半透明記録

もやもや日記

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『東欧怪談集』

2008年08月28日 | 読書日記ー東欧
沼野充義 編(河出文庫)



《収録作品》
*ポーランド
・「サラゴサ手稿」第五十三日 トラルバの騎士分団長の物語(ヤン・ポトツキ)
・不思議通り(フランチシェク・ミランドラ)
・シャモタ氏の恋人(ステファン・グラビンスキ)
・笑うでぶ(スワヴォーミル・ムロージェック)
・こぶ(レシェク・コワコフスキ)
・蠅(ヨネカワ・カズミ)

*チェコ
・吸血鬼(ヤン・ネルダ)
・ファウストの館(アロイス・イラーセク)
・足あと(カレル・チャペック)
・不吉なマドンナ(イジー・カラーセク・ゼ・ルヴォヴィツ)
・生まれそこなった命(エダ・クリセオヴァー)

*スロヴァキア
・出会い(フランチシェク・シヴァントネル)
・静寂(ヤーン・レンチョ)
・この世の終わり(ヨゼフ・プシカーシ)

*ハンガリー
・ドーディ(カリンティ・フリジェシュ)
・蛙(チャート・ゲーザ)
・骨と骨髄(タマーシ・アーロン)

*ユダヤ
・ゴーレム伝説(イツホク・レイブシュ・ペレツ)
・バビロンの男(イツホク・バシヴィス(アイザック・シンガー))

*セルビア
・象牙の女(イヴォ・アンドリッチ)
・「ハザール事典」ルカレヴィチ、エフロシニア(ミロラド・パヴィチ)
・見知らぬ人の鏡「死者の百科事典」より(ダニロ・キシュ)

*マケドニア
・吸血鬼(ペトレ・M・アンドレエフスキ)

*ルーマニア
・一万二千頭の牛(ミルチャア・エリアーデ)
・夢(ジブ・I・ミハエスク)

*ロシア
・東スラヴ人の歌(リュドミラ・ペトルシェフスカヤ)


《この一文》
“「ああ! だめなのは知っておった。おまえのようなやつは沢山おった。誰もがだめで、誰もが何かしら義務を果たさねばならなかった……、たった今この瞬間にも……、神様通りや、明白通りや、美麗通りで……。結構……、行け、行ってしまえ……」
「ご住所をお教えください!」彼は頼んだ。
「住所? 知っておるではないか……」 

     ―――「不思議通り」(フランチシェク・ミランドラ)より”




おかげで満ち足りた日々を過ごすことができました。いえ、内容はぞっとするような髪の逆立つような身の竦むようなものばかりなのですが、しかしこれを私は長らくずっと待ち望んでいたのです。なので、読んでいる間はずっと満たされていました。そう、これを読んでいる間は………。

ああ、あの時買っておけばこんなことにはならなかったのに……。どうしてもこの本を手に入れることができないでいる私は、ついに図書館へ行って借りてきたのでした。今はまだいい、図書館で借りられるうちは。しかし、図書館の蔵書から外されてしまったら、私がこの図書館を利用できない地域に移り住んでしまったら、そのときは一体どうしたらいいのだ。そう考えると、私の心は巨大な恐怖に凍り付くのでした。一刻も早く手に入れなくては……。というか、なぜいつまでも絶版なんだ、河出め………。


さて、粒揃いのアンソロジーというものにはなかなかお目にかかれないものですが、河出の『怪談集』シリーズは今のところハズレがいっさいありません。『ロシア』も『ドイツ』も『ラテンアメリカ』も良かったけれど、この『東欧』も素晴らしいものでした(あとのアメリカ、イギリス、フランス怪談については、愚かな私は持っていない上に未読。なんて愚かなんだ!)。

あー、面白い、あー、面白い。どれもこれもが異常な魅力を放っていましたが、私が特に衝撃を受けたのは、上に引用した「不思議通り」(フランチシェク・ミランドラ)。ごく短い物語なのですが、これがもの凄い。はり倒されました。

物語は、電信局に勤めるある男が家に帰ると、水道の蛇口から水がぽたぽたと垂れていて、それが「不思議通り三十六番地……不思議通り……」と言うように聞こえる。いたたまれずに家を飛び出した彼は、店で老人に出会う。老人は「不思議通り」を知っていると言う……。

と、まあ、こんな感じの話です。やばい、すげー面白い。どうしよう。どうしよう! と私は興奮を抑えきれず転げ回りました。ますますこの本を欲しい気持ちがせりあがった瞬間です。

他にも、「サラゴサ手稿」(完訳版が出るらしいという噂がありますが、いまだ実現していないそうです。がんばれ創元社)、「ファウストの館」、「不吉なマドンナ」、「ゴーレム伝説」(短いが恐い)、「バビロンの男」(暗黒な雰囲気がいい)「見知らぬ人の鏡」(説明不要の恐怖物語)、「夢」(立ち直れなくなりそうな残酷物語)などなど、やっぱりほぼ全ての物語が異常に面白かった。幻想的な美しさを持つものから、底知れぬ狂気をのぞかせるものまで、どれもこれも不思議な魅力で私を圧倒しました。わああーーー!

一回読むだけでは足りない。ひとつひとつの物語を、もっとじっくり味わいたい。そのためにはやはり、どうしてもこの本を手に入れなければなりません。

物語には魔力がある。狂おしいほどに夢中にさせられる物語がたしかにある。そのことをあらためて私に教える本でした。



余談ですが、このあいだこのブログにコメントをくださった しばたさんのお名前が訳者の中にあって、「!!」とこれまた激しく興奮したことも書いておきたいと思います。翻訳者の方がたまたまでもこんなところを通りかかってくださったとは!!

これら素晴らしい訳者の方々のおかげで、私は世界中のさまざまな物語に触れることができるのです。
こういう本を世に送り出すために力を尽くされている全ての方々に感謝したい、そんなことも思った次第です。実にありがたいことです。私たちはなんと幸福な世紀に生きていることでしょう! 本が読めるというのは、本当に贅沢で幸福なことですね。