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軌道エレベーターが登場するお話 古典(3) 超時空世紀オーガスほか その2

2023-07-21 22:49:22 | 軌道エレベーターが登場するお話


超時空世紀オーガス
毎日放送、東京ムービー新社(1983年)
超時空世紀オーガス02
バンダイビジュアル、ビッグウエストほか(1993年)

その1はこちら
 
2. ストーリーについて
 さてお話の中身の紹介。今回は最後までネタバレしますので、未視聴の方はご注意下さい。前回説明した通り、2061年、軌道エレベーターの所属を巡る紛争において、時空震動弾を発動させた主人公・桂木桂は、幾つもの並行世界が入り交じった20年後に飛ばされます。

 20年後の地球には、経済活動重視の「エマーン」、軍事国家「チラム」、人類が滅んで機械だけが存続する「ムー」など、それぞれの時空で発展してきた文明が混在し、衝突を繰り返す状況にあります。ちなみにチラム人は私たちの子孫です。
 各地で不定期に大地が消失し、別の時空と入れ替わってしまう時空転移現象が頻発している上、高度150mから上を覆う「相剋界」によって温室効果が加速しており、いずれ人間が生存できない高温になると予測されています。このため時空混乱の解決が急がれるというわけ。

 そんな中に出現した桂は、エマーンの隊商に拾われて仲間入りするのですが、「特異点」と呼ばれて各勢力に追われる身となります。特異点というのは物理学や幾何学などでそれぞれ意味を持つ用語で、特にブラックホールで物理法則が破綻するポイントとして有名ですね。本作では時空混乱を引き起こした元凶としてこの呼称が使われています。

 そして宇宙空間では「大特異点」が地球を周回しています。その正体は時空震動弾の本体で、地上で起爆させたのになぜか宇宙にあり、特異点と大特異点が接触すれば時空を修復できると考えられている(ただし、たった一つの世界しか存続できない可能性がある)。使徒がアダムと接触してサードインパクトが起きるみたいなものですね。そこでエマーンの上層部は、特異点=桂を本国に護送するよう隊商に命じ、彼を奪おうとするチラム軍と闘うことになります。

 チラム軍には、桂の親友で彼より5年早くこの世界に飛ばされた、もう一つの特異点でもあるオルソンがいました。詳細は省きますが、オルソンは桂と再会後チラムを脱走。2人で大特異点に行くため、軌道エレベーターへ向かいます。
 最後は機械文明のムーが敵となり、敵陣を突破して軌道エレベーターを昇り、宇宙に到達。大特異点に着くと、その中は時間が停止しているのか、それとも20年前につながっているのか、とにかくも時空震動弾発動直前の状況が現出していて、そこに20年前の桂とオルソンがいました。
 現在の2人は過去の自分たちを止めようとし、4人で銃を向け合って撃つ。。。それで時空は再び分裂したらしく、色んな世界で色んな人生を送る主人公たちの短いカットで終了。
 この結末、当時よくわからなくてモヤモヤしたものです。てか今もよくわからないんですが、色んな解釈ができる仕上がりなのだと受け取っています。これぞ文字通りの多世界解釈。


3. 番組不振の主因は何か?
 本作は「超時空要塞マクロス」の後番組でしたが、好評で放映期間を延長したマクロスに対し、本作は確たる人気を得られずに終わりました。当時のアニメとしては新しいSF要素を盛り込んだ斬新な作品ではあっても、シナリオが昭和のフォーマットのせいか、現在の視点で観るとやっぱり展開が冗長で盛り上がりに欠ける。

 古いアニメを観るというのはそういうことなんだ、と割り切ってはいるものの、本作は主人公が軽薄かつ独りよがりな性格で、いつになくツッコミ甲斐に欠けるんですよね。桂はヒロインのエマーン人ミムジィと結ばれるのですが、彼は諸星あたるみたいな無類の女好きです。20年前に妊娠させた恋人の娘が敵として登場し、その娘の前でミムジィとイチャつく。
 元はといえば、撤退命令を無視して不完全な状態で時空震動弾起爆を強行した自分に、すべての原因があるにもかかわらず、自覚と責任感を欠く姿には、いまいち好感を持てない。

