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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(13) 図解その10 カウンター質量/末端のステーション

2009-06-20 23:54:39 | 軌道エレベーター豆知識
 地上基部から軌道エレベーター(OEV)を昇り始め、ようやく終点まできました。最後はカウンター質量兼終点のステーションです。カウンター質量は「アンカー質量」「バランサー・マス(質量)」などとも呼ばれます。ようはOEV全体の重さのバランスをとるための、単なるおもりなんですが、実はめちゃくちゃ大事です。

 これまで何度も解説してきたように、OEVは静止衛星を挟み、地球の重力と公転による遠心力により、上下に引っ張られる力が働いています。ですから基本原理としては、静止軌道を挟んだ上と下で重さが釣り合っていなければなりません(応用として少し重さのバランスを偏らせたモデルもありますが)。いわばOEVは、静止軌道という支点に立つやじろべえみたいなものです。
 全長をただ単純に伸ばすだけでOEVを造ることもできますが、そうしない場合に、静止軌道より下の部分の構造体とのバランスをとるためにカウンター質量が設置されます。つまり。。。
「カウンター質量+静止軌道からカウンター質量までのOEV構造体=静止軌道より下のOEV構造体すべて」
という重さの等式が成り立つように造られます。

 カウンター質量はOEVの最大の弱点かも知れません。なぜなら、これを切り離したら全体のバランスが崩れ、ここから下の構造体すべてが地球に落下してしまうからです。一方カウンター質量の方も、反対側の宇宙空間へ浮遊していきますが、重さによってはちょっとした小惑星なみに大きいかも知れません。ほかの宇宙船や衛星などに衝突したら一大事です。

 テロや武力攻撃によって地上への被害を最も大きくするなら、ここを狙うべきでしょうし、拠点防衛の最重点区は実はここだと思います。OEVは全体が構造上脆弱なものですが、静止軌道部がOEVの心臓部なら、カウンター質量はアキレス腱といえるでしょう。

 これまた私の勝手な独創ですが、こうした緊急の質量変動への対処法としては、静止軌道部が力学的に独立しているので、このような事態を想定して、ここに自走式のカウンター質量を蓄積しておくのが望ましいと思います。必要に応じておもりを小出しにしてスライドさせ、バランスを保つわけです。
 あるいはもっと大胆なやり方では、静止軌道ステーション自体が、自力で静止軌道からやや上昇した後にOEV本体と再接続し、それ自体がカウンター質量の役割を果たすことができるはずです。もっとも、その場合はコリオリと同様の力が働くでしょうから口で言うほど簡単ではないでしょうし、後で元に戻すの大変だと思いますが。

 カウンター質量がおもりだけになるか、何らかのステーションとして機能するかは運用の仕方次第ですが、いちおう図解の最終回ですので、OEVの終着駅としても想定しました。
 いうまでもなく、最大の遠心力が働くポイントであり、投射能力も大きくなります。かつて、パイオニアやボイジャーなど、地球外の知性へ向けたメッセージを積んだ探査機が太陽系を離れていきました。きっとここからは、こういった探査機などが送りだされるでしょうし、いつかは人間も未知の世界へ向けて旅立っていくのかも知れません。
 軌道エレベーターを足がかりにして、私たちはより遠く、広い宇宙へ足を踏み出していくことになるのでしょう。

 OEV図解はこれにて終了しますが、この「豆知識」のコーナーはこれからも続きます。どうぞよろしくお願いいたします。

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OEV豆知識(12) 図解その9 高軌道部

2009-06-14 20:56:51 | 軌道エレベーター豆知識
 今回は高軌道部です。おおむね静止軌道から上全般に当てはまる説明になると思います。高軌道部にステーションが設けられるとすれば、その役割や機能は、低軌道部とそう変わらないのではないかと思われますが、最大の違いは「天地が逆」ということでしょう。

 静止軌道より上の高度では、重力よりも遠心力=地球の反対方向へ外側へ飛び出そうとする力の方が大きくなります。このため、高軌道のステーションで人間が立とうとする場合は、外宇宙の方へ足を向け、頭上に地球を仰ぎ見ることになり、この状態は静止軌道より上のすべての場所に当てはまります。

