旅限無(りょげむ)

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たかがテレビ、たかが納豆 其の参

2007-01-29 23:38:56 | マスメディア
■欧米には、厳しいドキュメント・タッチの商品テスト番組が有るのですが、日本はその逆で「太鼓持ち」番組ばかりが全盛です。テレビの宣伝を見ながら「本当かいな?」と思っても、大方は「まあ、テレビだから…」と大人の判断で許していたものが、いつの間にかテレビを親や教師以上に信用して信仰する人々が増えてしまったようで、「テレビで観た」「テレビで知っている」の一言が絶対の自信を生み出す根源になってしまったようですなあ。そんなテレビのカルト状態の中で長寿番組が詐欺容疑で破綻したら、米国仕込の「訴訟」「補償」「賠償」騒動が起こったら、テレビ局の一つや二つが吹き飛ぶのは目に見えていますぞ!

■そんな騒動の最中に、更に事態を冷静に考えていられなくなる裁判所の判決が出るというのは、何と間が悪いのでしょう?!


NHK教育テレビが放送した戦争特集番組を巡り、制作に協力した民間団体などが「放送直前、当初の説明とは違う趣旨に内容を変更された」として、NHKと下請け制作会社2社に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は、「NHKは国会議員などの意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないように番組を改編した」と認定し、民間団体側の期待と信頼を侵害したとして、NHKと制作会社2社に計200万円の賠償を命じる判決を言い渡した。NHKは即日上告した。……

■皆様のNHKは、最後まで当該番組の「再放送」をしないままで、東京高裁の判決を迎えました。「改編」疑惑が有るのは20分にも満たない映像との事なのですから、「オリジナル」と「放送版」とを連続して放送するか、画面を2分割して同時放送するかして、受信料を納めている視聴者の皆様に見て頂かない限りは、この問題は解決しないだろう、と旅限無は主張し続けておりました。NHKは「上告」などしている暇が有ったら、視聴者の皆様の判断を仰いで「改編」が「改良」だったと証明すれば済む話です。ただし、企画段階から「改良版」まで一貫してトンデモないカルト番組だったとしたら、問題は更に大きくなりますが……。


一方、この番組に関して朝日新聞が2005年1月、「政治介入で内容が改変された」などと報道したことから、控訴審では政治的圧力の有無が争点となったが、判決は「(政治家が)番組に関して具体的な話や示唆をしたとまでは認められない」と介入を否定した。1審・東京地裁はNHKの賠償責任を認めず、下請け会社1社にだけ100万円の賠償を命じていた。

■裁判などに持ち込むから話がややこしくなります。NHKとしては、どうせ誰も見ない不人気な番組だから、と高を括って制作・放送までしてしまったのでしょうから、今更、その責任を取れ!などと言われても困ってしまうでしょうなあ。


問題となったのは、NHKが01年1月に放送した番組「問われる戦時性暴力」。判決によると、NHKの下請け会社は、民間団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が開催した「女性国際戦犯法廷」を取材する際、「法廷の様子をありのまま伝える番組になる」と説明して協力を受けた。しかしNHKは放送前に編集作業を繰り返し、「法廷」が昭和天皇を有罪とした個所などを省いて放送した。

■「天皇死刑!」拍手喝采、こういう場面は是非とも「ドキュメント」として放送して欲しかったと思います。視聴率が虫眼鏡で見ないと分からないほど低い番組なのですから、その内容を裁判で扱うのなら、「裁判員制度」を広く知って頂く絶好の教材になるはずです。現物の映像が一般の視聴者から隠されたまま、各種メディアあれこれと論争しても一向に埒が明きません。


判決は、放送事業者の「編集の自由」について、「取材対象者から不当に制限されてはならない」とする一方、ドキュメンタリー番組や教養番組については「取材経過などから一定の制約を受ける場合もある」と指摘。その上で、「NHKは次々と番組を改編し、バウネットの期待とかけ離れた番組となったのに改編内容の説明も怠った」と、NHK側の責任を認めた。
2007年1月29日 読売新聞

