チェンマイの市街中心部から北東へ車で約30分(30km強)ほど走った先にあるドーイサケット温泉(Doisaked Hot Springs)は、周囲に水田が広がるばかりの至って長閑な田舎の温泉ですが、サンカムペーン温泉の観光地化および料金の値上げを忌避する現地滞在邦人の皆さんは、こぞってこのドーイサケット温泉へとやって来るんだそうです。私もチェンマイ市内でレンタカーを借り、現地へ行ってみることにしました。
チェンマイからアクセスする場合は、118号線をチェンライ方面へ30キロ近くひたすら進んで小さな峠を越え、途中で右折して3005号線を2キロ進めば辿り着けます。118号線や3005号線の路肩にはこのような標識が立っていますので、私もGPSのお世話にならずに到達できました。距離的には、チェンマイでバイクを借りて日帰り旅行するにも丁度良いかと思いますし、3005号線をそのまま南下すればサンカムペーン温泉にも行けちゃいますので、2つの温泉をハシゴすることだってできるでしょう。
温泉一帯は公園のような広場となっており、宿泊施設はありませんが、個室風呂や売店などの他、マッサージコーナーやカフェなど、ひと通りのものは揃っているので、温泉に浸かって心身を癒やしながら、田舎の静かな環境で日がなノンビリ過ごすにはもってこいかもしれませんね。またこうした外来客向けの施設のほか、地元民が日常生活で使うための温泉をストックしている槽、いわゆる「ジモ専」がいくつもあり、温泉エリアに入ってまず目に入ってくるのがそれらの温泉槽群です。コンクリ造で四角形のタイプもあれば土管風呂のようなものもあったりと、その形態は様々です。
私は朝9時過ぎに当地を訪れたのですが、ちょうどジモ専の槽では、地域住民の方々が温泉を使って洗濯をしていました。時間帯によっては、頭からお湯を被って一日の汗を流している人々の光景も見られるようです。
一見すると養魚場みたいなジモ専の温泉槽。お湯は泥でちょっと濁っていますね。日本人温泉マニアの端くれとして、私はここで入浴してみたい衝動に駆られたのですが、各槽の畔には入浴NGの看板が立てられていますので、ここでは見学のみに留めておきました。こちらでは温泉を生活用水かわりに使ったり、あるいは沐浴するような感じで(しかも大抵は着衣のまま)掛け湯するのが、一般的な温泉の利用方法なのであります。
敷地内にはあちこちに温泉槽があるんです。この槽は元々上屋があったような造りでして、入浴してくれと言わんばかりの雰囲気ですが、ここにも入浴NGの看板が立っていました。縁に手桶が置いてあるので、ここは掛け湯するための槽なのでしょうね。
続いて公園内の最奥部へ向かいますと、そこにはフツフツと煮えたぎる熱湯が自噴する源泉が、濛々と湯気をあげていました。源泉の周囲に立てられた武骨なフェンスが、いかにこのお湯が熱くて危険であるかを物語っています。
源泉や湯気から伝わる熱気に圧倒されそうになりながらカメラを構えていますと、売店の方からおばちゃんがやってきて、籠に入れた野菜を温泉に浸して茹ではじめました。温度計を突っ込んだら75.4℃という高温を計測。
源泉のお湯は、小川に沿っているコンクリの流路を、川水をブレンドさせながら下ってゆきます。流下に連れて温度も程よく冷めるため、コンクリの川岸に腰を掛けて足湯を楽しむ方もいらっしゃいました。
小川を挟んだ足湯の対岸には、雑貨や食料品を売っている露店があり、南国らしい果物がたくさん陳列されていました。日本ってフルーツがかなり高価ですが、南国は僅かなお金で甘い果物を食べられますから、フルーツ好きの私にとっては天国のように思えてしまいます。
タイのリラクゼーション施設にマッサージは欠かせませんね。長閑な田舎の公園にもかかわらず、こんな立派なマッサージ小屋があるんですから、さすがマッサージ大国です。1時間120バーツですから、日本円に換算したら約380円ですよ。日本でしたら10分当たり1000円が相場ですから、1時間だったら6000円。つまり16分の1で済むんです。その価格差には目眩がしそうでした。