 このほかには、前回紹介した投射機能を必然的に備えているので、高度に応じて、宇宙船や探査機の発着基地を兼ねることになると思われます。静止軌道における無重量状態の環境を利用して大型の宇宙船などを建造し、遠心力を利用して(つまり輸送エネルギーはゼロで)この発着基地へ運び、投射という手順を取ることになるでしょう。
 反面、どこかから帰って来た宇宙船を高軌道部に接舷というか係留のようなことをした場合、カウンター質量が増えることを意味するので、大量に駐機したらバランスが崩れてしまうし、接舷時の相対速度の差次第では角運動量が変化することもありえます。
 このため、静止軌道より下で質量を移動や増減させたりしてこの差を打ち消して、軌道エレベーター(OEV)全体のバランスをとる必要が出てくるかも知れません。とはいえ、これは昇降機の上下運動ですら生じる問題なので、あらゆる部分で色々と調整されることになるはずです。それにOEVが巨大化すれば、相対的に無視できるほど小さくなるかも知れません。

 これは私の勝手な独創なのですが、上記のような理由から、OEVを利用して宇宙船の運用を行う場合は、(1)静止軌道部で建造 (2)完成後は高軌道部に遠心力で運び、投射機能を利用して加速させそこから発進 (3)宇宙船が帰ってくる時は、静止軌道部まで降りてそこへ係留 (4)発進する時は、再び高軌道部に運んで投射──というサイクルが良いのではないか、と考えています(ほかにも、宇宙船の推力は限られているから、帰ってきた宇宙船をOEVでひっかけてやるというのも手だとは思います)。

 もしこうした使われ方になるなら、高軌道部のステーションは、船か飛行機の港か、あるいは首都高と地方高速道のジャンクションにあるサービスエリアのような場所になるかも知れません。この場所自体を目的に来る人はあまりいないでしょうが、遠い将来、中継点としてにぎわうのかも知れません。

 次回のカウンター質量兼終点のステーションをもって、この「図解」を終わりにしたいと考えています(「豆知識」は続きます)。どうぞよろしくお願いします。

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OEV豆知識(11) 図解その8 投射機(軌道カタパルト)

2009-06-09 11:40:15 | 軌道エレベーター豆知識

 早いものでこの「豆知識」もとうとう11回目になりました。今回は図解その8「投射機」です。投射機というのは便宜上私が勝手に呼んでいる名称に過ぎず、「カタパルト」とかでもよいかと思います。
 静止軌道部の上に描きましたが、要は一定以上の高度なら、末端を含む色んな場所に設定できます(ちなみに絵もマジックハンドのように記号化したもので、こんな単純な形にはならないでしょう)。
 すなわち、軌道エレベーター(OEV)はその構造上、質量を外宇宙へ飛ばすことのできる遠心投射機として利用できるのです。OEVを使って砲丸投げをするようなものだと考えてください。

 質量を放出する最も基本的な高度は静止軌道のちょい上、約4万7000kmだそうです。ここでOEVに固定していた物体を分離すると、その物体はOEVから(厳密には地球から)運動エネルギーをもらって飛んで行き、二度と地球には戻ってこなくなります。この速度は「第2宇宙速度」と呼ばれています。
 理論上は高度や角度の調節次第で、様々なモノをあらゆる方向へ飛ばしていくことができ、いわばつかんでいた手を離すだけで、地球重力圏を脱出する速度を得ることができます。

 この仕組みは、OEVの付随機能として非常に重要な価値を持っています。この機能を利用して、宇宙船や探査機を、基本的に自力推進なしで第2宇宙速度で射出し、月や火星などへ向かう軌道に投入する計画に利用することがすでに提案されています。
 もちろん放出後は微修正などは必要になるでしょうし、そうした制動や帰還時には推力を必要としますが、基本的には初期加速が必要はないんですね。
 この機能はOEVを実現すれば自動的に付いてくる高額特典のようなものです。低コストで地上と宇宙を往復できるだけでなく、こうした利用ができることは、OEVを建造する計り知れない意義となるのではないでしょうか。



