計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

一人の「工学屋」のポジションから「局地気象」に向き合う

2012年01月15日 | オピニオン・コメント
 最近、ふと、再び考えているのが・・・「理学と工学の違い」。これを端的に示すと・・・

●理学は始めに「現象」ありき。
●工学は始めに「仕様」ありき。

 理学とは「自然現象の解明」それ自体が目的なのに対し、工学とは「これまで解明されてきた知識・経験・ノウハウ」を駆使して、要求された「仕様」を実現する事が目的です。

♪こんなこと良いな~、出来たら良いな~、あんな夢、こんな夢、いっぱいあるけど~・・・

 そんな要望やニーズを整理して、出来上がった「仕様」を実現するための仕組みや手段を開発していく学問が「工学」。そのために必要な材料や道具が数学や物理や化学等と言った自然科学の知識です。これが「理学」のテリトリーですね。

 理学にとっては「目的」であったとしても、工学にとっては「手段」であり「材料」・・・立ち位置が変わると、こうも意味合いも変わるわけですね。その意味では、「気象学」それ自体は「理学」でありますが、「天気予報」はどちらかというと「工学」に近いようにも感じます。しかし「天気予報」は、やはり「自然現象の挙動それ自体」を解明する事が目的なので・・・やっぱり「理学」のカテゴリーに入れといた方が良いかもしれません。それでは、私が関わっている「局地予報」はどうなるのか、と言いますと・・・気象学の知識は勿論、数学や物理学、その他の工学的手法を用いて、 「仕様」に基づいた予測情報を作り上げ、提供するものですから、これは迷うことなく「工学」です。

 それでも中には、気象庁や研究機関では数値予報モデルを運用しているのだから、それらの予測結果を使えばそれで良いではないか。市販の熱流体ソフトでも使えば事足りるではないか。改めて自前で独自数値モデルや予測技術を開発する必要があるのだろうか?そう思う人も少なく無いでしょう。

 確かに、気象庁や研究機関の数値シミュレーション技術や気象観測および予測技術は素晴らしいものがあります。しかし、それだけでは不十分です。少なくとも、それらのデータを基に、個々のニーズ=「仕様」に合わせて、必要なデータを処方し、加工して、提供する必要があります。しかも、「見た目だけを変えれば良い」という甘い問題ではありません。様々な予測モデルや予測手法がありますが、局地レベルの問題の複雑さはこれらのモデルの限界を超えているのです。そのため、予測対象地域の特性に見合った修正・補正を加えるなど、「有効なオリジナリティ」を加える事が必要なのです。民間の気象予報会社が提供する独自予報で考えれば、この「有効なオリジナリティ」が付加価値であると言っても過言ではないでしょう。私が関わっている「局地予報」とは、「仕様」を満足できる「気象情報」を実現するための「有効なオリジナリティ」を生み出す「工学」なのです。

 このように考えてくると・・・気象「予報士」とは、対象地域の局地気象特性を調べ、その知見を基に解析モデルを構築し、気象庁等から発表される様々なデータと組み合わせて予報できる人材であり、そのような独自の解析モデル(=広義には「自分なりの考え方」でも良いでしょう)をどれだけ有しているか、がその気象「予報士」の強さであると言えるでしょう。勿論、力学的、統計的、経験的、運動学的、概念的、などモデル構築の方法は幾らでもあります。つまり、大袈裟に言えば、気象「予報士」は気象に対して独自の解析モデルを持つ(=構築する)事ができるという事であり、それはすなわち、「他所の数値モデルを使えば良い」「自前で数値モデルを作る意味が無い」という問いかけは、実に奇妙に感じられるのです。
コメント (2)
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