今回はちょっとマニアックな温泉を取り上げます。
上画像はガイドブックに載るほど有名なパーイの観光名所である「パーイ・メモリアルブリッジ」です。第二次大戦中、日本軍は連合国側から中国への補給路(援蒋ルート)を絶つために悪名高きインパール作戦を行いますが、その際にチェンマイからメーホンソーン方面への行軍や輜重輸送を目的として、日本軍が現地の労働力を動員してここに橋を建設したんだとか。では、目の前に架かっているモスグリーンの鉄橋がその当時の橋かと言えば、残念ながらそうではなく、当時の橋(しかも木造)はとっくの昔に失われており、現在の鉄橋はチェンマイ市内に架かっていたナワラット橋の旧鉄橋を移設転用したものなんだそうです。よく考えりゃ、当時の日本軍がこんなところで鋼材を使える余裕なんて無かったはずですから、当時のものじゃないことは自明の理ですね。でも、この地点に日本軍が戦時下に架橋したことは事実であるし、移設してきた鉄橋の風情もレトロで良いじゃん、ということで、近年になって錆び果てていた鉄橋が補修され、ペンキも綺麗に塗り直され、歩行者専用の橋として開放されて今に至っているようです。
橋の袂には昔の橋の写真が英語のキャプション付きで展示されており、上述の経緯も説明されていました。
余談ですが、「サザエさん」のマスオさんって実はインパール作戦の生き残りだという噂がありますけど、これって本当なんでしょうか(マンガのキャラ設定に本当も嘘もないかもしれませんが…)。
単なる戦争遺跡だったら観光名所にはなりにくいかと思うのですが、この辺りは「パーイ・イン・ラブ」というタイの恋愛映画によって俄然注目されるようになったらしく、それゆえ映画の撮影地めぐりをする観光客が続々やってきて、みなさん劇中のシーンを思い浮かべながらポーズを決めて記念撮影をしていました。また橋の上には撮影用の人力車も置かれていました。つまり観光客は、戦跡云々というよりも色恋云々でここへ集まっているわけですね。
商魂逞しいタイ人のことですから、観光客が集まる当地の沿道には、沢山の露店が並んでいます。ワンコも人懐こい。
さて、鉄橋の上からパーイ川の上流側を見下ろすと、中洲に留め置かれた川下りの筏が並んでいるのが見えます。筏とともに受付小屋も見えますので、川下りをする観光客はこの鉄橋下から筏に乗るのでしょうね。
その筏の受付小屋から、更に川原の右の方へ視線を転じますと、いくつかの土管が並んでいるのが確認できます。前置きが長くなりましたが、この土管が今回の目標物であります。
川原へ下りて、筏の受付小屋や四阿・公衆トイレ(有料5バーツ・タイ式・紙なし)が立ち並ぶ一角の裏手へとやってまいりました。橋の上から見た土管(ヒューム管)が目の前に並んでいますね。
鉄橋のすぐ下の川原にこんな感じでヒューム管が7つ並んでおり、それぞれには温泉を吐出する配管が立ち上がっています。また各ヒューム管には排水用のバルブも取り付けられています。すぐ傍のトイレは有料ですが、この温泉は無料で誰でも利用することができるようですし、人一人が入るには丁度良いサイズですから、せっかくなので入浴してしまいましょう。なお温泉は前回記事で取り上げたターパイ温泉から引いているんだそうです。
空っぽのものもあれば、しっかり湛水されているものもあります。でも満たされているものはかなりぬるく、そして後述する或る予感を覚えたので、敢えて湛水されている土管には入らず…
バルブを開けて空っぽの槽にお湯を張ることにしました。吐出量はかなり多く、ものの数分で全身浴に十分な嵩まで貯まりました。画像をご覧になると、湯面から湯気が上がっている様子がお分かりいただけるかと思います。
では入浴してみましょう。私が入るとこんな感じです。ちょうど良い具合に土管が体にフィットし、お湯の温度も40℃くらいなので、抜群な開放感のもと、実に気持ち良い湯浴みを体験することができました。でも鉄橋から丸見えですし、着替えやすい場所もありませんから、私のように入浴したければ、観光客が少ない時間帯(平日の朝など)が宜しいかと思います。実際に私もホテルで自転車を借り、朝食後の比較的早い時間に訪問しました。
ところで上述で、既にお湯が張られている土管を見て私は「或る予感」を覚えたと記しましたが、その予感とは、このお湯が露店の人々の生活用水として用いられているのではないか、ということです。温泉に浸かる習慣があまり普及していないタイでは、温泉を単なる温かい生活用水程度に扱うところが多く、周辺の状況から当地でも同様なのではないかという推測に至ったのですが、案の定というべきか、私の湯上がり後しばらくしてから、橋付近の露店より人がこちらへ下りてきて、土管のお湯で食器を洗い始めました。つまり入浴するためではなく、すぐに生活用水として使えるよう、土管に常時お湯を張り、手桶も備え付けていたわけですね。ということは、私が入浴した土管も、お湯を張りっぱなしにしていたら、誰かがやってきてそのお湯で食器を洗ってしまうかもしれず、それではさすがに私の良心が許さなかったので、入浴後は排水バルブを開けて、槽内のお湯を空っぽにしておきました。ということで、当地で入浴しちゃダメということでは無いでしょうけど、もし入浴したら、お湯は空っぽにしておいた方が良いかもしれませんね。
いずれにせよ、マニア心をくすぐる面白い温泉でした。鉄橋上から観光客におもいっきり見られてしまいますが、羞恥心より温泉入浴欲求の方が勝ってしまう方は是非どうぞ。
GPS:19.297393N, 98.465533E,
いつでも利用可能
無料
備品類なし
私の好み:★★+0.5