J・J・アルマス・マルセロ、『連邦区マドリード』

 『連邦区マドリード』の感想を少しばかり。

 “レオ・ミストラルが語る物語は、彼自身の挫折から生み出されたものだった。” 16頁

 美しくも雑多、虚実綯い交ぜになったマーブル模様が万遍なく押し広げられていく作風に、少しく戸惑いつつひき込まれた。本物と偽物はまず並べられるが、奇妙な逆転の現象を引き起こす。それは錯覚に過ぎないのかも知れず、ふっと目眩のする読み心地が妙味であった。
 執拗に繰り返される偽装や剽窃のモチーフ…その変奏。失意にまみれたかつてのゴーストライターはとめどなく喋り続け、かと思うと、語り手の元恋人エバ・ヒロンをめぐる恋愛と結婚の経緯が、話の別の部分では重要な鍵となる展開を見せる。存在自体が幻想めいて語られるローレンス大佐の、恐るべき力も忘れがたい。先の読めない多面性に惑わされたけれど、その複雑さが読みどころで面白かった。
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