 なお余談になりますが、OEVから投射される物体は、角運動量と呼ばれる地球の運動エネルギーを分けてもらって飛んでいきます。このため、実は投射のたびに地球の角運動量がほんの少ぉ~しずつ減っていくんですね。0.000...X秒といった数値で自転が遅くなっていく、つまり一日が長くなっていくんですが、実生活に影響があるものではないはずです(逆に宇宙船の接舷によって角運動量が増すこともあり得ます)。
 OEVとは関係なく、こうしているいま現在も、月が地球の角運動量を奪って常に地球から遠ざかっており、地球の自転速度も徐々に弱まってるんです(だから太古の地球の自転はもっと速く、月はもっと近くを回ってました)。OEVの投射はもっとエネルギーが小さいので心配はないでしょう。今だって1日は24時間より4分ばかり少ないのに、ちゃんとみんな生活してますから。

 この図解も、終点が近くなってきました。次回もよろしくお願いいたします。

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OEV豆知識(10) 図解その7 静止軌道部

2009-05-29 00:37:29 | 軌道エレベーター豆知識
 ようやく静止軌道まで来ました。高度約3万6000kmに位置する静止軌道部は、軌道エレベーター(OEV)の心臓部とも言える最重要区です。

 この静止軌道部は、OEV建造の最初のとっかかりになる場所でもあり、完成後には最大級のステーションが建造されると考えられます。なぜならこの高度は、重力と遠心力が釣り合って無重量状態(自由落下状態)が現出されているからです。地上から昇ってきた場合、ここに到着したら完全な無重力を体験できます。
 静止軌道部はOEVの全質量の重心であり、ほかの部分はすべてこの静止軌道部の延長、あるいは部品にすぎないとみなすこともできるでしょう。

 そんなわけで、静止軌道上ではステーションは理論上いくらでも大きくできますし、大型の宇宙船を建造するのにも向いているでしょう。OEVが発展すれば、造船所のような場所になるかも知れません。このほか、低軌道部のように実験や観測施設なども設けられるはずです。
 また、静止軌道部は、OEV全体にかかる力の支点のようなポイントでもあります。ここより下のOEVの構造体は地球の重力に引っ張られ、上は遠心力で引っ張られるわけで、上下に引き裂く力が働いている(まあ、どの部分もそうなんですが)バイタルパートととも言えます。
 反面、ここならOEVが「ちぎれる」ようなことがあっても落下したり遠心力でより外側の宇宙に放り出されたりしないし(もちろん、もっと上や下でちぎれたら静止軌道部ごとOEVが上昇か落下を始めますが)、デブリとの衝突もまずない(OEVに対して相対的に動いていたら、デブリは高度を維持できない)ので、ある意味一番安全な場所かも知れません。

 一方、私たち庶民にとって意味のある観光面ではどうかというと、あんまり人気スポットにはならないんじゃないかなあ、というのが正直な感想です。先述のように、ここでは無重力を体験できるし、重力や遠心力の制約がないので、観光施設としても大規模化できるでしょう。
 しかし、仮に平均時速200kmで昇ったとしたら、片道1週間以上かかるんですよね。その途中では、ヴァン・アレン帯という放射能帯を通過しますし、高くなるほど宇宙線の影響は深刻化します。
 ここから見た地球は数メートル先のサッカーボールを見るみたいに小さくて、見ごたえあるのかどうかも。。。低軌道部だと、たとえば1辺5mの世界地図の上に立っているみたいな感じだったりして、台風とか夜景とかの現象も肉眼で見えますし、よっぽどダイナミックな感じがするのは私だけでしょうか?