■その種の趣味を共有している人々にとっては、天啓か祝福に思える内容でも、共有できない人にとってはオゾマシイばかりの光景に見える物は世の中に溢れております。詐欺師が逮捕される時などは、その典型なのですが、拍手喝采と感動の涙で盛り上がっている映像が、後になって一生の後悔となる場合も有ります。「天皇死刑」の判決で盛り上がる人々を全国放送するという企画を通した人は、相当の根性と覚悟が有ったと思われますし、それを擁護する人々も是非とも映像記録として残しておかねばなりません。それがドキュメンタリーという厳しい表現手段の宿命です。『ETV』というシリーズは、NHK自慢のドキュメント番組のはずですから、こんな裁判沙汰になるのは不本意のはずです。一時、大変に盛り上がった「政治家の関与」やら「圧力」は、名指しされた安倍さんや中川さんは、当時はペーペーで、とてもじゃないが圧力など掛けられる立場には無かったと判明しているようですから、何だか「三方一両得」みたいな話になって行きそうですなあ。

■何はともあれ、若者が一生を懸けて就職したいと熱望するような産業にテレビが育ってしまったのですから、改めて視聴率の真の恐ろしさを知って頂きたいものであります。それは現場で汗をかいて日夜や知り回っている人達のことではありませんぞ!最近の不二家事件でも露見しましたが、エライ人達はまったく現場を知らずに出世して、根拠も無い権威に寄りかかって会社ばかりでなく業界全体を腐らせて行くもののようですから、今回の事件で関西テレビの社長やら重役やらがテレビ・カメラの前に引っ張り出されるというのは、非常に良いことなのではないでしょうか?さてさて、「テレビはテレビを裁けない」というジレンマを、一体、何処のテレビ局が破ってくれるのか、しばらくはテレビから目が離せないかも?

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たかがテレビ、たかが納豆 其の弐

2007-01-29 23:38:29 | マスメディア

フジテレビの村上光一社長は29日の定例会見で、同局が放送した関西テレビ制作の番組「発掘!あるある大事典2」のねつ造問題について「放送したテレビ局として視聴者の信頼を裏切り、放送界全体に不信を招いたことを深くおわびする」と謝罪した。そのうえで、関西テレビの調査が終わり次第、検証番組を放送することや、外部プロダクションに制作委託した番組内容のチェック体制強化など、再発防止策を明らかにした。問題の番組の制作を下請けした「日本テレワーク」の筆頭株主はフジテレビで、村上社長は社外取締役を務めている。同社への今後の業務委託について、村上社長は「自浄作用を見届けたい」と答えるにとどめ、社外取締役辞任は「現時点で考えていない」とした。
1月29日19時54分配信 毎日新聞

■週刊誌のスクープでは、この制作会社から納豆業界に「予告」ファックスが流されていたというフザケた話が出て来ているようです。深夜枠で怪しげな商品をドキュメント・タッチ?の体験談と似非科学物が愛用する分かり易いグラフ類を多用している手法を、そのまま昼でも晩でも流用していたということなのでしょうなあ。この記事で軽く扱われている「検証番組」というのが問題です。240万部の本を売ってしまっておきながら、既に「レタスでは眠れない!」「小豆で賢くならない!」「味噌汁は…」などなど、次の商売が花盛りなのです。これを掘り起こして何年分かの偽造データをいちいち検証していたら、一体、何年間を要するのでしょう?本気で制作したら、日本ばかりでなく世界のテレビ業界の歴史に残る長大で退屈で笑いのネタにもならない悲しい大長編になることは必至ですなあ。本当にそんな物を作るのでしょうか?まさか、30分番組でまとめるような姑息な手段は使わないでしょうな?!


関西テレビ(大阪市)は29日、納豆のダイエット効果を取り上げた「発掘!あるある大事典II」の番組ねつ造について、「企画段階から放送まで、2人のプロデューサーが6、7回チェックするポイントがありながら、ねつ造を見抜けなかった」などとする中間報告を行った。「納豆」以外の放送については、「ねつ造があったかどうかを含めて今後調査していく」とした。また、学者や元検事ら5人の第三者による調査委員会を30日付で設置、週1回程度会合を開いて3月中旬をめどに最終報告をまとめる。
1月29日19時31分配信 時事通信
 
■下手をすると命に関わるかも知れない「情報番組」に、「学者や元検事」などの調査機関が用意されていなかった?これから日当を払って専門家を集めて週1回で、3月中旬までなら10回程度の「会合」を開いて全ての問題を検証し、それから「検証番組」の企画を立てて、大恥を掻きながら番組で顔を晒した内外の研究者を尋ねて謝罪行脚を繰り返し、データの偽造方法を舞台裏からバラしてウソ情報を視覚化する作業手順も披瀝して、コメント原稿を書いた人から番組収録で演出に関係した人、そして、何よりお茶の間に魔術をかけた堺正章さんを始めとする魅力的な?出演者の皆さんの体験談などなど、週に1回のペースで「検証番組」を放送するにしても、数年間を要する大プロジェクトになりそうですなあ。
 

