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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(3) どこに造るか?

2009-05-08 20:01:34 | 軌道エレベーター豆知識
 きょうは軌道エレベーター(OEV)の立地、つまりOEVに乗って宇宙へ上がる場所を、地球上のどこに設けるかという点についてお話したいと思います。

「軌道エレベーター早わかり」でも説明していますが、OEVは赤道上空を周回する静止衛星からケーブルを吊り下ろして造るという構造上、地上との接点はおのずと赤道付近になります。
 赤道直下が基本なわけで、陸上か海かは問われません(この点については次回説明します)。しかし赤道上ならどこでもいいというわけではなく、立地しやすい場所とそうでない場所が出てきます。火山の真上になんか造れるわけありませんよね。地域特有の地震の頻度や気象条件なども関係してきます。

 地球の表面は海も陸もあってデコボコしていますし、それは表面だけではありません。地下にもいろんなモノが詰まっていて密度も異なります。さらにその下のマントル層がどの程度地上に迫ってきているかまで関係してきます。
 地域によって地質条件や密度、地球の中心(正確には重心)からの距離などが均一でないということは、微妙な重力の差になって影響します。OEVは巨大な人工衛星ですから、この重力の偏りに引っ張られてしまうのです。このような重力異常地帯は世界中にあって、たとえば中南米の地下などが有名です。

 OEVの立地はこれらの条件を考慮し、なるべく安定できる場所に決めなければいけません。昔からよく候補に挙がっているのがインド洋上で、重力的に安定していると言われています。インドの沖や東南アジア地域などを想定した研究やフィクションは多いようです。
 「楽園の泉」でA・C・クラーク氏は、スリランカをモデルにした「タプロバニー島」という、赤道上の架空の島を登場させていますし、ソロモン諸島に設けたSFや、モルジブ諸島が好条件という指摘などもあります。
 B.C.エドワーズ氏は赤道直下でなくても、緯度にして南北35度程度なら建造可能と主張していて、かなり広い範囲に数か所の候補地を想定しています。反面、高緯度に設定すれば、摂動によるOEV全体への影響などが大きくなるのではないかと思われます。



 このほかに考慮すべきなのは、なんといっても政治的事情でしょう。どこかの国の領土や領海に造れば所有権の問題も出てくるので公海上の方が望ましいでしょうが、その場合でも国連海洋法条約には公海自由の原則というのがあり、加盟国が公海を継続的に占有することは原則認められず、いろんな条件が課せられたりします。

 私自身の意見では、(1)OEVの揺動への対応や、緊急時の分離などが可能なように、基部が能動的に移動できるに越したことはない (2)極力政治的対立は極力避けるべき (3)事故などの際、落下物などの被害を最小限に抑えるためにも、周囲は海の方がいい─などの理由から、公海上の浮遊型人工島か、それが無理なら特区化した小島がいいんじゃないかなあと考えます。
 いずれにしても、これだけの規模のものを造る場合は、国家間で合意形成が不可欠ですので、その点は調整がうまくいくことを祈るしかありません。

 長くなりましたが、結論としては、OEVの立地は「なるべく赤道に近い、地質活動や重力が安定した場所で、政治的にモメない場所」が望ましいということですね。

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OEV豆知識(2) 軌道エレベーターの大きさ

2009-05-06 17:24:27 | 軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーター(OEV)の全長はどのくらいだと思いますか? 研究者によってばらつきはあるのですが、5万~10万km程度が一般的のようです。これは地球の直径のおよそ4~8倍にあたります。どれも間違っているわけではありません。

 「軌道エレベーター早わかり」でも説明していますが、OEVの基本的な仕組みは、高度約3万6000kmに位置する「静止衛星」から、上下(あるいは静止軌道の内側と外側)の両方向へケーブルを伸ばして、下向きの方が地上に接するという構造です。
 静止衛星を境に、地上へ下ろしたケーブルが地球の重力に引っ張られる力と、反対側に伸ばしたケーブルが遠心力でさらに外側へ飛び出そうとする力が釣り合うために、このような構造が維持できるということはおわかりいただけると思います。

 ですから、静止軌道よりも外側には、地上へ伸ばした3万6000kmのケーブルと同じ分の重さがなければなりません。ただしこの2方向に働く力は強さが異なります。どちらも静止軌道から遠ざかるほど強くなっていきますが、遠心力の方がこの割合が小さいので、外側に同じ長さのケーブルを伸ばせばよいというものではありません。
 単純に外側にケーブルを伸ばし続けるだけで内側と重さの釣り合いをとろうとするなら、内側と外側の長さの比は1:4くらいになり、地上からの総延長は15万km程度になるとみられています。もちろん15万km伸ばすのもアリですが、多くの研究者は外側にカウンター質量、つまり「おもり」をつけてバランスをとり、全長を短めにおさえる案を採用しています。このため、構想によって全長が異なり、5万~10万kmのプランが多いのです。

 この5万~10万kmという距離を、途方もない数字だとお思いでしょうか? たとえば日本の国道の総延長は約7万kmになりますし、日々高規格化している海底ケーブルの総延長は数十万kmに達します。私たちは、OEVに匹敵する規模の建造物を、すでにたくさん造っているのです。
 

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OEV豆知識(1) 軌道エレベーター事始

2009-05-03 20:09:36 | 軌道エレベーター豆知識
 天に届く梯子。軌道エレベーターはまさにこのような代物です。歴史をさかのぼると、こうした発想は旧約聖書のバベルの塔や童話の「ジャックと豆の木」などに登場しました。

 しかし科学的なモデルとして構想されたのは、19世紀になってからでした。月面のクレーターにも名を残す「ロケット工学の父」、ロシアのコンスタンティン・ツィオルコフスキー(右。ロシアの切手から抜粋)は1895年、地球の赤道上から宇宙へと伸び、静止軌道上で無重量状態になるという塔を発想しました。
 彼のアイデアは、地上から宇宙へ建てていく建造物を想定していたそうです。しかし軌道エレベーターを地上から積み上げて造ろうとしても、構造体が自重に耐えられない上、底面積が途方もなく巨大化し、現実的ではありません。
 軌道エレベーターは軌道エレベーター早わかりでも示した通り、宇宙から吊り下げて支えるのが基本構造です。この発想が登場したのは1960年、旧ソ連のユーリ・アルツターノフによってでした。
 当時は東西冷戦の最中で、こうした構想が世界に広まることはありませんでしたが、軌道エレベーターが登場するお話で紹介しているアーサー・C・クラーク氏のSF小説「楽園の泉」に取り上げられたことが、西側諸国での普及に大きく貢献しました。

 軌道エレベーターがSFの世界から脱して現実味を帯びる大きな契機となったのが、1991年、日本のNEC基礎研究所の飯島澄男氏によるカーボンナノチューブ(左)の発見であったことは先述の「早わかり」で示した通りです。
 カーボンナノチューブの登場で、軌道エレベーターの実現を視野に入れた研究が進展し、欧米で研究者による会議や技術競技会が開かれ、日本では昨年4月に「日本宇宙エレベーター協会」(JSEA)が発足。東京でも初の国際会議を開催しました。
 当サイト管理人も昨年の米国会議で発表したり、JSEAで活動したりしてきました。この「軌道エレベーター豆知識」のコーナー(カテゴリー)では、この成果や軌道エレベーターの基礎知識を、部位やテーマ別に紹介していきます。

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