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もやもや日記

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『つみきのいえ』

2009年12月18日 | 映像(アニメーション)


*監督・アニメーション:加藤久仁生
*脚本:平田研也
2008年公開


『或る旅人の日記』をずいぶん昔に観たことがあったので、私はこの加藤氏のことはずっと認識していました。それでこのあいだ、この方が『つみきのいえ』でめでたくも大きな賞をいくつも獲得なさったのを聞いても、あまり驚きはありませんでした。そうかついに、と思っただけです。ただ、この人はまだ若いのに、ずいぶんと努力研鑽なさったのだろうとは思いましたけれども。非常に繊細で優しく、それでいてどこか寂しげな世界観を持った美しいアニメーションを作る人であるようです。

私は『或る旅人の日記』を観たことがあると申しましたが、この作品はひとりの旅人が不思議な街を旅して歩くというような幻想的な作品でした。すごい!とは思ったものの、この人が描きたいであろう世界に比べて、仕上がっている作品の方は若干荒削りというか、直接的過ぎるというか、そういう印象はありました。あ、つい生意気なことを書いてしまいましたけれど、私は当時この作品がとても好きだったんですよ。はっきり言って、衝撃的だった。

そして『つみきのいえ』です。私は『或る旅人の日記』以来、加藤氏の作品には触れたことがなかったので、この人がどういうところを経てここまでやってきたのかを存じ上げないのですが、この『つみきのいえ』では、この人が描きたい世界と、その表現力や技術力のすべてがいよいよぴったりと合致しているように感じました。素晴らしく美しいアニメーションです。物語も、音楽も、色遣いも、美しい。

小さな家に暮らすひとりの老人。穏やかな生活を送る彼がある朝目覚めると、床上に浸水している。この部屋もまた沈んでしまう。また上に増築して引越さなくては。ところがうっかり愛用のパイプを水の底へ落としてしまい、老人は過去の記憶を辿るかのように、水の底へ底へと潜っていき……というお話。

私の観たDVDでは、【本編】と【本編(ナレーションあり)】という2種類が視聴できましたが、私の意見では、ナレーションがないほうがこの作品の魅力を最大限に味わうことができると思います。別に長澤まさみさんのナレーションがどうとか言うわけではありませんし(彼女はとても可愛いから好きだが、しかしあの舌っ足らずさはこの作品には合わないような気がする)、語られる言葉の数々もそんなに悪くはない言葉の連なりですが、やはりちょっと余分だと思うのです。アニメーションだけで十分に伝わるのに、言葉は余計なのではないでしょうか。もったいない。まあ、好みの問題もあるのでしょうけれど。


聞くところによると、この『つみきのいえ』についてはさまざまな意見があるそうです。私の感想としては、これは素晴らしく胸を打つ美しい物語です。人生に対する暖かな希望が示されています。年を取るごとに人や物がどんどんと自分のもとを過ぎ去っていく寂しさや悲しみを感じながらも、それが実はいつもすぐそばに静かに確かに蓄積していて、過ぎ去ったものを自分は必ずしも失っているわけではないのだと知ることで、今はただひとりで暮らすようになった老人もその人生の豊かさを喜びを、はじめて自分のものとして取り戻すようでした。人生は美しいではないですか。すべてが過ぎ去っていくことさえも美しいではないですか。これが感動せずにいられるだろうか。これを愛さずにいられるだろうか。



というわけで、泣くのをうぐぐうぐぐと必死でこらえなくてはならないような感動的な作品でした。素晴らしい!!