「勘弁していただきたい」―。関西テレビ制作の情報番組「発掘!あるある大事典II」のデータねつ造問題で、同局の山本紘専務らは29日、同局本社で会見、終始苦しい釈明に追われた。
午後4時からの会見には100人前後の報道陣が集まった。会見には山本専務、福井澄郎取締役ら3人の役員が出席。山本専務らは会見に先立ち改めて謝罪した。焦点となったのは、ねつ造に及んだ動機だった。しかし、福井取締役は「発表は第三者の調査を待ってからの方がよい。予断を持ってお知らせするのはよくない。現段階では勘弁していただきたい」の一点張りで、動機は一切明らかにしなかった。途中、矢継ぎ早に飛ぶ質問に、山本専務らは語気を強めて受け答えするなどいら立った様子も見せた。
1月29日20時1分配信 時事通信

■焦点となった「動機」など、素人でも知っている事を100人も集まったプロの報道陣が聞きたがる?それ自体がヤラセでしょうなあ。「アホな視聴者の御機嫌を取って視聴率を上げる」それ以外の動機が有るのでしょうか?ついでに番組で取り上げる食材を扱う業界と結託して後ろ暗いアルバイトもしてしまう。制作現場も放送会社も出演者も、みんながハッピーになれる結構なシステムが組み上がったからこそ、「長寿番組」になったのでしょう?それを全部包み隠さず暴露するドキュメンタリーを完成させられれば、たとえ広告主から見棄てられてボロクズのように倒産しても、関西テレビの名前は歴史に残るでしょうなあ。


関西テレビ制作の「発掘!あるある大事典II」のデータねつ造問題で、日本学術会議(会長・金沢一郎国立精神・神経センター総長)は26日、ねつ造や改ざんの禁止などを定めた「科学者の行動規範」を「テレビ番組等において科学実験の計画・実施にかかわる者も当然守るべきだ」とする会長談話を発表した。テレビ番組のねつ造問題で同会議が談話を出すのは異例。談話は「テレビ番組は国民に与える影響が極めて大きく、ねつ造等の不正行為があれば、テレビなどによる情報発信、ひいては科学そのものに対する信頼を著しく傷つけかねない」と指摘。「関係者は行動規範を参照し、社会の信頼を得られる番組制作を」と求めた。
1月26日20時31分配信 時事通信


■こうした談話の発表が「異例」という事が問題です。医学でも化学でも、国民の健康と命にかかわるヨタ話が流行するのを傍観しているのは無責任です。とは申せ、歯磨きペーストから風邪薬、水虫薬から目薬まで、何だこりゃ?と驚くような宣伝が溢れるテレビ業界に、真っ当な意見を持ち込んでも聞いて貰えなかったでしょうなあ。雪印であろうと不二家であろうと、最も大きな力を持っているのは消費者で、どっと納豆を買い溜めする客が増えれば泡ゼニを稼ぐ悪い奴が出る半面で、どっと客が引いてしませばどれほど有名な企業でも呆気なく倒産してしまうものです。民放のテレビ局にとってはスポンサーの陰に消費者が隠れてしまうという悲喜劇が起こってしまうようですから、テレビ画面を観ている視聴者は間接的にしかテレビ番組に対して影響力は持っていない構図が出来てしまいましたなあ。

たかがテレビ、たかが納豆 其の壱

2007-01-29 23:37:54 | マスメディア
■今頃、堺正章さんは何処で何をしておられるのでしょう?歌手の中でも特に痩せておられる堺正章さんが、「○○を食べれば痩せる!」と連呼すれば、健康情報番組?などという奇怪なテレビ番組を熱心に研究している人達は信じてしまうでしょうなあ。世の中には「超能力」「霊能力」「透視」「予言」「奇跡」と聞くと心が正常ではいられない人が山ほどいらっしゃるようです。ウィトゲンシュタインという哲学者は、「この世界が存在している事が最大の謎なのだ!」と喝破したのは100年も前の事なのですが、縄文時代の人々と変わらず不思議な話に魅惑されてしまうのが人間というものなのかも知れませんなあ。妙に器用なところの有る堺正章さんですが、決して科学番組を担当できるような立場の人ではなく、歌や芝居で人々を幸せにして下さるだけで充分だったのに、残念なことになりましたなあ。

