日光の市街地からさほど離れていないところで良い温泉は無いかと探していたところ、霧降高原の手前に掛け流しの温泉浴場があるという情報を入手したので、その情報が映し出されているスマホを片手に現地へ車を走らせました。霧降大橋から高原方面へ県道163号の坂道を登ってゆきますと、道路の左側に「ホテルカジュアルユーロ」(ホテルユーロシティの別館)という不自然に欧風なホテルが建っているのですが、お目当ての温泉はどうやらその敷地内にあるようです。宿泊するわけでもないのにそのホテルの敷地に入って瀟洒なホテル棟の前を通り過ぎますと、奥の方に「ゆ」という一文字が記された看板が立っていました。本当にこんなところに温泉浴場があったんですね。駐車場は更に奥にありますので、ここはひとまず「ゆ」の看板を通りすぎて駐車場に車を止めます。
「ゆ」の看板の傍ではホテルの付帯施設であるコテージが電飾をきらめかせていました。またコテージの手前には貯湯タンクと思しき施設があり、お湯をどこかへ運搬するローリーを積んだトラックが止まっていました。なおここのホテルは全室に温泉の露天風呂が設けられているんだとか。
今回入浴する「きりふり温泉 ほの香」もホテルの付帯施設のひとつなのですが、この浴場は宿泊の有無に関係なく、料金を支払えば誰でも利用することができるんですね。というか、実質的には外来客の利用をメインにしている感があります。施設自体はこぢんまりしており、受付などの無い無人施設でして、券売機で料金を支払い、発券されたチケットを券売機に括り付けられているプラスティックの箱に投入してから浴室へと入ります。券売機の上には2台の監視カメラが睨みを効かせていました。
ちなみに駐車場から見るとこんな感じ。仮設のようにも見えますが、この姿のまま何年も営業しているので、仮設ではなく本設の建物なのであります。
無人の浴場施設ですが、券売機の左側にはお座敷の休憩室があり、入浴客でしたら自由に利用できます。なおこの休憩室にはロッカーがありますので、貴重品はこちらへ預けましょう(脱衣室にロッカーはありません)。
脱衣室は民宿かペンションのお風呂のようなコンパクトな造りで、3~4人以上の同時利用だとちょっと窮屈かも。とはいえ棚や洗面台、そしてドライヤーなど必要な物はひと通り揃っていますし、トイレや扇風機なども備わっていますので、利用に際して不自由は全くありませんでした。また無人とはいえ定期的にスタッフのチェックが行われるのか、清掃もちゃんと行き届いていました。
浴室は至って実用的な造りで、奥に浴槽が一つ設けられており、手前の左右両側にはシャワー付き混合水栓が2基ずつ計4基取り付けられています。また壁には白いタイルが斜め格子に貼られていますが、側面2方向に大きな窓を設けたり、スポットライトを壁に当てて間接照明のようにすることにより、明るさと落ち着きを兼ね備えた大人な雰囲気を醸し出していました。
浴槽は3~4人サイズの長方形で、縁には黒い御影石が用いられており、槽内は石板タイル貼りです。隅っこの湯口からはお湯が絶え間なく注がれ、縁から床へオーバーフローしていました。湯加減は42~3℃ほどで、加温加水の有無は不明ですが(おそらく無いでしょう)、れっきとした放流式の湯使いです。なお槽内には上下に並んだ穴を埋めた跡があったのですが、これはジェット風呂を稼働させようとした名残なのでしょうか。現在の湯船にそのような装置はなく、ただ静かにお湯が掛け流されているばかりです。
このお風呂は一見すると何ということのない普通のものなのですが、深さといい、石板の感触の良さといい、縁に頭を載せて足を伸ばした時に体が浴槽へうまい具合に合う感じといい、私の体にジャストフィットする造りでして、お湯の柔らかさや優しさと相俟って、すっかり気に入ってしまいました。自分の体に合う湯船ってなかなか出会えないものですよね。
内湯浴槽の右手前の隅には三角形の小さな板が被せてあるのですが、これは露天へ出るための足場でして、この心細い足場からサッシを開けて屋外に出ると露天風呂となります。日本庭園風露天風呂のステレオタイプに忠実に従って拵えたような凡庸な趣きであり、竹垣を模した化成品のエクステリアで目隠しされているため景色を眺めることはできませんが、限られたスペース内に松や紅葉など基本的な植栽を施したり、石灯籠を据えたり枯山水のように砂利を敷き詰めたり、塀の向こうに連なる日光の山稜を借景にしたりと、庭園としてはなかなか本格的であり、しかも訪問時はちょうど黄昏時だったため、空が闇に包まれゆこうとする中、薄暮のボンヤリとした明かりに山稜の姿が映え、とても美しい情景を目にすることができました。
露天風呂はいわゆる岩風呂であり、2人入ればいっぱいになってしまいそうなコンパクトなものです。内湯同様にこちらも放流式の湯使いであり、石をくりぬいて竹筒を突っ込んだような湯口からお湯がトポトポと落とされ、縁から絶えず鉄平石の床へ流下しています。そして私が湯船に入るとザバーっと音を立てながら勢い良く溢れ出ていきました。外気に冷却されちゃうためか、湯加減は内湯よりぬるい40~41℃でしたが、ぬる湯が好きな私にとってはむしろ好都合であり、しばらくお客さんがやってこなかったのを幸いに、じっくり長湯を楽しませてもらいました。
お湯は無色澄明でほぼ無味無臭ですが、僅かに重曹味とアルカリ性泉的な微収斂があったように記憶しています。湯口付近を中心に湯中では細かな気泡が浮遊しており、入浴中の肌には弱いながらも泡付きが見られました。色や味・匂いにはほとんど特徴が無いのですが、入浴中は優しく柔らかなフィーリングが全身を包み、サラサラスベスベの浴感と抜群の鮮度感が実に心地よく、湯上り後も全身が程よく温まり且つ爽快感も得られました。知覚的特徴こそ無色透明無味無臭のお湯ながら、実際に入浴すれば単なる沸かし湯とは全く異なる本物の温泉であることが実感できるかと思います。ちょうどこの時の私は、前回まで連続で取り上げていた日光湯元温泉の硫黄のお湯にハシゴして浸かっていたので、この癖のないアルカリ性単純泉が、まるで上がり湯のような優しさと心地よさをもたらしてくれました。
アルカリ性単純温泉 45.1℃ pH8.8 400.01L/min(動力揚湯) 溶存物質0.207g/kg 成分総計0.208g/kg
Na+:45.1mg(88.52mval%), Ca++:4.4mg(9.93mval%),
Cl-:1.7mg(2.17mval%), HCO3-:91.3mg(67.78mval%), CO3--:10.1mg(15.27mval%), HS-:0.2mg, SO4--:8.5mg, OH-:0.1mg,
H2SiO3:42.2mg,
東武日光駅より徒歩16~17分(1.5km)
栃木県日光市所野1550-89 地図
0288-53-3838
ホームページ(ホテルユーロシティ・ホテルカジュアルユーロ)
10:00~22:00
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5