 なんか興ざめするようなことを書いていますが、静止軌道部が最重要であることは確かです。個人的な感覚ですが、静止軌道というのは、本当の意味で宇宙への玄関のような気がするからです。
 「宇宙」と呼ばれるのは一般的に高度100kmくらいから上ですが、静止軌道まではかろうじて地球の庭先のような感じがするのです。船の航海にたとえるなら、静止軌道を超えて上昇していくのは、内湾や領海から外洋へ出ていくようなものではないでしょうか。ここから真の「宇宙」と言える気がするのです。

 じっさい、静止軌道より上には、「外向き」のシステムが設けられることになります。それはまた次回に。。。

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OEV豆知識(9) 図解その6 低・中軌道部

2009-05-26 03:32:53 | 軌道エレベーター豆知識
 左の写真は、東京湾アクアラインの「海ほたる」です。海ほたるは東京湾の中央部に浮かぶ人工島で、アクアラインの海底トンネルと海上橋の結節点です。建設中は海底トンネルを掘るシールドマシンの発進基地だったものを、完成後はドライブインとして利用しています。

 今回の豆知識は軌道エレベーター(OEV)の低・中軌道部について。なぜ、いきなり海ほたるの話から入ったのかというと、低軌道ステーションを既存の何かに例えると、この海ほたるのような場所になるのではないかと考えたからです。

 厳密な境界線がないのでいま一つ区別はあいまいなのですが、低軌道というのはだいたい高度約300km強から1400kmくらいまで、中軌道がその上から約3万6000kmの静止軌道あたりまでを指すのが一般的です。しかし俗に「宇宙」と呼ばれるのは高度100kmくらいからで、現実問題としてはここの高さから「低軌道」として一括りされている感があります。

 OEVが実現し、付帯施設が設置できるほどの規模になれば、低軌道部には人間が滞在可能なステーションが設けられると考えられています。
 べつだん、低軌道に限らず、OEVのどこにでもステーションを設けるのは可能でしょうが、高度約2000kmから上はヴァン・アレン帯という放射能帯もありますので、おそらくは地上を出発して最初にたどり着くであろう低軌道ステーションが、中継地としてまっ先に想定されるのは自然な考えでしょう。
 人工衛星の多くは低軌道に集中しているほか、スペースシャトルもせいぜい高度600kmていどまでしか飛べません。低軌道は中・高軌道への中継コース的な役割も果たし、国際宇宙ステーション(ISS)の軌道も約400kmの低軌道に位置します。
 道路にたとえるなら特に交通量が多い首都高環状線のようなものでしょうか。ですので今回は、低軌道ステーションの話を中心にしつつ、低・中軌道をひっくるめた話としてお読みください。
 
 おそらくここには、地上の観測や通信、実験のための施設はもちろん、放送局なども設けられるでしょうし、重力が治療の妨げになりうる病気(寝てるのもつらい全身やけどや皮膚疾患など)のための治療施設も造られるかも知れません。
 そして、宇宙という新たな「観光スポット」になるはずです。べつに静止軌道まで行く必要はない。仮に低軌道ステーションがISSと同じ高度に造られるとすれば、東京から大阪へ行くより近い。地上から数時間で往復できると考えられます。
 ちょっと宇宙へ行って景色や低重力環境を楽しんで帰ってこよう。私たち庶民にとってはそんな場所になるでしょう。そんなわけで、海ほたるは低軌道ステーションのイメージにうってつけだと思ったのです。

 海ほたるには展望デッキやレストラン、休憩所、ゲームセンター、おみやげ店などがあり、コンサートなどのイベントはもちろん、結婚式が開かれることもあります。海ほたるを目当てに川崎か木更津から来て、また帰っていく人も多く(そのためにUターンができるようになってます)、都心から横浜までの夜景も綺麗で、元旦には初日の出を見に多くの人が訪れます(海から昇ってくる日の出は見えないんですが)。低軌道ステーションも、発展すればこのような場所になるのではないでしょうか。

 先述のように、低軌道ステーションは実利的な機能も持たされるはずですから、決してレジャー目的だけの存在にはならないでしょうが、OEVのうちでもっとも身近で重要な、誰もが訪れたいひとつの名所の誕生になるかも知れません。OEVがそんな生活を実現してくれる日が早く来て欲しいものです。

 ちなみに、OEVの建造費の見積もりの中には1兆円くらいという試算があります。この数字は少々安く見積もりすぎだとは思うのですが、アクアラインの建設費は1兆4000億円です。


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