■事は科学教育にまで発展するメディアの問題にまで発展してしまったようなので、偶然に発端となった週刊朝日を買ってしまった者としましては、その後の動きを新聞を切り抜きながら眺めていたのですが……。週刊朝日の記事は見開き2頁で、それはそれは珍しくもない小さな物でした。その次の週になると週刊新潮も週刊文春も、あの番組を制作している人の中に情報操作としか思えない方法で小銭を稼いでいる人物が居るぞ!などという恐ろしい話まで掘り出して取材していたようです。それが本当ならば、証券業界ならば完全なインサイダー取引ですなあ。


関西テレビの情報番組「発掘!あるある大事典II」(フジテレビ系)のデータねつ造問題で29日、扶桑社(東京都港区)が番組関連書籍10冊の出荷を停止したことが明らかになった。同社によると、販売しているのは書籍6冊、ムック3冊、新書1冊で、発行部数は計240万部。ねつ造問題が発覚した翌日の22日に出荷停止措置を取った。回収や絶版については「関西テレビの調査結果を待って対応を考えたい」としている。 
1月29日 時事通信

■物書きの端くれとしましては、「240万部」などという数字を見れば正気では居られませんぞ!一体、これはどういう事でしょう?!仄聞しますに、スピリチュアルな商売をしている小太り?の体型を似合わない和装で飾っている男を取り上げると、女性週刊誌の発行部数が5万部も増えるとか……。テレビを食い入るように観ている熱心な人々ならば、わざわざ本を買う必要は無いような気もするのですが、自分の信仰心を再確認して強化するためにテレビで視聴した内容を活字で読み直すのでしょうか?それとも、背表紙から発せられる不思議な光?が必要なのでしょうか?この数字はただならないものですぞ。

■因みに、松下電器は未だに莫大な「広告費」を使ってびっくりするくらい旧式の石油温風ヒーターを回収しようと必死の営業活動をしているそうです。それをしなかったパロマという会社は殺人犯扱いになっているとも聞きます。もしも、もしも、「金返せ!」の地獄のような返品騒動が起こったらどうなるのでしょう?ブック・オフに持ち込んでも値段が付かないような古本が、もしかしたら「購入価格」で買い戻されるかも知れないと知ったら、この種の本を熱心に購入する皆様ですから、「社会現象」となってしまえばどんなに面倒な手続きが必要でも、率先して参集するような気もしますなあ。

■売れに売れた『ハリー・ポッター』ならば、作り話・魔法の話・ファンタジーという確固としたジャンルが確立していますから、書かれている通りの魔法を試みたのに効果が無いぞ!と訴える人は居ないでしょうが、「健康情報番組」と銘打っている限りは逃げ道が無いような気がします。「メディア・ミックス」という新商法が評判になったのも昔の話で、今では当たり前のように新作の映画だのCDだが出る度に、「これは宣伝だろう?」という情報番組が氾濫しております。それとは画然と切り離されて、地味で目立たない孤高の地位を守っているのが「ドキュメンタリー」部門です。もしも、劇的に痩せる方法が見つかったのなら、特別番組でも作って深夜枠や土曜日の午後などの可哀想な時間帯からゴールデン枠にドキュメンタリー番組が返り咲くはずです。良質なドキュメンタリーが誰も観ないような時間帯に押しやられている一方で、「情報番組」が氾濫するという異様な状況が長く続くはずは無かったのではないでしょうか?

衛星破壊の波紋 其の弐

2007-01-29 14:36:18 | 外交・情勢(アジア)
■逸早く衛星破壊実験の成功を察知した米国からは、次々と動かぬ証拠が明らかにされているのは当然として、EUからも強い口調で非難の声が上がりましたし、商売上も北朝鮮問題に関してもいろいろと気を遣わねばならない韓国からも、早々に反応が表れました。

(韓国)政府は19日、中国が弾道ミサイルを使って自国の気象衛星を破壊したとされることに対し、中国政府に事実関係の確認を要請するとともに懸念の意を表明した。外交通商部当局者は21日、「中国の隣接国として、人工衛星を運営し宇宙開発を積極的に推進する韓国の状況を踏まえ、19日に外交チャンネルを通じ、中国側に事実関係の確認を要請すると同時に韓国の正当な懸念を伝えた」と述べた。
1月22日 YONHAP NEWS

■「19日」というのは、米政府からの発表を受けた翌日に当たります。自国の宇宙開発を守るという当然の任務を韓国政府は果たしていることになりますが、それに負けては居られない立場の日本はどうかと言うと、何とも暢気で型通りの反応しか出て来ませんでした。


