半透明記録

もやもや日記

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12月の京都にて旧友と会う(前編)

2007年12月28日 | 旅の記録
「京都を旅行するのですが、よければお会いしませんか?」とお誘いを受けたのが、十一月の半ばあたりでした。それから一月半ほど、私はどきどき、どきどきして居ても立ってもいられない気持ちでしたが、ようやくお二方とお会いしてきました。

12月26日 13:10 四条河原町
私は四条から、待ち合わせの五条まで、鴨川沿いに真っ青に晴れた空の下をてくてくとお日様に向かって歩いていきます。ちょうど昼なので、太陽はほぼ真南、つまり進行方向にあり、私の真っ黒な革のコートに照りつけて少し暑いくらいです。まぶしくて正面を見ていられない私の右手を同じように南へ下っていく川の上には、ふっくらしたカモメのような白い鳥がたくさんで飛んだり水辺に止まったり、パン屑を投げるおじさんの周りの空中にパタパタと器用に浮かんでいたりします。大きな青灰色の鷺も白い鷺の群れに混じってじっと川面を見つめていました。
さあ、もうすぐお二方とお会いできる。

お二方というのは、私の大学時代の級友のこまきさんと烏合さんです。二人とも学生時代から知的かつ優美な人たち(それにしても私のクラスにはそういう人ばかり)でしたが、7年ぶりくらいで再会してみると、やっぱりと言うかますます一層知的かつ優美でいらっしゃるので、私はこのところはずっとネット上でお二人と言葉を交わしているにもかかわらず、すっかり上がってしまいました。「実際」のインパクトは、たしかにありますね。

13:30 半兵衛麩にて昼食
この日のお昼は、こまきさんが予約しておいてくださった【半兵衛麩】さんというお店でお麩料理をいただきました。お店に入ると入り口の土間でちょっと待たされたのですが、そこから右手に上がった廊下の天井にはステンドグラスのきれいな照明が下がっているのが見えたり、通された奥の部屋の席はカウンターだったのですけれども、そのさらに奥には座敷席もあって、そこには大きな鶴の青い衝立てが立ててあったりと、店内の素敵なつくりに、私はまたしても舞い上がり、どきどきしてどうしたらいいのかよく分かりません。そうするうちに、お麩のいろいろな料理が次々出てきて、とてもおいしかった。お麩の酢の物までありました。へえ~。あれもこれもおいしい! 特に田楽は忘れられない感じです。最終的には結構な量を出していただきましたが、もくもくと完食。ごちそうさまでした。

食事中にも、私たちはいろいろな話をしました。実は私たちは皆、日本文学を専攻していたのです。「実は」と断らねばならないのは、私からはあまりそういう過去があることを想像しがたいからであって(だいだい私は在学中から海外文学ばかり読んでいましたし、授業にはたくさん出たけれど何も身に付かなかった。なにをしに通っていたのだか…)、対してお二人は極めてアカデミックな正統的知識と理解、関心をお持ちで、私はかねてよりそれがとても立派で美しいと思っているので、何を聞いても楽しいのでした。私の全然知らないことを、実によく勉強しておいでなのです。
せっかく内容のあるお話を伺っているのだから、お返しに私もどうにかがんばろうと思い、「やっぱロシア文学が最高で…(トルストイもドストエフスキーも未読だが)面白くてたまらない」とか「南米文学の面白さは、何と言っていいか分からないけど、とにかく何か凄いところがあって……時間の流れとか物語の流れに、何か決定的にこことは違うものが…」とか、例によってどこまでも曖昧なことを言ってみます。それをお二人は興味深そうに聞いてくれるので(それも昔からそうやって聞いてくれているので)、私はありがたいと同時にとてつもなく恐縮してしまいました。
私ときたら、本当にアカデミックなところからはほど遠い。今さらながら、それをすごく反省しました。友人と会うことの効用のひとつには、自分を省みることができるということがあるのではないかと思います。深みのある人間になりたい。この日の私は激しくそう思ったのでした。それにつけても、尊敬できる友を持つというのは、どれほどに自分を鍛えてくれ、どれほどに価値ある財産であることでしょうか。

