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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道エレベーターが登場するお話(22) 東京軌道エレベーターガール

2021-03-07 11:00:26 | 軌道エレベーターが登場するお話

東京軌道エレベーターガール
吉田正紀 中林ずん
(2019年 小学館)



あらすじ 人間ならだれでも一度は夢を見る宇宙への旅路。これは超巨大輸送機関と謎のエレベーターガールが贈る不思議な不思議な物語(サンデーうぇぶり紹介文より)

 東京に建つ軌道エレベーターが舞台のコミック作品です。率直に言うと、本作には軌道エレベーターの理解普及を広げてほしいと願っていただけに、少々残念な内容でした。親しみやすい物語ではあるものの、物理的に間違った描写も含め、軌道エレベーターをあまり活かせてないと感じました。
 リアリティを重視した作品ではないので、その辺は仕方ない部分もありますが、とにかくもまずは考察を。


1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作の時代設定は現代ですが、私たちとは別の歴史をたどり、軌道エレベーターが完成している世界です。



 タイトル通り、作中に登場する「東京軌道エレベーター」は、東京タワーを連想させるデザインの地上基部が東京にあります。多くの人がやって来てわくわくしながら展望台に昇るという、東京タワーやスカイツリーと同じような、訪れる人たちの期待感を物語のイメージとして重視しているのがうかがえます。

 主な施設として静止軌道に「中軌道ステーション」、末端に「高軌道ステーション」が設けられており、このほかにも小規模な付帯施設が色々あるようです。厳密にいうと、静止軌道は「中軌道」には含まれませんが。
 こうした施設がケーブルで結ばれ、この間を「ゴンドラ」が行き来しています。このゴンドラを操作するのが主人公、エレベーターガールの石刀伊奈(いわと・いな)。物語は伊奈を軸に、東京軌道エレベーターを訪れた人たちのふれあいなどを描いています。ちなみに搭乗料金は100万円くらいだそう。
 
 少々ネタバレしますと、伊奈は人間ではなく、時空を超越した存在であり、特殊能力を有しています。東京軌道エレベーターは、伊那にもたらされたオーバーテクノロジーか、あるいは伊奈自身の能力に依存して維持されているらしく、「詳しいスペック何も公開されて無い」。彼女が人間ではないことを知るのは、国家元首など一部の人々に限られています。ちなみに伊奈さんゴンドラではずっと立ちっぱなしで仕事してます。

 なお、作者の吉田正紀氏は2年前に宇宙エレベーター協会の座談会に出席されており、その時のお言葉によると、全長は4万7500kmくらいとのこと。また東京軌道エレベーター以外にも、少なくとも5基の軌道エレベーターが稼働しているほか、過去にテロで破壊されたこともあるそうです。


2. 軌道エレベーターに関する間違った描写
 先に弁解しておくと、本作はあくまでキャラクターのドラマ重視であって、軌道エレベーターの科学的妥当性は二の次ということは理解しています。少年誌のコミック作品に理屈でツッコむのも無粋ですが、一応、作中に登場する軌道エレベーターを検証してみます。

 なお本作には「雰囲気優先で、あえて間違った描写をしている」という点もあります。その一つが、日本に地上基部が造られていることで(まったく不可能という話ではないですが)、あえて東京に設定したという意味のことを、作者ご自身が述べておられます。
 ほかの間違った描写も意図的な表現という可能性もあるので、ここでは「意図や理由は不明だけど、軌道エレベーターの描写としては間違っている」という点を列挙します。

(1)ゴンドラが止まると無重量状態になる
 中軌道ステーション=静止軌道以外の場所で、人工衛星接近などの緊急事態により「エレベーターを一時停止し、無重力状態に入ります」と伊奈がアナウンスし、乗客が動揺するシーンが複数あります。
 言うまでもなく、静止軌道以外ではこのようなことにはなりません。静止軌道にある程度近ければ、ほぼ無重量状態にもなるでしょうが、高速で接近する物体との衝突可能性からしても静止軌道付近ではないと思われ、後述の理由からも理解に苦しむ描写であります。


(2) 以下の場面
 一番首をかしげるのが、以下のいくつかの場面。



 これら全部高軌道ステーション、つまり静止軌道より上の位置での描写です。中央の絵はステーション内でお茶しながら地球を見下ろしている。左右はステーションの、いわば屋上に出て宇宙を見上げています。基本原理を理解している人ならおわかりでしょう。重力が働く向きがあべこべなんです。
 静止軌道から上は、地上とは重力が逆向きに働きます。ガンダムのスペースコロニーの中と同じ状態です。しかし本作では、本来なら頭上に地球が見えていなければいけないところを、こういう向きに人が立っている↓


 
 基本原理に対し真逆の描写であり、さすがに「これで軌道エレベーターと言えるだろうか?」と思いました。伊奈は「上へまいります」というのが決め台詞&決めポーズなので、末端まで向きを「上」にしたかったのかも知れませんが。
 むしろ「重力が逆に働くなんて不思議だね」なんて感じで、軌道エレベーターならではのネタにしてほしかった。こうした点に、軌道エレベーターというガジェットを活かし切れていないと感じて勿体ない気がします。

(3) 静止軌道以外で宇宙遊泳をしている
 末端にある高軌道ステーションや、途中停止したゴンドラの周囲など、静止軌道以外の高度で宇宙遊泳したり、小型の宇宙船が軌道エレベーターの周りを自由に飛び回っている場面がいくつもある。
 これも不可能な話で、本作の高軌道ステーションの場合で言えば、ステーションから手を放した瞬間、軌道エレベーター自体の角運動量の一部を受け継いで、第2宇宙速度で放り出されてしまいます。

(4) 高軌道ステーションが破壊されて地上に落ちると騒ぐ
 第35話で、高軌道ステーションが破壊されるというニュースが飛び交います。破壊自体はデマと判明しますが、一時乗客がパニクります。これも言うまでもなく、壊れても地上に落ちることはありえません。
 むしろ心配すべきは、高軌道ステーションより下の構造体の方で、カウンターマスを失った軌道エレベーターは、コリオリ力に伴い、地球に東向きに巻きつくように倒壊する可能性があります。

