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『二壜の調味料』

2010年03月01日 | 読書日記ー英米

ロード・ダンセイニ 小林晋 訳(早川書房)




《あらすじ》
調味料のセールスをしているスメザーズが、ふとしたことから同居することになった青年リンリーは、ずばぬけて明晰な頭脳の持ち主だった。彼は警察の依頼で難事件の調査をはじめ、スメザーズは助手役を務めることに。数々の怪事件の真相を、リンリーは優れた思考能力で解き明かしていくのだった――江戸川乱歩が「奇妙な味」の代表作として絶賛したきわめて異様な余韻を残す表題作など、探偵リンリーが活躍するシリーズ短篇9篇を含む全26篇を収録。
アイルランドの巨匠によるブラックユーモアとツイストにあふれたミステリ短篇集、待望の邦訳!

《この一文》
“ わたくしのことを覚えていらっしゃるかどうか。リンリーさんに関するお話を一つ二つ披露した者です。名前はスメザーズです。素晴らしい頭脳の持ち主リンリーさんのことは記憶にとどめておく価値がありますが、わたくしのことは覚えていらっしゃらないでしょう。それでも多くのお宅にお邪魔したことはあるのですよ。覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、わたくしはナムヌモのセールスをやっています。
 ――「二人の暗殺者」より ”



ロード・ダンセイニと言えば、『ペガーナの神々』『妖精族のむすめ』などなど、古典ファンタジーの大物です。…と、まだよく知らないくせに言ってみる; でも有名人なのは間違いありません。『魔法使いの弟子』なら、私も読んだことがありました。そのダンセイニによるミステリ……。それはいったいどういうものなのか、私はまったく見当がつかず、興味津々だったので、古書店にて定価の半額で売られている本書を見つけた時、一瞬の迷いもなく購入しました。そしてこの判断は正しく、この本は大当たりでした。


さて、有名なのは表題作の「二壜の調味料」とのこと。どうやらシリーズ物であるらしく、これはその第1作目。主な登場人物は、調味料ナムヌモのセールスをしているスメザーズ、その同居人でオクスフォード大学を出たばかりの頭脳明晰な青年リンリー、それからリンリーの頭脳を頼りにしてときどき尋ねてくるスコットランド・ヤードのアルトン警部。

というわけで、私は早速読んでみましたが、これは、なるほど、「奇妙な味」です。どこがどのように奇妙なのか、ここで書いてしまっては詰まらないので実際に読んでみてくださいとしか申し上げようもありませんが、しかし、ともかく、なるほど奇妙な感じなのです。これは…ミステリなの…か? いや、事件があり、推理があり、解決があるからには確かにミステリなのですけれども、すっきりするようなしないような感じが独特の読み応えです。

私はひとまずスメザーズとリンリーのシリーズ9篇を読み終えましたが、好き嫌いで判断するならば、これは非常に好きな種類のお話であったと言えます。表題作を読み終えた段階で、すでにかなり興奮しました。物語は一貫してスメザーズの視点によって語られるという形式をとっていますが、その語り口が非常に魅力的です。スメザーズとリンリーとの間の一定の距離を保ちつつも品よく深まって行く信頼関係のようなものも、実にうまく語られています。これは面白い。やたら面白い。スメザーズという人物の造形がすごくいい。


シリーズ以外の短篇も半分くらいは読みましたが、いずれもじわじわと面白みが伝わってくるような作品ばかりで、なかなか楽しめそうです。ただ収録作品数が多いので、一息で読んでしまうよりも、少しずつ読み進めるのが良さそうです。嬉しいことですね。

ダンセイニという人について、私はまだよく知らなかったのですが、それにしても、こんなに引き出しの多い人であることが分かったのは良かったです。その他のファンタジー作品も、いよいよ読んでみたくなりました。