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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(8) 図解その5 OEVの昇降機はここがお得

2009-05-23 00:19:59 | 軌道エレベーター豆知識
 前回の「OEV豆知識」で、軌道エレベーター(OEV)の昇降システムを分類してみましたが、きょうはこのうち(2)と(3)について、OEVの構想の大きな売りともいえるお得ポイントを紹介します。別にOEVに乗るとポイントがたまってお得とかいう話ではありません(でも実現したらマイレージとか導入されるんじゃないでしょうか?)。

 さて、(2)や(3)は、簡単に言うと電気で生じる磁力でエレベーターを誘導して動かすもので、現実に走っているリニアモーターカーをそのまま縦向きに使うのと原理的にはまったく同じ。このような「リニアエレベーター」はすでに開発が進んでいます。
 ところで、電磁石というのは発電にも使えますね。 電気で動力を生み出せる一方、逆に外から物理的に力を加えてやると電気を生み出します。電気で動くモーターの中には電磁石が入っていますから、モーターの軸を指でつまんで回す(つまり内部の電磁石に磁界の変化を起こす)と発電機になり、両者は同一のものなのです。

 では、OEVのリニアエレベーターで地上から宇宙へ上るとします。重力に逆らって上昇していくわけですから、上るのには電気が要ります。しかし、宇宙から地上へ戻る時は、そのまま落下の勢いを利用して下ってくればいいので、基本的に電力は要りません。さらに中身(人やモノ)がスピードに耐えられるよう、ブレーキをかけて速度調整することになります。
 この時に、先ほど述べた原理で発電ができるのです。ブレーキにかかる力が電力に変換でき、そしてこの下りエレベーターで発電した電力を上りに供給してあげます。つまり上り電車の運賃の大半を、下り電車が支払ってくれるわけです(もちろん全額は無理ですが)。
 この仕組みで、リニアエレベーターを利用したOEVは、極めて低コストで宇宙へ行けると考えられています(ちなみに静止軌道より外側では、遠心力で上り、電力を消費して下ってくるので、この電力の受給関係が逆になります)。もちろんリニアでなくてもモーターでもよく、この仕組みは「(電流)回生ブレーキ」としても知られ、JRの車両や乗用車のプリウスなどでも使われているそうです。

 もちろん、電流回生にも色々課題があり、OEVの場合はあまりにも長距離のため、発電した電力をいかに反対向きのエレベーターに効率よく伝達するか、といった問題などがあります。しかし原理的には充分確立していますし、OEVの実現より前に、リニアエレベーターはもっと発達を遂げるはずなので、解決は可能でしょう。
 前回の(1)のタイプのOEVで、人間1人が宇宙へいくコストが100万円強くらいという試算もありますので、(2)や(3)に発達すれば、もっと安上がりになるはずです。ロケットのように爆発や墜落の危険がなく、しかも安い。だからこそ、前にも述べたように「リニアこそOEVの真髄」という人も少なくないのです。これならマイレージでもポイントでも貯めれば何回かに1回はタダで宇宙へ行けるかもしれないじゃないですか。これを目指さなきゃOEV造る意味ないでしょうと。
 さすがにここまで複雑で重厚なOEVを実現するには半世紀以上かかるという指摘もありますが、私は、これこそがOEVの最大の長所だと思っています。リニアを目指さずして何の軌道エレベーターか。

 いかがでしょうか? OEVの構想の中にはこんなお得なアイデアもあるんです。ほかにも面白い豆知識がたくさんあります。徐々に紹介して、皆さんに理解と興味を深めていただければ嬉しいです。

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OEV豆知識(7) 図解その4 昇降機

2009-05-22 00:09:17 | 軌道エレベーター豆知識
 今回は、軌道エレベーター(OEV)について、OEVを上下する昇降機、つまりじっさいに人や物資を載せて動く部分についてです。

「軌道エレベーター早わかり」などでも説明しているように、地上から宇宙まで、1本の塔なり紐なりが伸びていて、それに沿って人や物資を運ぶ昇降機が動いているというのがOEVの基本構造です。

 ただ、この巨大な塔の規模と、そこを上下するエレベーターには、実に色んなアイデアがあるんですね。きょうはこれを大まかに小・中・大に分けてみようと思います(ただし「エレベーター」とはいっても、デパートなどにあるゴンドラを吊り下げたケーブルを巻き上げて昇るようなものではなく、いずれも自力で上り下りする、いわゆる自走式エレベーターです。エネルギー供給は外部から行いますが)。

 図を説明すると、(1)小:OEVの細いケーブルを昇降機が掴んで動く (2)中:もうちょい太くて頑丈なフレームにしがみついて動く (3)大:煙突やビルみたいに太くて、昇降機は内部を動く ──となっています。