 ほかにも中軌道ステーションにいるのに無重量状態になってないなど、ぶっちゃけ正しく描写している箇所の方が少ないようにも見えます。ちなみに軌道エレベーター以外でも、宇宙空間の軌道運動の描写はほとんど間違っています。

 しかし。

 しかし、です。「重力制御」というキーワードが登場するんです。少なくともゴンドラにはその装置があり、伊奈自身も重力を操作できます。ということは上記に挙げた点は重力制御の結果なのかも知れません。しかしそれならそれで、新たな疑問が生じる。
 上記(1)で「理解に苦しむ」と書いたのはこのことで、重力制御ができるなら(1)の状況で使えばいいじゃないかと思うし、実際、45話で途中停止したゴンドラで重力制御装置を使ってるんです(終盤に登場した新型ゴンドラの装備だが、なぜか下降時に重力制御しているというセリフが19話にあり、旧型にも装備されていると思われる)。

 そもそも重力をコントロールできるなら軌道エレベーターの意味ないだろ。重力制御について知っているのはわずかな人たちだけなのかも知れませんが、そしたら静止軌道より上で、重力が逆向きに働くことをおおっぴらにできるとも思えない。

 とにもかくにも、故意か単なる間違いかは不明ですが、軌道エレベーターについて正しくない描写が多く、本作は軌道エレベーターの理解に役立つ作品とは言い難いです。

 色々あげつらいましたが、上記はあくまで理屈に沿った、いわば正誤判定です。作中にはデブリ回収や無重量状態でのチョコ作り体験、建造中のケーブル落下事故など、軌道エレベーターならではのネタもあり、特にゴンドラで宇宙まで上昇する動画を撮るなんてのは素晴らしいエピソードだと思いました。こうしたネタがもっとほしかったです。
 そして何よりも、一般の人が地上からエレベーターで宇宙へ行ける、というのはやはり軌道エレベーターだからこその持ち味であり、これを漫画で描いてくれたのはとても喜ばしいです。


3. ストーリーについて
 ストーリー展開でも、軌道エレベーターに関し残念な点があります。もともと、スレッカラシになってしまったオッサンには、本作のようなハートフルなストーリーの類は少々物足りないのですが、個人的な好みは抜きにしても、惜しまれる点があります。
 一つは軌道エレベーターに関係ない話が多い。東京軌道エレベーターで昔の大切な人と再会したとか、将棋の棋士が宇宙空間を投影したゴンドラ内でリフレッシュするとか。重力のある所でやってるので、これ、プラネタリウムに行ったのと変わらないでしょ。
 いま一つは、登場人物が宇宙から地球を見下ろした瞬間、憑きものが落ちたように柔和になって一件落着、というパターンが多い。2話連続で同じオチもある。

 ただし、軌道エレベーターから明後日の方向に進んでしまうものの、本作は全編を通じて物語の構造はしっかりしており、キャラクターと動機づけ、メインテーマやメッセージ性、伏線とその回収などの要素が、一貫性のある展開にきちんと盛り込まれていて、漫画の王道を行っていると感じます。

 またネタバレですが、本作では地球で人類が繁栄するこの宇宙が、実は消滅の危機に向かっており、この危機を回避するというストーリーが、東京軌道エレベーターを訪れた人々と伊奈とのかかわりを中心に描くエピソードの裏で、少しずつ進んでいきます。

 私たちの宇宙のほかに、平行世界における別の宇宙で人類は別の歩みをたどっており、それぞれの宇宙で人類と接点を持つ「干渉者」がいます。伊奈はその1人です。なぜか全員女性です。
 宇宙の消滅には、人類文明の進歩が関係しているらしく、伊奈は姉妹のようなほかの干渉者と共に、それぞれの宇宙がビッグクランチに向かわないようにする役割を担っており、文明にどの程度干渉すれば危機を回避できるか見定めるという、社会実験のようなことをやっています。
 地球人にしか干渉しないところを見ると、地球以外に知的文明は存在しないということですかね?

 伊奈は自分が受け持つ宇宙(たどった歴史は異なるが、一応私たちの世界に一番近い)に対し、ほとんど干渉せずに自由意思を尊重しています。ほかの干渉者と対照的に、主人公の人を信じる心や、それに応えようとする人類の思いを描くのも本作の主題と言えるでしょう。
 そうした状況において、軌道エレベーターを含む人類の宇宙進出が何者かを刺激し、宇宙消滅の危機が高まっていきます。その末に迎えるラストは、読んで確かめてください。
 個人的には、記憶を操作して人類に干渉する永遠子にまつわるエピソードが良かったです。ちなみに伊奈さん、昭和期(?)に百貨店にエレベーターガールとして勤務していた経歴があるのですが、給与所得があったんだからちゃんと納税してたんだろうな?

 軌道エレベーターの理解には役立たないと書きましたが、漫画という手軽に読めるメディアで軌道エレベーターを取り上げた作品として、知るきっかけを与えてくれるという位置づけの作品になるととらえています。本作を機に、軌道エレベーターに興味を持ってくれる人が増えてくれることを願います。

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軌道エレベーターが登場するお話 番外編 ACE COMBAT7 SP MISSIONS

2021-02-13 11:21:11 | 軌道エレベーターが登場するお話
ACE COMBAT7 SKIES UNKNOWN SP MISSIONS
(エースコンバット7 スカイズ・アンノウン スペシャルミッション)
バンダイナムコエンターテインメント(2019年)

あらすじ エルジア軍の新鋭潜水艦「アリコーン」が反乱・逃亡。艦長のマティアス・トーレスは「1000万人救済計画」の遂行を図る。計画を止めるため、トリガーらロングレンジ部隊が立ち向かう。大人気ゲームの追加ミッション。

 以前紹介したエースコンバット7の、キャンペーンモードの有料DLC追加ミッションです。当初ほかの作品を取り上げるつもりだったのですが、本編が全世界での売上が250万本を突破したというので記念に一筆。
 以後、この追加ミッションを「本作」、一般販売されている、20ミッションからなるキャンペーンモードを「本編」と呼びます。

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 とにかくも大ヒットおめでとうございます。で、国際軌道エレベーター(ISEV)については本編紹介時に解説済みで、本作では地図上に出てくるくらいで直接登場はしません。すまんな (`·ω·´)

 代わりに内容の概説を。本作は、本編におけるミッション13と14の間にあたるサイドストーリーです。1ミッションずつでもDLしてプレイできますが、エルジア軍の超大型潜水艦アリコーンを敵とした3部作になっています。

 このアリコーン、エスコン名物のトンデモ超兵器で全長492m。世界最大のアクーラ(タイフーン)級原潜の3倍弱。マクロスクォーターよりでかい。バラストタンクの容積どのくらいあるんでしょうね。
 艦載機の発着機能を持つ、事実上の潜水空母であり、SLBMなどの戦略兵器は積んでない代わりに艦載機に巡航ミサイルを搭載できるほか、超大型レールキャノンで砲弾を戦略的距離で発射できます。ちなみに魚雷発射管がなくて潜航中は攻撃できないみたいです。設計思想が理解に苦しむ。

 この艦のトーレス艦長がイッちゃってる人で、潜水艦ごと反乱逃亡し、救済と称してオーシアの人民を大量虐殺しようとするのが全体のお話。各ミッションには、本編とは一味違うプレイ機能もあってかなり楽しめます。

2. プレイ感想
SPミッション1
 最初のミッションはアリコーンを出航前に拿捕する作戦。航空優勢を確保するのが目的で、本編のクライマックスよりも大規模な空戦が展開されます。
 このミッションで面白いのは、中盤で電子戦をサポートする支援機が戦場に到着し、マップ上に示される有効範囲内に入ると、ミサイルの命中精度とスピード、リロードなどあらゆる性能が格段に向上するんですわ。
 ミサイルというより砲弾を連射している感じで、撃てばすぐ当たるから、これが快感! しかし命中精度はわかるけど、電子的支援でミサイルのスピードが上がるというのは、どういう原理なんでしょう?
 ミッション後半では「ミミック隊」という、これまた殺人ジャンキーな姉弟パイロットが登場し翻弄されますが、撃墜はできず痛み分けで終わります。クリアしても作戦自体は失敗し、アリコーンは潜航・逃亡します。

SPミッション2
 2戦目は、港湾のイージスアショアや艦船の殲滅戦。好きなだけ補給ができるのが私好みでした。
 後半でミミック隊が再登場するのですが、こちらのレーダーや兵器誘導をジャミングする上に、2機がヒラヒラと舞う木の葉のような機動をするものだから、とにかく撃墜が困難です。個人的には、この2機との交戦中にかかるBGMが、本編とは一味違うノリのいい曲で良かったです。
 ミミック隊を倒すとクリア。アリコーン自体は登場しないものの、戦闘にいそしんでいる間にアリコーンに核搭載の余裕を与えてしまうことになります。

SPミッション3
 アリコーンを深海からあぶり出し、戦術核をオーシア首都に発射しようとするのを阻止して決着をつけるミッション。
 対艦攻撃やら対地爆撃やら弾道ミサイル撃墜やら、たった1機の戦闘機に何でもやらせるエスコンですが、今回は対潜哨戒機の仕事をさせられます。
 アリコーンが潜む海域の上を飛び回って磁気感知で位置を特定。アリコーンが水中から無人戦闘機を発艦させ、友軍の対潜哨戒機を攻撃するので、広い海域を行ったり来たりして守るのがけっこう大変です。
 探知後はアリコーンが浮上と潜航を繰り返し、潜航中は無人機と空戦、浮上したら対艦攻撃し、追い詰められたトーレス艦長は降伏するフリをするという海江田艦長みたいな真似をして時間を稼ぎ、レールキャノンを展開して核を発射しようとします。
 原理不明なバリアを回避しながら、キャノンの根元にある使徒みたいな「コア」(何なんこれ?)を艦前方から狙って破壊すると撃沈。ちなみにクリア後に調子こいてキャノンと艦体のすき間をくぐろうとすると、仰角を維持する力を失ったキャノンがパタンと下りてきて潰される危険があるのでご注意を。
 以上、全体として、本編を経験した人向けに難易度の高い内容になっていました。

余談
 ついでに触れておきたいのが、追加DLCとして購入できる架空の機体「ADF-11レーベン」。本編の最後に敵となる無人機と同じ機体なのですが、なんとファンネル、じゃなかったウェポンUAV(無人攻撃機)が使えるんですよ。
 主翼下にUAV2機を搭載しており、ロックオンするとピューンと飛んでいって、敵を追い回してレーザー攻撃してくれます。一定時間経過したら、突如パイロンに復活します。帰ってきたのか沸いて出たのかは不明。計24基分使えます。

 1回の攻撃力は大したことないのですが、少しずつ確実に敵にダメージを与え、数回使えばほぼ撃墜できます。上記のミミック隊や、本編の敵エースパイロット・ミハイのように、到底ついていけないアクロバティック飛行をする相手には持ってこいで、見事にくらいついてくれます。あとは見てるだけでいい。
 こうした敵の凄腕パイロットや無人機などは、ミサイルを撃っても避けまくり、こっちは撃たれたミサイルを回避するのに必死でストレスが溜まるのですが、この機体を使えば形勢逆転。あのミハイが回避運動に追われる様を見て積年の恨みを晴らすことができ、「いいザマだぜハハ! (`∀´)」と天狗になっちゃいます。
 ちなみに本体の機銃もレーザーで、バルカン砲より弾数も威力もあります。
どうだ、プレイしたくなったろうSS木君!

