オルガ・トカルチュク、『逃亡派』

 『逃亡派』の感想を少しばかり。

 “この地球が喉につかえている。じっさい、咳ばらいして、ぺっと吐きだすこともできるはずだ。” 54頁

 楽しみにしていたオルガ・トカルチュク。やはり…というかまあ、不思議な小説でとても好みだった。始めはとりとめのなさに惑わされ、読みながら気持ちが漂い出しそうになる。でも、茫洋として掴みどころがないように見えて、116もの断章をゆるゆると繋ぎ合わせていく“旅”と“移動”の主題は、いつしかこちら側をしっかと掴んでいた。

 隣り合う断章同士の不連続性(それこそ移動に酔う)、一つ一つばらばらに進んでいくプロットの奇妙な味わい。こんな形の旅もあるのか、これもまた一種の移動なのか…と、意表を突かれて幾度も思いを巡らしてみた。
 例えば人体解剖学の進歩から、標本をよりよく保存する為の技術の話への流れがあり、両者の間を行き来しながら時代が下っていく。そして物体として切り刻まれていく人体と、複製されて朽ちない身体のことについて。他にも巡礼のこと、逃亡派のことも興味深かった。空間や時間では測ることの叶わない探求の旅について、全体を眺めつつ突き詰めていく思惟。…などなど、自在な広がり方は茸的なのかも知れない。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 2月25日(火)の... 2月28日(金)の... »