15:00 三条方面へ
食事を終え、今度は三条へ向かいます。烏合さんによると、何やら面白いお店があるらしいのです。
途中で、あちこちのお店に寄り道しました。ある素敵な洋服屋さんで、これまた素敵な丈の長いカーディガンがあって、3人で「これは可愛い」「可愛いね」と言い合います。お二人が「とにかく着てみて!」としきりに勧めるので、私は自らにカーディガン禁止令を発令していたにもかかわらず(このあいだバカみたいに何枚も購入してしまったので)、つい着てみました。うぅ、サイズがちょっと大きくてどう見ても「着られちゃってる感」があるけど、このよれよれ感が可愛いような……しかし禁止令が…… ああ! 「こ、こまきさんも着てみなよ!」とすんでのところで回避。
そして、すらっとしたこまきさんが着ると、私の時とは違って急にエレガントな感じになります。おお~、格好いいのう。「じゃ、次は烏合さんね」と、結局みんなで試着することに。しゃんとした烏合さんが着ると、やはりきっぱりとしてすがすがしい感じです。素敵だわ~。「素敵!」「素敵ね!」とまたまた3人で言い合うのでした。
とまあ、このような遊びのようなことをしてお店を出た(買わずに)のですが、これが何と言うか私にはとても面白かったです。同じものを選んでも、違った風に着る。そういうのが面白いのです。

きらびやかな扇子のお店で、きらびやかな扇子や美しい昔の扇子の図案のようなものや展示されている和室に置かれた螺鈿の書き物机などを(「書きにくそうだよね」「うん」と言って)見た後、目的の【便利堂】というお店に入ります。ここには、全国の美術館に卸しているらしい、各美術館所蔵の絵画や美術品のポストカードがたくさん売られているのです。す、すばらしー! たくさんのきれいなカードが並んでいます。なんというお得感! 私は興奮してあちこちをうろうろした後、長谷川潔と谷内六郎を1枚ずつ購入しました。

古い、外壁は石で内部は木造という床板のぎしぎしときしむ趣きのある建物の3階に入っているビーズとボタンのお店で、小さなものにうっとりとしたあと、おなじ階にある喫茶店に入りました。
それぞれに温かい飲物を注文して、この日のテーマである「夢」について語り合います。夜(とは限らないけど)眠っているときに見る「夢」のことです。面白かった。これについての詳しくは別のところで書くつもりなので今回は省略。ソラリスの海みたいに幻想的でしかもちょっとおいしそうでもあるこまきさんの夢の話にうっとりし、外国映画みたいにドラマチックで色鮮やかな烏合さんの夢の話に痺れた私は、以前に見た私にしては傑作である「素敵な恋人の夢の話」を披露して、お二人を悶絶させました。三者三様の夢の話。夢の話は楽しい。

わいわいと楽しくお話ししていると、時はあっという間に流れるものです。冬の日は短く、外に出るともう真っ暗でした。

18:50 ジュンク堂京都店
烏合さんとこまきさんにお別れをして、私は富小路を駅に向かって下っていきます。阪急の烏丸駅への途中にはジュンク堂があるので、私は京都へ来る度にいつもついついそこへ入ってしまうのでした。この日にも私は、久しぶりに会った友人と別れた寂しさから、書店へ入りました。そしてもう何冊目になるか分からない『類推の山』を性懲りもなく購入し、帰りの通勤特急の中でぱらぱらと頁をめくっては、ますます胸を締め付けられながら帰宅したのでした。
今日は楽しかった。……でも、もうちょっとお話ししたかったなあ。
そう思いつつ、私はお礼のメールを打っておきました。すると、すぐに返事をくれました。その嬉しさが勢いあまって思わず、「滞在中に、もう一度ご一緒してもいいですか?」と厚かましいお願いをしたのです。ああ、厚かましい。せっかくお二人で旅行なさっているというのに、いや、でも、でも……
返信あり。快諾。
おお、やった、良かった、言ってみるものだ!
そして私は前の晩と同様にどきどきして眠りについたのでした。
明日は早く起きなくては、はやく………

 後編に つづく