3. ストーリーについて
 本作では、情報分析官のデイヴィッド・ノースと対話式のAIが語り部になっているという、本編とは違うテイストに仕上がっていますが、本編同様、人物の動機づけなどはやや薄味。
 特に殺人狂トーレス艦長は、「1000万人だぞ!」などと大声で叫びまくるあたりがファナティック過ぎて逆に狂気に見えず、「このおじさん何言ってるのかわかんない」という感じで痛い人っぽくなってしまっているのが少々残念でした。メメントモリとでも言えばいいんでしょうか、彼は1000万人の虐殺が救済になるという自己の美学にこだわっていた節がありますが、狂気や美学にはもっと理知的な雰囲気を宿らせた方が雰囲気が出ると思うのです。
 幅広い年齢層がプレイを楽しめることが優先だから、こうした過剰演出は仕方ないかな、とも感じます。

 しかし、本編をACEモードまでやり尽くし、「もっとプレイしたい!」と飢餓感にさいなまれていた私としては、本作は天の恵みのようでありました。できることならさらに追加DLCミッションを作ってほしいものです、軌道エレベーターの登場もよろしく。バンダイナムコさん、期待しています!




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軌道エレベーターが登場するお話(21) アンドロメダ病原体 -変異-

2020-07-11 22:39:33 | 軌道エレベーターが登場するお話

アンドロメダ病原体 -変異-
マイクル・クライトン ダニエル・H・ウィルソン
(2020年 早川書房)


あらすじ 未知の病原体により多数の死者が出た「アンドロメダ事件」から半世紀。密かに再発を監視し続けてきた米軍は、ブラジルのジャングルにその兆候をとらえる。映画化もされた人気作品「アンドロメダ病原体」の続編。

新型コロナウイルスが蔓延するこの時期に、あの「アンドロメダ病原体」の新作続編が登場。今回は最後までネタバレしてますので、未読の方はご注意下さい。

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作では、かつて一つの町が犠牲となった致死性病原体「アンドロメダ因子」(前作では「アンドロメダ菌株」)がブラジルで再発見されます。しかし今回はアンドロメダ因子を、病原体ではなく一種のナノマシン兼ナノ素材として描いていて、因子が増殖して軌道エレベーター(作中表記は「宇宙エレベーター」)になりました、というお話です。



 すべては国際宇宙ステーション(ISS)に常駐する研究者、ソフィー・クラインという人物の仕業で、彼女がアンドロメダ因子のサンプルをナノマシンに変異させます。
 具体的説明がまったくないんですが、もともと因子の構造中にその方法が隠されていたらしく、彼女はそれを使って、地上ではブラジル・アマゾンの奥地で、曝露事故を装って因子を増殖させ、地上基部となる塔を形成。
 一方クライン自身はISSを乗っ取って静止軌道に遷移させ、そこから極細のテザー状(作中では「リボン」とも呼ばれる)に成長させた因子を地上に向かって繰り出し、やがて地上基部とドッキングさせて、軌道エレベーターのプライマリーラインを造り上げます。

 ISSを静止軌道に遷移!? ( ゚д゚ ) とこの時点でツッコミ所満載なんですが、その辺は後述します。彼女はISSを静止軌道より少し上に位置づけてカウンターマスとし、その後も、断続的に推進器で上方に加速させながら少しずつテザーを成長させ続けます。

 なお、地上基部と化したアンドロメダ因子の塊は、秘密裏に建設した水力発電所の上に構築されるのですが、そこにテザーを上昇するためのクライマーや、減圧なしで利用できるらしい新型の宇宙服(本作では与圧服と船外宇宙服の区別がついていない)が用意されています。
 で、塔の調査チームの2人がクラインの暴挙を止めるために、クライマーに搭乗してISSへ上昇します。

 このクライマー、時速1万2000kmの昇降性能を持ち、地上からわずか4時間でISSに到達。秒速にすると3.3kmなんですが。。。リニア式ならまだしも、テザーをグリップする方式でスピード出すんですから、軌道エレベーター自体よりこっちの方がハイパーテクノロジーです。ちなみにISSからの帰還時には、数秒でトップスピード達しました。

 いや死ぬだろ中の人。

「数秒」が最大の9秒だとして、その9秒間に約40Gの加速度がかかり続けることになる。訓練した人でも耐えられるのは瞬間的に10Gくらいが限界だと言われています。数値か翻訳の間違いじゃないかと原書も確認しましたが、本当にこの通りでした。( ̄▽ ̄); これ作者は真面目に書いてるのか?
 終盤は、ISSでアンドロメダ因子の増殖が制御不能となり、テザーを切断して宇宙に放出します。。。が、間違いだらけ。

「地表側でリボンを切断した場合、その衝撃がリボン経由で伝わって、
 ISSの微妙な軌道制御が崩れ、リボンの重みでISSがゆっくりと地球に引っ張られ、
 破壊的な再突入にいたる」


 何をどうしたらそうなる? 本作で形成される軌道エレベーターは、静止軌道を挟んでISSの側の方が重いということが、以下の図付きで明言されています。



ということは、地上側でテザーを切り離しても、質量中心は静止軌道よりやや上に存在するため、全体が少しだけ上昇します。そこが遠地点高度となり、静止軌道高度を近地点とした、静止軌道とほとんど重なる楕円軌道に遷移するはずです。
 衝撃波が伝わろうと、切り離されたテザーが予測不可能な挙動をしようと、切断後は閉じた系になるので、軌道運動のエネルギーに変化は与えません。本作のこの状況で、ISSが地上に落ちることは、物理的にありえないと断言していいでしょう。これは軌道エレベーターの基本です。

 終始こんな感じで、軌道エレベーターの基本原理を無視したり捻じ曲げたりして(それとも単に理解してないのか)、望んだ結末に強引に持っていこうとする意図が、文章から伝わってきます。こと軌道エレベーターの描写に関しては「雑」の一語に尽きる作品です。 


