半透明記録

もやもや日記

「大西洋横断」ジャン=フランソワ・ラギオニ

2009年11月24日 | 映像(アニメーション)

DVD『ジャン=フランソワ・ラギオニ短篇集』所収



《あらすじ》
誰も成し遂げたことのない小舟での大西洋横断という冒険に向けて、【愛と勇気号】に乗って一組のカップルがニューヨーク港を出航した。妻と夫は、その長く続く冒険の様子を交互に一冊のノートに記していくのだが……

《この一言》
“ 結局わたしたちの航海は短かったのかしら

 そうだ
 短かったんだよ           ”



私の好きなアニメーション、2日目。
この「大西洋横断」という短篇アニメーションもまた、私が何度も繰り返して観ている作品で、『ジャン=フランソワ・ラギオニ短篇集』として前にも記事を書いたことがあります。このラギオニ短篇集はとても素晴らしい作品集で、私の一番のお気に入りのDVDです。絵画調の色鮮やかで美しい切り絵によるアニメーション。悲しい物語。しかしどことなくおどけたようなユーモアも感じられます。完成された素晴らしい作品ばかりです。

さて、「大西洋横断」ですが、まだご覧でないという方は、この先はストーリーについて詳しく言及しておりますのでご注意ください。以下、おおまかに物語をまとめてみました(結末含む)。

**********************

*若い夫婦は、大勢の人に見送られてニューヨークを出航する。彼らの乗る小舟の名は【愛と勇気号】。ふたりは仲良くオールを漕ぎながら、美しい海を渡って行く。

*出航から1年ほど経つと、妻は不眠を訴えるようになる。海は少しずつ暗くなってきたような気もする。

*ある晩、近くを通り過ぎて行った大型客船が沈没するのを目撃する。ふたりは備蓄の砂糖が減っている件でけんかをし、互いに背を向けて漕いでいるのでなかなか進まない。

*海は暗さを増し、大波が【愛と勇気号】を襲う。真っ暗な海の真ん中で、妻と夫はオールをふりかざし、相手に打撃を与え合う。妻は舟から転落し、夫は妻が流されて行くのを見送る。

*悪夢から目を覚ました妻は魚の骨を子供に見立ててあやしている。夫はそれを無言で眺める。ふたりは小舟の上で完全に背を向け合い、互いに無関心になっていく。

*そうやって長い年月を過ごしたふたりに、老いと死の影が迫ってくる。必死で逃げようとするふたり。

*多くの荒波を越えて、いつしかふたりとも、ずいぶんと年を取ってしまった。ここへきて初めて、夫は海の美しさを語る。

*夫が目を覚ますと、妻は服を脱いで海に入り、顔をこちらに向けて微笑んでいる。夫もまた服を脱ぎ、海に飛び込む。
 小舟はふたりを静かな海に残し、流れ去って行く。

 ある日、どこかの海岸に無人の小舟が流れ着く。舟には一冊のノートが残されていたが、とくに珍しいことは書かれていなかった。

**********************


という、とても味わい深く、感動的なお話です。結末にさしかかると、私はいつも目に涙をいっぱいに溜めてしまいます。
昨日はディズニーの『美女と野獣』を取り上げましたが、たとえばあのお話のように若く、美しく、幸福の絶頂にあった一組のカップルの、その先の人生にはこのような困難が用意されているかもしれないと思うと、誰かとともに生きる人生というものについてあれこれと考えさせられるではないですか。

ふたりで小さな小舟に乗って漕ぎ出す。素敵で楽しい日々はしかし長くは続かず、疑念と裏切り、憎しみと嫌悪がどんどんと増していき、ついには諦めと無関心がふたりを支配する。けれども、それにもかかわらず小舟に一緒に乗り続けたふたりは、最後の最後で何にも惑わされることのない真実の平穏と愛情を得るのでした。

これは泣かずにはいられません。いろいろな意味で。

それにしても、この十分に美しく感慨深い物語を一層優れたものとしているのは、エピローグの部分ではないでしょうか。ふたりを下ろした無人の小舟が海岸にたどり着く。舟には一冊のノートが残されていて、そこには「大西洋横断」の冒険に漕ぎ出したふたりの記述がびっしりと埋められている。にもかかわらず、

 “ 重要な記述はなかった ”

と締めくくられています。重要な記述はなかったんです! ああ!
傑作ですね。ほんとうに。素晴らしいなぁ!


ところで、上にはあらすじしか書いてないのでまったく伝わらないと思いますが、この物語を、ラギオニは素晴らしく美しい幻想的な映像で表現しているのです。ついでに音楽も恐ろしく良い。これはいったい、なんという美しさだろう! 完全。完璧。




参考までに、以下のところで探すと、この人の作品を観られることもあるかもしれません。
 →http://www.nicovideo.jp/

また、DVDで出ている『ジャン=フランソワ・ラギオニ短篇集』は個人的にはかなりお買い得であるかと思います。「大西洋横断」の他にも、「ノアの方舟」「お嬢さんとチェロ弾き」「ある日突然爆弾が」などなど名作が目白押しです。おすすめです♪




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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ラギオニ (パーセク)
2009-11-25 21:54:41
僕は、瑣末な部分が印象に残る作品がいい作品だと経験的に感じるのですがこのラギオニの短編でも愛と勇気号クラリネット、デイリー・スター、消えた砂糖(これは重要部ですが)などの断片的要素が印象深く胸に刻まれました。やっぱり叙情性をかもすには、印象的な小物の使い方が重要ですね。分かったような口をたたいてますが。
お嬢さんとチェロ引きなどは正直なんだったのか良く覚えていませんが、ラギオニのものをもっと見てみたくなりました。大学の映画研究会の仲間などにも教えてあげたいです。
それとKings of Convenienceというバンドが新しいアルバムを発表したのですが、Boats Behindという曲のビデオが美しい青春!って感じでよかったです。お好きかどうか分かりませんが、YouTubeにもあるので良かったら見てみてください。
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まさに! (ntmym)
2009-11-25 22:42:05
パーセクさん、こんばんは☆

>印象的な小物の使い方が重要

というのは、ほんとうですね。特にこの作品では小物の使い方がとても上手ですよね。要所要所で素晴らしい効果をあげていると私も思います(^^) 最後にふたりがノートに文字ではなく絵を描くところなどは、もう胸がいっぱいになります。

「お嬢さんとチェロ弾き」はたしかにどんな話なんだかよく分かりませんよね; ラギオニの作品で私のおすすめは、「ノアの方舟」ですかね。微妙に恐ろしい話なのですが,私はどうしても笑ってしまうのでした…。あとは「ある日突然爆弾が」もオチが秀逸なので好きです。

Boats Behindという曲がパーセクさんのおすすめとのことで、早速観に行ってきました!
何と言うか、たしかに青春ですね(^^) 私は羽根のついた女の子が出てきたあたりで既に胸がぎゅっと痛みましたよ。青春だなぁ!
メロディも歌声も美しいですね♪ 素敵なビデオクリップを教えていただき、ありがとうございました♪♪

(ところで、映画研究会だなんて、素敵ですね! 青春を楽しんで下さい^^)
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