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『鉄コン筋クリート』

2007年02月12日 | 読書日記ー漫画
松本大洋(『鉄コン筋クリートAll in One』小学館)


《この一文》
”暴力って好きよ、俺。
 それが絶対的な恐怖で戦慄なら なお、ステキ。
 違うか? オイ、小僧。
 
 暴力って 理に適ってたり、つじつまが合ってたり
 同情的である必要ないだろ。
 苦痛のみが全てを司る。

 傑作だせ、まったく ハハハハ。 ”



昔、スピリッツで連載されていた当時、私はこの漫画の1頁をチラ見して、そのあまりに癖のある画面と暴力的な描写に恐れをなして、その後もずっと読まずにおこうと決意しました。しかし、『ピンポン』の評判の高さに屈して、ついにそれが私の読む初めての松本大洋作品となったのが去年か一昨年。『ピンポン』には血生臭い描写なんて出てこないのですが、私がかつて恐れた通りの衝撃は、やはりありました。というわけで、それ以外の作品は、やはり読めないでいました。
今回、『鉄コン筋クリート』の劇場版が気になったのと「おうちで漫画喫茶計画(つまり家で漫画を読みまくる)」の一環として、原作を買ってきたというわけです。
2作品を読んでみた結論として、私は、松本大洋という人がちょっと恐ろしい。


さて、『鉄コン』を読んでみてどうだったかと言うと、

どうしてこんなに悲しくなるんだ!

という感じです。いえ、この人のこの感じを私は好きなんですけど、でも、どうしようもなく悲しくもなる。なんでなんだろう。このままだとすっきりしないので、今回はがんばって、もうすこし掘り下げて考えてみることにします。

まず、『ピンポン』と『鉄コン』を読んで、すぐに気が付くのは、「対比」ということでしょうか。作品中に登場する人物たちは、それぞれの性質と対になる相手を持ってます。
『鉄コン』では、まず主人公のクロとシロが対。鈴木と藤村も対だと思う。木村は誰と対だろうか…と考えると、この人は、この人自身で対になっていると思う。クロとの遭遇「以前」と「以後」で対になっている。沢田はシロとの遭遇「以前」と「以後」で対に。そういう意味では木村と沢田も対でしょうか。ほかにも、もっと複雑にも対になり合ってます。

うむ、このあたりまではまあ、理解できる。私の理解を越えるのは、多分、主人公とか脇役とか、善とか悪とか、暴力とか愛とか、そういうのが全部同じトーンで語られているような気がするところかもしれません。全部に対して同じ距離感を感じると言うか。
全部とりだして並べてみた上で、そこから特定のものを作者は敢えて選び出している。それが衝撃的です。うまく言えませんけど。とにかくそのやり方が、無茶苦茶に上手い。と思う。やっぱうまく言えません。

それから、『ピンポン』の時にも思いましたが、この人の独特の言語感覚。詩にメロディーが付くと感動が倍増することがあるように(またはメロディーに詩が付くと感動が倍増することがあるように)、この人の言葉にこの人の絵が付くと衝撃が倍増しています。口数は、そんなに多くない。むしろ少ないと思う。いや、多くも少なくもない。ちょうどぴったりの言葉。なんてことだ。

このように、私は、松本大洋という人が恐ろしい。この力が。ぶちのめされますね。


あー、なんか痛いけど、これは悲しいんじゃないような気もしてきた。似てるけど、違う気がする。うん、とにかく好きですよ。面白かった。それは間違いないです。それにしても、この単行本3冊が一冊になってお得であるという「All in One」は、重い! 電話帳のよう。ポスターが付いてていいんだけれども。