2. ストーリーについて
 前作の読者の間で、本作は賛否両論がはっきり分かれるでしょう。言うまでもなく私は「否」の方です。だってねー、

 「アンドロメダ病原体」の続きが読みたかったんだよ私は。

 前作「アンドロメダ病原体」は、老人と乳幼児の2人を残し、感染によって町の住民が一夜で全滅した謎や、病原体のメカニズムの解明、そしてアウトブレイクにつながる核の使用を回避する、というドラマです。
 「いかに感染し死に至らしめるのか?」「なぜ老人と赤ん坊だけ助かったのか?」といった謎が、読者を引きずり込む面白さがありました。映画化もされ、私のような昭和生まれのSF好きなら一度は観たことがある、古典SFの超有名作品です。

 前作を夢中になって読んだので、「『アンドロメダ病原体』の続編、マジか!?」と刊行に驚喜しました。しかも新型コロナに脅かされているこのご時世になんとタイムリーな! 前回よりも大規模なアウトブレイクの引き金が引かれてしまい、現代の人類がいかに対処するか、という物語を期待していました
 で、読んでみたら、アンドロメダ因子が再発生するあたりのツカミは最高に面白い。。。が、感染の問題はそっちのけで、アンドロメダ因子が増殖して塔を形成し、ISSが無茶苦茶な軌道遷移をしたあたりから、「あー軌道エレベーターを造るつもりだなー、またこのオチかー」と先が読めてしまった。

 本作は、勿体ぶった展開やケレン味ある表現に「軌道エレベーターというアイデアを導入して、壮大な結末にスケールアップしてやったぜ」という作者の感情が透けて見える気がします。
 アンドロメダ因子は、輻射を自己増殖のエネルギーに直接変換できることが、前作で示唆されているので、この設定を軌道エレベーターのテザー生成に使うアイデア自体は面白い。
 しかし、人知に依らず軌道エレベーターができちゃった、というこの展開、「緑の王 VERDANT LORD」(たかしげ宙、曽我篤士 2004年)や「南極点のピアピア動画」(野尻抱介 2012年)など、日本では意外性のあるネタでもなく、食傷気味なんですよね。米国でも「地球の長い午後」(ブライアン・W・オールディス 1962年)があるし。
 本作は特に、「緑の王」と展開が非常に似ています。ある日突然、世界中の植物が意思を持って動き出し、人類社会を蹂躙した挙げ句、赤道上の1点に集まって、宇宙に届く柱が完成します。
 作中で「軌道エレベーター」と呼んでいるものの、昇降システムが付いてないから単なる塔なんですが、とにかくその塔自体が宇宙へ飛び去っていきます。本作はこの辺の展開もよく似ています。

 本作の最後は、暴走したアンドロメダ因子が「もののけ姫」の祟り神のように、クラインの肉体やISSを浸食していきます。「これが地上に降りてきたら人類はおしまいだ!」とパニックになり、テザーを切断。因子の塊が地球引力圏を脱して飛んでいくという(この辺も物理的におかしい)、B級映画のような結末になります。
 ある意味、マイクル・クライトンのテイストを引き継いでいるのかも知れませんが。


3. ソフィー・クラインのルサンチマン
 本作で一番ストレスが溜まったのは、軌道エレベーター建造を目論んだソフィー・クラインが万能すぎることです。難病を抱える彼女は、努力して学者となり、ミッションスペシャリストとしてISSの専用モジュールでアンドロメダ因子の研究を行うのですが、

● アンドロメダ因子を変異させ、軌道エレベーターを建造するプログラムを仕込むか解放するかして、ナノマシンに作り変える
● ISSの制御を乗っ取って、静止軌道に遷移させる
● ブラジルの熱帯雨林の中に、軌道エレベーターの地上基部となる水力発電所を建設
● 時速1万2000kmの昇降性能を持つクライマーを開発
● NASAの新型宇宙服を入手

──これらすべてを1人で、しかも極秘裏に手はずを整えます。しかもだいぶ前からISSに滞在していたにもかかわらず、どうやったのかまったく説明はありません。資金源も不明。
 彼女から命令もしくは発注を受けて働いた人は若干いたようですが、関係性は不明で、彼女と目的を共有する思想的シンパは1人も登場しません。これだけ大規模な非合法活動に、各国の政府も軍も宇宙機関も、まったく気づいていませんでした。

 ISSの軌道遷移では、クラインは地上管制の軌道計算サポートもなく、ISSにドッキングしている輸送船「プログレス」と、「ズヴェズダ」モジュールの推進器を使い、静止軌道にホーマン遷移をさせます。

 確かにどちらも、軌道が下がったISSを持ち上げるのに使われたことがあるのですが、低軌道から静止軌道へのホーマン遷移には、500tあるというISSに約4km/sの増速(Δv)を与える必要があります。静止軌道シフト後も断続的に加速して上昇を行っていて、どれだけ大量の推進剤を積んでたんだよ。
 ちなみに静電加速式の推進器も併用しているという記述があります。私の不勉強ならすみませんが、ISSにそんなもん積んでましたっけ? それに何の物質をイオン化して推進剤にしたのか記述はありません。

 静止軌道のブラジル直上に位置した後、クラインはアンドロメダ因子を増殖させてテザーを伸ばしますが、仮に秒速1mで伸びたしても、地上に到達するまで400日以上かかるのに、いつの間にか地上に到達しています。終盤でクライマーを超えるスピードで増殖してるからあっという間なのかも知れませんが、この辺も具体的記述なし。

 こんな感じで都合の悪い部分は触れずにごまかしている部分があまりにも多く、「面白ければ細かいことはいい」と帳消しにできるほど楽しめもしませんでした。

 なお、クラインはこうした行為の動機について「人類の解放」など大仰な台詞も吐くのですが、結局のところ彼女を突き動かしていたのは、世界に対するルサンチマンだったようです。
 彼女は誰に対しても終始上から目線です。体が自由に動かない難病を抱えながら、人の何倍も苦労と努力を重ね、挑戦と克服を続けてきた彼女にとって、世俗の怠惰な人々は許しがたい存在であり、どうしても下に置きたい軽侮の対象なのでしょう。
 アンドロメダ因子で軌道エレベーターを造り、否応なしに人類の新しい扉を開くことが、そのはけ口となった。この点は本作に好印象を抱ける部分で、ことの大小にかかわらず、何かを成し遂げる第一動因は、正負を問わず人の情熱である方が説得力を感じます。
 彼女はアンドロメダ因子に浸食されても、己のエゴを捨てませんでした。そのブレないキャラだけは、本作の個性だと思いました。

