5月31日

 大滝和子『「銀河を産んだように」などⅠ Ⅱ Ⅲ歌集』を読んだ。『人類のヴァイオリン』を愛読してきたので、全三歌集はとても嬉しい。
  
 〈サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい〉
 〈きみと舐めているにあらぬにアイスクリーム羊皮紙へにじむ花文字のあまさ〉
 〈くるおしくキスする夜もかなたには冥王星の冷えつつ回る〉
 〈めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる〉
 〈さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ〉
 〈相対性理論を習うまなざしの二億秒まえ飼っていた猫〉
 〈ゆえ知らずわれに湧きくる不安をば珍熱帯魚として眺むるも〉
 (「銀河を産んだように」)

 〈きょうもまたシュレディンガーの猫連れてゆたにたゆたに恋いつつぞいる〉
 〈《存在》はとこしえにあるものなりや角度とともに雪降りきたる〉
 〈躰とは脈うつ大陸それぞれの孤独な奴婢に統べられながら〉
 〈超新星ばらまき猫という猫の硝子へだてて耳うつくしき〉
 〈都あり。ゆらぎゆきかうものらみな《その女王》のしもべなるかな〉
 〈昆布茶飲みふとおもいだす 自転車でキュリー夫人は新婚旅行〉
 〈みずからを誰もが《われ》と思いつつこの世の埃吸いこみている〉
 〈卯年(うどし)なる夏目漱石怒りつつ倫敦塔をのぼりつめしか〉
 〈君に背を向けて地球を一周しまた戻りくる音速われは〉
 (「竹とヴィーナス」)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )