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G.ガルシア=マルケス 鼓直・木村榮一訳
(ちくま文庫)
《内容》
コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短篇集。“大人のための残酷な童話”として書かれたといわれる六つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を収める。
《収録作品》
*大きな翼のある、ひどく年取った男
*失われた時の海
*この世でいちばん美しい水死人
*愛の彼方の変わることなき死
*幽霊船の最後の航海
*奇跡の行商人、善人のブラカマン
*無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語
《この一文》
“「まだ子供だね」と彼は言った。
「そんなことはありません。この四月で十九歳になるんです」と彼女は答えた。
上院議員は興味を持った。
「何日だね?」
「十一日です」と答えた。
上院議員は気が楽になった。
「すると、私と同じ牡牛座だな」そう言うと、ほほえみながらこうつけ加えた。「孤独の星だ」 ”
――「愛の彼方の変わることなき死」より
私にとっては、好きとか嫌いとか、そういう次元にはない1冊です。なんだか久しぶりに読み返したくなったので、読んでみました。この本のことを記事にするのは2度目です。
これまでにも何度か読み返してはいたのですが、今日になってはじめて、私はこの人のお話を読んで笑ったことがないということに気がつきました。翼に大きな翼のある、よぼよぼの男は雨の中を惨めに行き倒れており、またある晩には、海の向うから薔薇の香りが漂ってきて老婆は夫に自分を墓に生き埋めにして欲しいと頼み、またある貧しい村には見たこともないような美しい水死人が流れ着き、その美しさに打たれた村人は見知らぬ水死人のために盛大な葬式をとりおこなう。こんなにも奇妙な物語ばかりなのに、奇妙な光景が次々と繰り出されるのに、そこにはユーモアの気配がない。美しい水死人はエステーバンという名前だったんじゃないか、と決めつける村人たち。なにそれ。なに言ってるの? でも全然笑えません。恐ろしく大真面目なのです。
18歳だった私が(次の4月末で19歳になる冬のことだった)その時なにに驚いたのか、今でははっきりと思い出すことはできませんが、たぶん今日と同じように驚いたのでしょう。とにかくびっくりする。あまりに面白くてびっくりします。なんだこれ。いったいどうなっているんだろう。
ここから始まって、あれから私もさまざまなものを読みました。けれども、また最初に戻ってきたら、あれから私はあまり変わっていないことを知らされます。今でも読みこなせない。分からないことばかり。少しの分析すらできない。そんな気持ちさえ起こらない。ただ面白くて。
別に私は、他にたくさんある私の好きな本を読んだときのようには悲しくもならないし、うっとりするわけでもない、そもそもここに収められた物語の持つ意味すら掴めません。ただ面白い。ただ凄い。
世の中は私が思っている以上のものであるらしいと、今日もやっぱり思いました。
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