 久々に長筆となりました。本作は人気作の世界設定を受け継いでいるのに、明後日の方向に行ってしまい、色々勿体ない気がしてなりません。ただし映画化には向いてるんじゃないかな。今回は毒舌全開に書きましたが、それでも興味のある方はご一読を。
 最後に一言、話題になった土星の謎めいた六角形の極冠、アンドロメダの仕業らしいです。

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軌道エレベーターが登場するお話 番外編 10年先も君に恋して

2019-06-21 19:46:02 | 軌道エレベーターが登場するお話

10年先も君に恋して
NHK(2010年)

 軌道エレベーターは出てこないんですが、ささやかなかがら撮影にかかわった作品でもあり、当サイト10周年ということで、タイトルにあやかり扱ってみることとしました。今回は結末まで書いてますので、ネタバレご注意ください。

あらすじ:出版社で働く小野沢里花(上戸彩)は、トレンチコートをまとった怪しい男(内野聖陽)に付きまとわれる。彼は10年後から来た夫だと主張し、これから出会う若い時の彼と結婚するなと告げる。「NHKドラマ10」で放送された全6回のテレビドラマ。


1. 軌道エレベーターは登場しません
 本作の世界で軌道エレベーターが実現しているわけではなく、作品独自のモデルも登場しません。里花と恋仲になる丸山博が「宇宙エレベーター」の研究に取り組んでおり、話題に出るのみです。かろうじて里花の空想でCG映像が出てきますが、宇宙エレベーター協会(JSEA)の仲介で提供した映像を流用したものです。

 もともと本作に軌道エレベーターは不可欠の要素ではなく、「主人公の恋人が打ち込んでいる夢」であれば何でもいい。AI研究でも宝探しでも、置き換えても同じストーリーが成り立ちます。毎回、作中の軌道エレベーターの特徴を解説している当サイトとしては「登場するお話」とはみなせないので、番外編にした次第です。


2. ストーリーについて
 本作は「もしあの時、別の選択をしていたら」という、誰しも一度は抱くであろう思いが主要テーマになっています。主な舞台は2010年で、10年後のシーンを織り交ぜながら進みます。
 里花と博は出会って1年ほどで結婚しますが、やがて夫婦間に亀裂が入り、2020年には離婚寸前になります。ちなみに離婚届に「平成32年8月」と書かれてるんですが、まさかその年が来ないとは思わなんだ。

 で、10年後の博(以下「博(40)」と表記)は、恩師のタイムトラベル理論(?)に基づく装置で2010年に来て里花(同「里花(26)」)の前に現れ、「どうせ不幸になるのだから結婚すべきでない」と、当時の博(同「博(30)」)との恋路を邪魔します。

 この時点でツッコミ所というか矛盾全開。今現在結婚してるってことは、計画失敗したってことじゃね? 当時のJSEAの飲み会では「タイムマシン完成してるなら軌道エレベーターいらねーじゃん! (゚∀゚)」(タイムトラベルが出来るということは、距離の移動もできることに等しいから、宇宙にも行けるのではということ)なんてツッコまれてました。
 SFっぽい用語がちりばめられてますが、雰囲気づくりのツールに過ぎません。そのトンデモぶりとツッコミ所の多さも、それはそれで楽しめますが。

 ストーリー上の深刻な矛盾点も少なくありませんが、あくまで恋愛ドラマして観ればとても面白く、今から恋をする人も、結婚して過去を振り返る人にも楽しめる作品です。

 真面目に言うなら、博(40)がいくら諭そうと、里花(26)が理解して従うなどありえないでしょう。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉がありますが、人には経験からしか学びえないこともあって、人とのかかわりあいこそ、その最たるものではないでしょうか。

 博(40)と里花(36)が「もう離婚しかない」と考えたのは、9年間の結婚生活を積み重ねたからであり、見る限り2人とも身勝手過ぎるとはいえ(結婚が彼等を不幸にしたのではなく、彼等が結婚を不幸なものにしてしまったのだ)、とにかくその時の経験と感性が導き出した見解です。それを里花(26)に投げかけても、同じ解答を共有できるはずがない。自分で得た教訓じゃないんですから。
 たとえ「あの時の自分」が別の選択をしても、「あの時の自分以上」のことなんかできないんですよ。今いる場所から前に進むしかないのだと知っている人は、すべからく失敗や後悔や反省を経てそれを学んだはずです。
 もっとも、せっかくのタイムマシンを使ってやることが別れさせ屋って、そんな男とは離婚した方がいいと私も思いますが。

 結局、里花(26)は博(40)の言葉に動揺し、さらに彼に惹かれながらも、博(30)への思いを守ろうとします。そんな彼女に、逆に博(40)はかつての思いを呼び起され、自分のせいで亀裂が入った博(30)との仲を修復することに尽力します。そして自身も里花(36)とやり直そうと決意して、10年先に帰っていきます。
 結末は、こういう人生やり直す系(?)とでもいうべき物語の王道ですが、王道ゆえに心温まるラストであります。

 余談ですが、本作は当時非常に人気が出たそうで、それはクリスタル・ケイさんの挿入歌に負うところが大だったと個人的に思います。

 もう一度 やり直せるのなら 思い出が消えてもいい
 もう一度 君に遭えるのなら 今度こそ離れない


 こんな歌詞がストーリーに非常にマッチしていて、せつない曲調の歌がドラマの要所で、文字通り功を奏していました。


3. 撮影秘話?
 下の画像は本編のワンカットです。赤い矢印の人物にご注目ください。



 これね、たぶん私。すまんな (・ω・)