 当然大規模化するほど実現に時間と手間がかかるので、研究者の間でも、もっとも近いうちに実現するであろう(1)のモデルを前提に様々なシミュレーションを行ったり、(3)に導入できる発展的なアイデアを出したりと、好みが分かれるところです。別の言い方をすれば、(1)~(3)は、時代や発展度の区分とも言えるでしょう。
 「専門書・論文レビュー」で紹介しているブラッドリー・C.エドワーズの著書では(1)を念頭においており、彼は(3)などは実現が先過ぎるとみなして扱っていません。一方、同コーナーのNASAのレポートなどは(2)から(3)にかけて言及しています。(2)や(3)の昇降システムはたびたび電車に例えられ、原理的にもリニアモーターカーを縦向きに使うものが多いです。
 
 好みやOEVについて抱いているイメージが人よって異なり、「リニア設備を取り付けられるほど本体の素材は強くない」「リニアこそOEVの真髄」と、人気が二分しています。ただ、いま現在、宇宙エレベーター協会(JSEA)が技術開発や競技大会開催などに取り組んでいるクライマーは、(1)についてのものです。最初にできるのは(1)の形態でしょうし、(1)の技術は初期の建造手順にも重要な役割を果たす可能性があるからです。
 強いて言えば、どのみち(1)から造らなくてはいけないであろうから、その後はおのずと(2)、(3)へ成長していくのではないかと思われます。大型化するほど規模の経済が働いてコストも安くなるでしょう。まずはトロッコ車を走らせて、やがて新幹線まで発達させるような感じでしょうか。

 私自身はリニア派です。(1)のタイプは避けて通れないかも知れませんが、可及的速やかに運用を終え、次段階へ発展させなければいけないと考えています。それは(1)の運用能力や耐久性、安全性に疑問を感じているからで、安全係数次第では、専用作業員以外の有人使用を禁止すべきだとさえ思うのです。この点については、次回の豆知識でもう少し詳細に述べたいと思います。
 次回は昇降機の動力についてでです。

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OEV豆知識(6) 図解その3 本体の素材

2009-05-18 12:03:00 | 軌道エレベーター豆知識
 きょうは前回に続きOEV本体。ただしこれを構成する素材についてです。全体図を各部ごとに説明する「図解」からは少々外れますが、避けて通れない話題なので触れておきたいと思います。

 OEVの本体そのものは、カーボンナノチューブ(CNT)によって造られることが有望視されています。CNTは、炭素がチューブ状に巻いた分子構造を持つ物質で、1991年、日本のNEC基礎研究所の飯島澄男氏(現名城大教授)によって発見されました。ではなぜ、CNTが有望なのでしょうか?

 言うまでもなく、OEV実現の最大の課題は素材です。OEVには「高度約3万6000kmから吊り下ろしても切れない素材が要る」というのが命題でした。具体的には、その素材には60GPa(=ギガパスカル。1パスカルは1㎡あたり1ニュートンの力が作用する単位で、1GPaは1Paの10億倍)を超えるほどの「引っ張り強度」が求められ、最強レベルの鋼材の、さらに30倍程度の強度が必要です。これよりも弱ければ、3万6000kmもの高さから吊り下ろすと、自らの重みで断裂してしまうからです。

 OEVの構想が普及しはじめたのは半世紀ほど前ですが、当時の既存の素材はいずれもこの命題をクリアできず、このためOEVがSFの世界から出て語られることはほとんどありませんでした。

 この状況に風穴を開けたのがCNTでした。OEVの命題に応えうる素材として脚光を浴び、OEVの実現性がぐっと高まり、議論が活発になりました。
 2001年の科学誌によると、当時のCNTの理論値が45GPa。研究者に直接聞いたら、じっさいに測れば60GPaくらい一発でクリアするかも知れないらしいのですが、「今までそんな強度のある素材がなかったから、測定する機械の方がない。だから実測値が出せない」のだとか。ごもっとも。
 現在のところ、CNTは安定した大量生産にこぎつけていませんし、OEVに使う紐状のものについては、純度アップなどが課題になっています。ですが研究は日々進んでいて、経済産業省のロードマップではCNTが「宇宙エレベーター」に応用できる見通しを2027~30年に設定しているほか、海外では紐状のものの工業生産に着手するのが見込まれています。
 最新の光ファイバー海底ケーブルは16万kmにもなるそうで、高純度で大陸間をつなぐ距離を途切れずに作るそうです。CNTが同じように発展しないはずがありません。
 またCNT以外にも、OEVを短めに造ったり、テーパーを設けたりするなど、構造を工夫することで、ケブラー(米デュポン社の登録商標。正式名はポリパラフェニレンテレフタルアミド)など、ほかの素材を使用する構想も打ち出されています。

 こうした素材によるOEV用ケーブルの製品化が実現すれば、CNT発見の時以来の新たなブレイクスルーとなり、OEVの実現可能性は秒読み段階に入ると言ってよいでしょう。
 きっとやってくれますよ、内外の研究者の皆さんは。一日も早くその日が訪れるのを祈らずにはいられません。

