の感想を少しばかり。

 こちらにも「月の王」が入っており、訳者が違うので楽しく再読した。他にも短篇が多く収められているが、それでもお目当ての表題作が全体の半分くらいを占めている。
 自伝小説的である「虐殺された詩人」は、作者の分身と思われる詩人クロニアマンタルの悲劇的な生涯が描かれた作品だ。幻想と詩に満ち溢れ、時にシュールな展開を見せるこの物語は、突如として風変わりな断片の継ぎはぎで話が進んでいく箇所があったりして、とても面白い。冷酷に詩人を捨てる恋人トリストゥーズ(マリー・ローランサンがモデル)との恋愛を始めとし、かなりペシミスティックな観点から詩人の人生が見通されている。

 訳者による解説を読むと、「虐殺された詩人」はアポリネールとマリー・ローランサンの中が円満だった時期に書かれていることがわかる。恋のさ中に当の相手である恋人との破綻を思い描く詩人の心の内を想像するだけで、ただもうため息しか出てこない。まるでいつか失う日が訪れるのを夢見ながら、恋をしているみたいだ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 8月9日(火)の... 8月10日(水)の... »