 向かって右隣は、おそらく軌道派の密偵・SS木君、さらにその右は当時JSEA理事だったO島姐さんの可能性が高いです。JSEAが2010年に開いたクライマーの競技会で、本作のロケが行われました。主催者側スタッフであった私達は、そのままエキストラとして参加したのであります。
 私とSS木君はこのほかにも、振り返りながら走る(だったと思う)という、些末な演技も要求されて撮影したのですが、そのカットは結局使われませんでした ( ;∀;)
 
 競技会の様子のほかに、近くの草むらで里花(26)と博(40)の対話シーンの撮影も行われ、夏のすごい暑い日で、コートを着た内野聖陽さんの姿が、遠巻きに見てるこっちが暑苦しくなるくらいでした。上戸彩さんや木南晴夏さんらもナマで見られて眼福の思い出です。

 残念ながら、現在はDVDが絶版状態らしく、レンタルでも見かけたためしがないのですが、放映から来年で本当に10年経つので、再販などされるといいですね。当サイトも10年経ちましたが、今も変わらず軌道エレベーターに恋してます。

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軌道エレベーターが登場するお話(20) ACE COMBAT7 SKIES UNKNOWN

2019-02-17 17:17:51 | 軌道エレベーターが登場するお話

ACE COMBAT7 SKIES UNKNOWN
(エースコンバット7 スカイズ・アンノウン)
バンダイナムコエンターテインメント(2019年)

 ゲームを扱うのは2回目ですね。前回の"CALL OF DUTY INFINITE WARFARE" 同様、シングルプレイのキャンペーンモードについて説明します。結末まで語っているので、ネタバレご注意ください。

あらすじ:エルジア王国は、オーシア連邦に宣戦布告し、国際軌道エレベーターを制圧。エルジアに対し、反攻作戦が展開される。人気フライトシューティングゲームのシリーズ最新作。プレイヤー諸君、軌道エレベーターのそびえ立つ空を存分に飛び回るがいい! (`∀´)/

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 何よりうれしいのは、

 「各国が協力し建設した軌道エレベーターが、エルジア軍に占領された」
 「我々は速やかに、軌道エレベーターにたどり着かねばならない」
 
 ──などなど、たっぷり「軌道エレベーター」を連呼してくれるんですよ。ここんとこ、右も左も「宇宙エレベーター」ばっかりでしたから、なんか新鮮。いや愉快痛快! (゚∀゚)

 さて本作の舞台は、「もう一つの地球」とでもいうべき架空の世界です。生態系はまったく同じですが、私達の世界とは異なる大陸があり、多数の国に分かれて攻防を繰り返しています。
 このうち「ユージア大陸」の一端にある「ガンター湾」に「国際軌道エレベーター 」(International Space Elevator=ISEV)が建造されています。
 時代設定は2019年で、20年前に小惑星が落下。多大な犠牲が生じたことから、恒久的エネルギー源として宇宙太陽光発電を実現するため、ISEVが建造されます。ISEVは2005年に終わった「大陸戦争」の後に建てられました。



 ISEVの構造ですが、地上(海上)基部「アースポート」は、小惑星落下で出来たクレーターに建てられ、海上橋及びトンネルで沿岸とつながっています。地下の「ジオフロント」から6本のケーブルが宇宙へ伸びており、「クライマー」が1台あたり2本をつたって昇降します。
 高度12kmまでは「防風塔」によってケーブルやクライマーが大気の影響から守られています。名前の割にはスカスカで風通し良さそうなんですが。そこから上はケーブルのみの構造で、遥か上の方には太陽光発電システムがあるはずですが、詳細は不明です。

 大林組構想に準じた名称や宇宙太陽光発電など、各部のデザインやアイデアは、既出のものを参考にしているのがうかがえます。
 その意味で目新しさはありませんが、デザインは美しく、高空からアースポートを眺めた、海と空の青、雲とISEVの白というコントラストが映える景色や、夕闇を背景にシルエットになったISEVなど、軌道エレベーターの色んな眺めを堪能できる一作でもあります。




2.ストーリーについて 
 エースコンバットのシリーズは、過去作から続く架空戦記を描き続いており、本作はその歴史で「灯台戦争」と呼ばれる出来事を描いています。
 上述の大陸戦争で敗北したエルジアは領土縮小に追い込まれ、停戦監視軍に国力増強を抑え付けられている状況にあります。さらにかつて自国領だったガンター湾に、大国オーシア連邦の主導でISEVが建造されたことなどから不満が爆発し、オーシアに対し開戦。停戦監視軍に無人機による攻撃をしかけてISEVを含む地域を制圧します。

 プレイヤーはオーシア空軍のパイロット・トリガーとして戦闘機を駆り、ゲームはトリガー目線の仕様になっています(F-14のような複座機を選択した時、後ろに誰が乗っているんでしょう?)。彼は超一流のパイロットですが、序盤でISEV建造の立役者となった前大統領を撃墜した嫌疑をかけられ、左遷されます。
 ここからしばらくISEVは出てきませんが、トリガーは飛ばされた先でも戦果を上げ、終盤に戦線が再びISEVに迫るまでにエースに復活します。

 これはこれで一つのドラマではありますが、トリガー=プレイヤーだから画面に登場せず、喋りもしないので、物語の大筋はオーシアの航空機整備士のエイヴリル、エルジアの無人機の開発者シュローデルらにより語られていきます。ただし彼らも一面的で、人物描写はあまり深く掘り下げられていません。
 その中で比較的、物語の進展と共に変化や成長を見せたのはエルジアの王女コゼットくらいでしょうか。冒頭の彼女は性善説を本気で信じていたふしがあり、理想論を唱えていれば和平に至ると考えていたようです。
 しかし所詮プロパガンダの道具に過ぎず、情報通信の混乱によって敵味方双方とも混乱と内部分裂に陥り、彼女を主戦派と誤解した友軍に撃墜され、遭難することになります。この間に戦争は激化し、果てはエルジアが進めてきた無人化技術により、人間の統制を離れたAIが、兵器を勝手に生産して前線投入するという事態に陥ります。
 彼女は前線に駆り出されたエイヴリルに拾われ、戦争を止めようと、全自動の兵器工場と化したISEVに乗り込んで破壊し、さらにISEVの送信機能で世界によびかけを試みるというクライマックスへ向かいます。ここで主要人物同士が本格的に絡み、トリガーの部隊は彼女たちを空から支援します。