 とはいえ、本作の不振の最大の原因はズバリ、主役メカが個性的過ぎたせいじゃなかろうか? 放送40周年の今年、こんな商品も発売されてますが、デザインがマニアック過ぎるというか。。。敵メカも障害物競走のバーが空飛んでるみたいだったし。
 マクロスに登場するバルキリーの美しさ、カッコ良さときたら、当時の少年たちの心を鷲掴みにした歴史的偉業でした。その後登場したオーガスのデザインを見ると、なんかアール・デコからアール・ヌーボーになった感じ? 実際の芸術史とは順序逆だけど。
 個人的には嫌いじゃないんだけど、鳥みたいな小さい顔付きやら有機的な曲線のフォルムやら、これに主役を張らせるのは数十年早いというか、挑戦を通り越して無謀だったんじゃないかと。デザイナーの宮武一貴氏は、同時期の「聖戦士ダンバイン」も担当されていました。うん、オーラバトラーとしてそっちに登場してたらなじんでたと思う。

 マクロスの二番煎じを狙わなかった姿勢には敬服します。しかしオモチャが売れてナンボの世界。玩具メーカーのタカトクトイスは完全変形するバルキリーの玩具を発売して大儲けし、私も買いました。続いてオーガスの可変トイも発売したところ、こちらは売れ行きが思わしくなく、倒産の原因になったとか。1作目で大繁盛し、後番組に命脈を絶たれるいう浮き沈みの激しさ、なんと世知辛い世の中か。。。(´;ω;`)


4. 本作における女性の扱い
 本筋とは別の話になりますが、もし本作を今TV放映したら、厳しい批判を受けることでしょう。
 本作に登場するエマーンは、女性が17歳を過ぎると出産できなくなり、その後は周囲に女性扱いされないというか、男性と性差を持つ存在としては意識されなくなる社会が成立しています。

 脚本やシリーズ構成を担当した松崎健一氏は、並行世界を扱った理由について「『人類とはまったく違う種族も存在する』(中略)という想いも多少は込めていました」と、今年収録のインタビューで振り返っておられるのですが、女性を子どもを産む道具にしか見なさない描写は、当時も(アニメファンの間では)議論を呼びました。ジェンダーが社会問題化しているSNS全盛の現在では非難必至でしょう。
 
 子どもを持たない女性の生き方を支持する場面はあっても、ミムジィは結局は桂の子を懐妊し、なんだかんだ言いいつつエマーン人の型にはまってしまう。男性から見ても、面白みのあるキャラクターではなかったです。今ならそんな価値観を否定し自立するといった真逆の展開になるんじゃないかな。
 放映当時、桂に従う少女の容姿をしたアンドロイド・モームのほうがミムジィより人気があって、アニメ誌の表紙を何度も飾っていたようです。単にロリコンに受けただけでしょうが、狙いはどうあれこういう要素もあるから、本作は「男が男のために作った作品」と受け取られるでしょう。

 恐竜が絶滅せず知的生命に進化した世界とか、石器時代の人みたいな野蛮人の世界とか、ほかにも色々な文化や慣習、生物学的特徴などを描いてはいるのですが、エマーン人の女性観だけピンポイント過ぎて浮いている。ジェンダーを巡る議論に参加するつもりはありませんが、本作のヒロインら女性の位置付けは、私たちの社会に元々ある旧時代的な価値観を増強しただけという感じがしました。
 ざっくり調べてみたところ、本作はVODで配信などやってないみたいなんですが、この設定のせいもあるんじゃないかな。

 エマーン人女性の扱いをめぐる本作の世界観は、いたずらに女性ファンの不興を買ったのではないか。ただし続編「オーガス02」にその子孫が登場するので、結果として設定が生きたことにはなります。そのオーガス02については次回に。ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。
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