ヘルマン・ヘッセ、『ガラス玉演戯』

 『ガラス玉演戯』の感想を少しばかり。

 “ただおそらくあまりにも完全で、あまりにも美しすぎる。非常に美しいので、はらはらせずには見ていられないくらいだ。” 224頁

 素晴らしい読み応えだった。夢中で文章を追う傍から、この本に出会えた嬉しさが胸に満ちてくる…そんな、至福の時間だった。とても忘れがたい作品になったし、また必ずここへ戻ってきたい。人の歴史を遥かに見晴るかすが如く、どこまでも押し広げられていく豊かで静かな思惟に受け止められて、より深い境地を垣間見せられる。透徹した明朗な眼差しに触れることで、孤独の清々しさをも改めて思った。
 かつてヘッセを読んだ日々はあまりにも遠いけれど、記憶の中の当時の印象に重ね合わせてみたら得心してきた。本当に、たどり着くべくしてたどり着いた最後の長篇、総決算だったのだなぁ…と。

 この物語は、カスターリエンという理想郷のような聖職制度の州を舞台に、この上なく純粋で美しい究極の遊び…ガラス玉演戯のために修練を経、やがて名人という最高の地位に達するヨーゼフ・クネヒトの伝記という体裁で描かれている。
 では、そもガラス玉演戯とは何ぞ。それは…。高度に発達した神秘のことばが法則となり、その楽器は想像を絶して完全なパイプ・オルガンにも例えられる。音楽と瞑想とを組み合わせ、精神的宇宙全体を打ちつくし、カスターリエンの理念そのものを象徴する至高のパフォーマンスであり…(云々)。

 執筆当初この作品には、ヘッセ自身のナチス批判が込められていたそうだ。けれど、導かれるがまま翔け上がるほどに想像力を掻き立てられる面白さといい、世界を語り尽くさんばかりの奥行といい、そんな時代背景から解き放たれた伸びやかさを感じた。いつまでも思いを巡らせていたくなる、驚嘆し魅了されてならない素晴らしい作品だった。…ねぶねぶ。

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