 全体としてキャラクターの行動の動機づけが弱く、「人々が意思を持ち歴史をつくっていく」という印象は薄い。エイヴリルは軌道エレベーターを諸悪の根源みたいに言うのですが、人間悪をハードウェアに転嫁するあたり、少々こじつけも感じました。戦争は外交の延長であり利害の衝突なのだから、武器を壊してアジれば解決するなんてものじゃなかろう。

 しかしゲームは購入者に楽しんでもらってなんぼですからね。本作のメインガジェットである軌道エレベーターを最後の戦場にし、ドッグファイトやアクロバティックな飛行を体験できるクライマックスへ持っていくためにあつらえたストーリーに人物を載せたのでしょうから、仕方ないことでしょう。

 色々言ってしまいましたが、最終ミッションでエイヴリルが万全の状態に整えた戦闘機にトリガーが乗り、無人機と決着を付けに発進する場面や、闘いを終え、ピラー内部を上昇してISEVから脱出し、大団円を迎えるエンディングは、ドラマチックで感動的です。トリガーの機体が紺碧の空へ飛び抜けていく姿に全てが結実し、シビれる幕引きでありました。


3.プレイ感想 
 実は、ISEVに自由に接近して飛び回れるミッションはわずかで、その一つ目のミッションで最初にやったことは、ISEVに体当たりしてみることでした。ビクともせず壊れたのは機体だけ。どんだけ頑丈なんだよ。
 あと、試しにピラーに沿って上昇してみたところ、防風塔より上に行こうとしても強引にコースが曲がってしまい、それ以上の高さに行けるのは最終ミッションになります。
 実際は、プレイを始めてしまうと、攻防に夢中になって軌道エレベーターどころではなくなっちゃいます。しかし、近づいたり離れたり、見下ろしたり中をくぐったりと、自由な角度から軌道エレベーターを眺められる本格体験ができ、とうとうこんな商品が出たかと思うと隔世の感ありです。
 
 VR体験は、本編とは別に3ミッション体験できるそうです。私はVR機器を持っていないのですが、宇宙エレベーター協会に潜伏している軌道派の密偵・SS木君から感想をいただきました。そのまま紹介します。
 
「VR良かったです。3ステージだけですが、本当に空を飛んでいる感じで
 旅客機に乗って雲を抜けたり地上を見下ろすのと同じような体感(視感?)でした。
 あと背面飛行して地上や海を見上げたり、
 ドラゴンボールの筋斗雲みたいにグルグル回ったり
 一度はやってみたかった系が一通りできて満足しました。
 望むらくは軌道エレベーターをVRで抜けられると良かったのですが、、、
 今後のアップデートや追加配信で対応されないかなーと期待してます」


 ぜひ体験してみたいです。SS木君、ありがとうございました。

 私は過去に、エースコンバットのPS2版をいくつかプレイしたことがあり、とても楽しめたのですが、このシリーズ、結構トンデモSFの要素が盛り込まれているんですよね。
 PS2版のあるミッションで僚機のパイロットが「今、空が光らなかったか?」と呼びかけてきます。これ伏線でして、空戦が一段落すると、稲妻?と思った直後に「ずどーん!」と空から巨大な光の帯が降ってきて、友軍機が壊滅してしまいます。
 衛星軌道からのレーザー攻撃でした。思わず「なんじゃこりゃあああ!」と叫んでしまいました。オリンポスシステムかよ!? 本作でもそのテイストは健在で、ISEVを護衛する巨大無人機がバリアを張ったり、レーザー砲を撃ったりと、ビックリ超兵器がふんだんに登場します。

 トリガーは、実験機に乗るエルジア軍の老パイロット・ミハイと対峙することになり、これがキャンペーンモードの山場の一つでもあります。全ミッションをクリアすると、ミハイの乗機X-02Sをプレイヤーも使用できるようになりますが、このX-02Sもなかなかトンデモ兵器だったりします。
 高速飛行時は主翼の一部を格納し、カナード翼と垂直尾翼が水平になって前進翼からデルタ翼機のように変型するこのX-02S、乗ってみるとスピードも機動性も武装も並はずれていて、「こんなチート機に乗ってたのかよあの老人 (`д´)」と叫びたくなる高性能機です。そりゃ強いはずだわ。

 どの機体も、対地・対艦・対空あらゆる目標にロックオンでき、全部撃ち尽くしても一定時間経てば2発ずつ復活するという、謎の万能ミサイルを標準装備しています。X-02Sはパイロンが四次元ポケットになってるらしく、この謎ミサイルを146発装備でき、オプションでレールガンも使えます。
 ミハイは戦闘中、上から目線でトリガーたちに渋く語りかけてましたが、とんでもない曲者でした。「ただ空が飛びたかっただけ」とか言いつつ、新型機で遊ぶのが楽しかったんでしょう。
 ちなみにレールガンは非誘導式で真正面にしか撃てないので、照準を定めるのがひと苦労ですが、1発で艦艇を撃沈できる威力があり、当たれば快感です。

 全20ミッションを攻略Wikiに依存しながらクリアしたのですが、上述の通り、最後にISEV内部を上昇して脱出するシーンは胸熱で、特に私はF-104スターファイターを使っていたので、映画『ライトスタッフ』のクライマックスでイエーガーがF-104で高度記録に挑戦する場面を思い出しました。

 PS4の映像クオリティで、地球上に建つ軌道エレベーターが本格的に描かれた一作。久々にゲームに没頭して存分に楽しめました。次回作が出るとしたら、当然軌道エレベーターもまた登場するでしょう。本作には軌道エレベーターが沢山そびえ立つ絵も出てくるので、続編では、その世界が実現しているといいなと思います。


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