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OEV豆知識(5) 図解その2 本体

2009-05-14 21:45:28 | 軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーター図解の2回目、今回は軌道エレベーター(OEV)の本体、地上から宇宙へと伸びる基本構造を成す部分についてご説明します。

 OEVの本体は、細いケーブルからトラス構造のような支柱を組み合わせた集合体、大きいビルのような構造物まで、様々な規模が考えられ、研究者や構想によって異なります。とはいえ、すべては1本の細い糸から始まることは同じです。

 OEVの造り方でもっとも基本的なブートストラップ(後日解説し、リンクを設けます)では、高度約3万6000kmを周回する静止衛星からケーブルを垂らし、地上に届かせて造ります。
 いきなりごんぶとのものを垂らそうにも、3万6000kmぶんのケーブルなり材料なりを、ロケットで静止軌道まで持ち上げようものなら相当な重さになり、何回打ち上げなきゃいけないかわかったもんでじゃありません。ですから最初の1本は極力細いものにせざるを得ません。この細い1本の糸からすべてが始まります。

 とはいえ、この最初の1本を地上に下ろした瞬間から、それはもう一つのOEVなのです。そこでロケットの使用は終わります。あとはこの1本に昇降機を取り付けて2本目以降のケーブルか、あるいはその材料を輸送すれば良く、このやり方でどんどん太くしていき、輸送能力を向上させていきます。
 どの程度の太さで完成とみなすかは、研究者によって異なります。このため、本体の構造は、冒頭で述べたように手で掴めるほどの太さで良しとするモデルもあれば、大型のエレベーターを装備したり、チューブ状になっていて内部をエレベーターが昇降したりするほど巨大なものもあるわけです。

 おそらく、最初は細いケーブルから成るOEVでも、利用するにつれて、おのずと大きく発展していくことになるでしょう。これは単線で1両編成の電車で運行を始め、やがて利用客が増えて車両や便数を増やし、線路を複線化していくようなものです。電車に限らず、バスでも航空機でも同じですよね。
 つまりOEV本体の太さ=規模の違いは、どの程度先を見据えているかの違いであるとも言え、より大規模なものほど未来型と言ってよいと思います。次回は、この本体の素材として有望視されるカーボンナノチューブについてご説明します。

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OEV豆知識(4) 図解その1 地上基部

2009-05-12 22:51:05 | 軌道エレベーター豆知識
 この「豆知識」、本日から何回かに分けて、軌道エレベーター(OEV)の基本構造について、各部ごとに解説します。今回はOEVの基部、つまり地球上との接点についてです。

 OEV本体と地球表面が接する部分を、ここでは便宜的に「地上基部」と呼びます。この「地上」は「地球上」という意味で、陸海をひっくるめていると思ってください。
 さて、地上基部は、地球からOEVを利用して宇宙へ向かうための港のような役割を果たすことになります。
 基本的には赤道上に設けられます。これは前回説明したように、OEVというのは超巨大な静止衛星で赤道上空を飛んでいるためです。
 最近の研究では、緯度にして南北35度程度まで、あるいはもっと高緯度に地上基部を造ってもOKという意見もあります。しかしこの案は、デブリベルト(デブリが特に密集した軌道)を回避できることを除けば、いまひとつこだわる根拠が不明瞭で、同緯度の両半球側からブリッジをかけた方が強度的にもしっかりする以上、私はあまり意味を感じないのですが。。。

 基部を陸上に造る場合は、OEV本体を風雨の影響から守るため、また極力吊り下ろす距離を短くするためにも、高い山の上に造るとか、下から上に向かって高い塔を建てる案などがあります。

 ですが最近は、海上に設けるプランが一般的になってきました。
 というのも、OEVはフラフラ動くと考えられているからです。静止衛星は「静止」とは言いながら、実際には微妙な重力の偏りなどの影響を受けてじっとしてはいられず、しょっちゅう軌道修正しなければならないのです。これは現存する静止衛星も同じで、ましてやOEVは末端が大気圏に達するので、外部から力を受けて定位置からズレやすいのです。
 海上に基部を造るというアイデアは、これに対応できるよう自ら移動可能な人工島にするというものです。移動式のメガフロート(浮き島型の人工島の一種)や、浮遊型の海上石油掘削基地は皆さんご存じでしょうが、こういうのを使用するわけです。
 これならOEV本体が動いても一緒に移動できますし、緊急時には切り離して避難したりと融通が利きます。こうしたアイデアの中には、完成後もOEV本体が接地しないまま、少し空中に浮いた状態になっているものもあります。反面、OEVの構想の中には、遠心力の方を強めにして構造全体にテンションをかけ、地上基部からピンと張るようにして安定性を高めるアイデアもありますので、相当重いものでない限り、浮遊型基部はこのようなケースには不適当かも知れません。

 ですが、政治的見地からも、公海上に基部があった方が望ましいでしょう。そんなわけで、「OEVの基部は海上、あるいは周囲を海に囲まれた小島」という例は増えつつあるようです。今後、この基部から上へ向って解説していきます。

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