森福都さん、『双子幻綺行』

 『双子幻綺行』の感想を少しばかり。

 “宮廷に生きる少年に帰る場所はない。また、宮廷に在りながら、宮廷を遥かに超えて生きようとする少年には、耳を貸す必要のない杜鵑の呼びかけである。” 40頁

 ほう…と溜め息。とてもよかった。一見派手な作風ではないのに、あからさま過ぎない妖艶さが物語の隅々まで行き渡っている。情景はあくまでも美しいけれど、はや視界の端では毒蛇の鱗が小さく煌めいている…。そんな森福さんの中国物が、やはり私は好きだなぁ。舞台は武則天が周朝を打ち立てた唐、そして主人公は女帝に仕える15歳の宦官と女官、美貌の双子である。二人は後見者である洛州長史から命じられ、洛陽で起こる様々な事件の解明にあたる…。
 血を滴らせて啼くと言われる杜鵑の初啼きの日、宮廷付きの歌姫が喉から血を流して死んでいた。彼女の死の真相に迫る、一話目の「杜鵑花」。真紅に染まった池の様子から、視線が移ろっていくように徐々に紅躑躅の群れ咲く庭園を描く冒頭は、優美で残酷で素敵だった。放蕩者の大家の子息ばかりを狙う誘拐犯“人繭魔鬼”、探索の為に九郎は囮になるように言われる…、「蚕眠棚」。菊花酒を呑む習わしの雅な酒宴、そこに添える野菊を摘みに行く清爽な話が、黒く一転してしまう「菊華酒」。豪奢に身を包む女帝の老醜が鬼気迫り、巨大真珠の輝くような光沢との比が皮肉な「浮蟻珠」。など。

 才に恵まれながら宦官である為に鬱屈しがちな九郎と、兄を理解し支える明るくおきゃんな香蓮の、喧嘩をしつつ仲の良い姿にはほろりとしてしまう。あと、たおやかな名だたる妓女の彩娘が見せる、賢さとしたたかさ、最後の決断には惚れ惚れした。

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