カフェが2軒もあるのには驚きました。それだけドーイサケット温泉を訪れる観光客が増えてきているのでしょうね。しかも店内ではWiFiが使えるみたいですよ。
観光客の増加はカフェのみならず、お風呂にも影響が及んでいるようであり、最近になってランナー建築っぽい小さなコテージが建てられ、その内部に設けられた2室のVIP風呂が供用を開始したそうです。後述する従来からの個室風呂ですと、その佇まいがあまりに渋くて一般客受けしないのでしょうね。私はチラっと中を覗いて画像を撮るだけに留めましたが、私が退室して間もなく、レクサスに乗ってやってきたファミリーが建物の真ん前に車を止め、このお風呂へと入っていきました。需要は確かにあるようです。
私が今回利用したのは従来からある普通の個室風呂です。当地で全身浴できるのは、この個室風呂か上述のVIP風呂のいずれかのみです。料金は上述の露店で支払います。どの人が担当係員なのかわかりませんでしたが、私の場合は近くにいたおばちゃんに、個室風呂の建物を指さしながら「ナンプーローン(タイ語で「温泉」の意味)」と言ったら、然るべき人を教えてくれました。タイの人は親切ですから、言葉が通じなくても身振り手振りで何とかなっちゃうんですね。
公園は広々としているのに、入浴できる個室は5室、VIP風呂の2室を合わせても7室しかないため、特に週末の夕方になると空き待ちが発生してしまうんだそうですが、私が訪れたのは平日の午前中だったので、先客は誰もおらず、自分の好きな個室を自由に選べました。といっても、どの部屋も同じような造りなので、どこを選んでも大差ないんですけどね。ドアを開けて入室します。
個室の内部は、少なくともサンカムペーン温泉やルンアルン温泉よりはゆとりがあり、タイル貼りの浴槽は2~3人は同時に入れそうなほど大きなものです。壁には服を掛けるフックが取り付けられている他、腰掛けや手桶も備え付けられています。ただ、バッグを置けるスペースが無かったため、私は腰掛けを荷物置き代わりにしました。
正方形の浴槽には予めお湯が張られており、その温度は38.1℃とタイ人向けのぬるめになっていました。でもこの温度じゃ物足りないので…
コックを開けて源泉をドバドバ継ぎ足し、日本人好みの温度まで熱くしました。湯口から吐出されるお湯は47.5℃でpH8.0。お湯からはタマゴ臭がふんわり漂い、口にすると明瞭なタマゴ味と微かな塩味、そして石膏甘味が感じられ、そしてスル&スベとした浴感が得られました。温度やpH、そして私の実感から申し上げれば、弱アルカリ性の低張性高温泉といったところでしょう。継ぎ足し式ですが純然たる放流式の湯使いであり、タマゴ感を有する源泉の質感をしっかりと味わせる良いお風呂でした。
静かで長閑な環境のもと、サンカムペーンよりも安くて広いお風呂で、放流式の温泉を堪能できるんですから、温泉にうるさい邦人の皆さんがこちらを選ぶのは必然かもしれません。また日常生活に温泉を活用している地元の方の暮らしに触れられる点でも、訪問する価値があります。
風呂あがりに売店へ寄ってカゴに入ったタマゴを買い、私も温泉タマゴを作ってみることにしました。売店のおばちゃん曰く「10 minutes」とのことなので、フェンスに立てかけてある竹竿の先にカゴをぶら下げ、源泉の熱湯に浸して待つこと10分。立派な温泉卵の出来上がりです。次の目的地へ向かう途中の車内で、小腹を満たすべく運転しながら温泉卵を頬張ったのですが、これが美味いのなんの。味付けなしでも十分美味しくいただけました。タイの温泉は楽しいですね。
公共交通機関は無いので、チェンマイ市街でトゥクトゥクをチャーターするか、あるいはレンタカーかレンタルバイクで、チェンマイ市街中心部より118号線をチェンライ方面へ走行し、ドーイサケットの街を過ぎて小さな峠を越えたら、標識に従ってゲートのある丁字路を右折し、3005号線を2kmほど南下。チェンマイから30~40分。
GPS:18.909920N, 99.245578E,
個室風呂利用可能時間7:00~19:00
一般個室40バーツ、VIP個室80バーツ
私の好み:★★★