オラシオ・キローガ、『野性の蜜』

 『野性の蜜 ――キローガ短編集成』の感想を少しばかり。

 “この地獄はいつになったら終わるのか。私は知らない。たぶん、奴らは望みのものを手に入れたのだろう。追いつめられた狂人を。” 7頁

 素晴らしい読み応えの短篇集だった。タイトに削がれた語り口に圧倒される。熱帯の太陽のもと死が濃い影を落とし、狂気が見え隠れする作品群はどれも濃厚で、物語の精髄を思わせるものばかりだった。鬱蒼とした密林の眺めに思いを馳せながら、苦い蜜も毒も心ゆくまで堪能した。

 一篇一篇の長さもまちまちなら、内容も多様な30篇が収められている。まず、一篇目の「舌」でもう、胸ぐらを掴まれ揺さぶられた。追いつめられた歯科医の復讐。かなり短い話なのに、怖い夢の中で足が竦んで逃げられなくなるときのように釘付けだった。いやむしろ、短いからより怖かったのかも知れない…。あっと言う間に上り詰めてしまう狂気が凄い。鮮烈に迫る。
 比較的長めの「転生」は、ブエノスアイレス動物園でテナガザルに話しかけられた主人公が、その言葉を理解したのが自分だけであることと、しかもそれが遠い記憶を動揺させることに、じわじわと恐慌をきたしていく話である。これは本当にサルが邪悪で、すごくよかった。そしてラストを読んでから始めに戻ると、ある部分で得心する。
 老バイオリニストが、情熱に人生を燃やし尽くしてしまった一人の少女の話を回想する「炎」も印象的な作品だった。マエストロからマエストロへ、語り継がれていくことになるのだろうか…と、ふと思いめぐらす。
 他に私がとりわけ好きだったのは、ダイエット愛に囚われた“僕”の顛末を描く「愛のダイエット」(可笑しいやら可哀想やら)や、人間として育てられたジャングルの虎の話「フアン・ダリエン」、毎晩映画の初映に立ち会う幽霊が恋人との経緯を語る「幽霊」、といったところ。そして表題作は、ただただ戦慄の一篇だった。 

 解説の中の、ボルヘスのキローガ嫌いの件も面白かった。

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6月21日(木)のつぶやき

07:04 from web
おはよございます。こーしーにゃう。窓を開けると涼しいなぁ。雨降りふりふりお尻ふりふり…(ふらんし)。
07:08 from web
松籟社の創造するラテンアメリカシリーズ、第2弾が意外と早い。「わたしの物語」セサル・アイラ著ですって、読みたい読みたい。
09:35 from web
ピランデッロ短編集も楽しみだけれど、「作者を探す6人の登場人物」と「エンリコ4世」を以前から読んでみたいと思っていて…。で、調べたら戯曲集がある。し、しかしちょっとあれは手が出せないわ。
12:03 from 読書メーター
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16:41 from web
夏至の国に住みたいと毎年言うけれど、雨降りでおまけに肌寒い今日は釈然としない。ぶうぶう。

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