塩崎恭久官房長官は23日午後の記者会見で、先の中国による衛星攻撃兵器実験に関して、同国政府が日本側に説明した内容について「『宇宙で1回の実験を行った』と伝えただけで、それ以上の細かなことはなかった」と述べた。その上で同長官は「透明性を確保してくれなければ疑心暗鬼を招く。(それでは)説明にならない」と語り、引き続き詳細な説明を求める考えを示した。これに先立ち塩崎長官は同日、都内で中国の王毅大使と会い、日本側の懸念を伝えた。……中国外務省は22日、北京の日本大使館に対し、衛星攻撃実験の実施を伝えてきた。日本政府は19日、中国の実験実施を受け「宇宙の平和利用などの観点から懸念する」と表明。同時に北京の日本大使館を通じ、事実関係の説明を求めていた。 
1月23日 時事通信

■国力の比較の上でも、韓国にも劣るような動きしか採れない日本外交の無力感をしみじみと思い知らされる話ですなあ。「懸念」は何個も高価な衛星をロケット打ち上げ失敗によって星屑にしてしまった政府としては、虎の子の衛星を狙われたら堪ったもんではない!というものでなければなりません。相手は有人宇宙飛行を成功させているのですから、日本の空の彼方、宇宙はすっかり北京政府の縄張りになっているわけです。「説明」を求めて無視されて、何時の間にやらうやむやになる。在留邦人の財産を壊されても、総領事館の職員が自殺に追い込まれようと、「説明」を求めて無視されるのが日本の外交なのは、実に残念な事であります。相手は絶対に謝らないのに、日本は何度も誤っているのですから、外務省の仕事というのは気楽なものです。


……一方、胡錦濤政権の対台湾姿勢について同氏は「度々、台湾への武力行使を示唆した江沢民前政権」と違い、胡政権はパンダ贈呈の提案や、国内大学の台湾人留学生への奨学金授与、農産物輸入枠の拡大など「“善意”を装っているが、実際には膨大な資金を投入し、アフリカ諸国を抱き込んだり台湾の外交関係を断絶するために圧力を強めている」と指摘した。

■この視点は重要です。米ソの冷戦が終焉した直後から、かつての代理戦争の傭兵同然だったアフリカ諸国に、中国はどんどん手を伸ばしている事を、日本のマスコミはほとんど報道して無いのが不思議でなりません。前首相の小泉さんが、「野口英世賞」などという役人の思い付きにしても陳腐な土産しか持たなかったのは残念でしたが、それでもアフリカに足を踏み入れたのは正しい行動でした。それが対中国外交の意味を持っていたことを一般国民に分かり易く伝えたメディアはほとんど無かったのでした。


中国の胡錦濤国家主席が30日から2月10日までの日程でスーダンなどアフリカ8カ国を訪問する。胡主席がアフリカを訪問するのは就任以来3度目。今回の訪問国のうち、とくにスーダンではダルフール紛争の解決に向け、積極的に関与する姿勢をアピールしている。なりふり構わぬ「資源外交」に対する欧米からの批判をかわす狙いもありそうだ。スーダンは中国にとってアフリカで3番目に大きい貿易相手国で、05年の貿易額は約36億ドル(約4370億円)を記録。昨年も1月から11月までで29億ドル(約3500億円)に上った。また、中国の石油輸入国としても4番目だ。胡主席は新たな油田開発や石油精製所の建設などを提案、合意する見通しだ。

■石油と言う国家の生命線を守るために、日本の100円ショップで鍛え上げられた?安価な商品をアフリカ諸国に売り込んで、その見返りにエネルギー供給を確保するという計算です。そこに「平和攻勢」を仕掛けるのですから、「野口英世賞」など木っ端微塵であります。

衛星破壊の波紋 其の壱

2007-01-29 14:35:45 | 外交・情勢(アジア)
■東京新聞が台湾のキー・パーソンに対するインタヴュー記事を掲載しております。日本政府の能天気ぶりに付き合っていると、見るべき物も見えず、聞くべき話も聞こえて来ませんから、この記事を下敷きにしてこの「大事件」に関連する情報を少しばかり整理して置こうと思います。

台湾行政院(内閣)で対中国政策を担当する専門機関「大陸委員会」の呉〓(※金へんにりっとう)燮主任委員(閣僚)は、東京都内でこのほど本紙などとの会見に応じた。……呉主任委員は、中国のミサイル実験に対し「宇宙の平和利用原則に反し、軍事乱用をもたらす恐れがある」と非難。実験の時期が、安倍晋三首相の欧州歴訪中で、日本の防衛省発足の直後だった点を重視し「私的な見方」と断りながら「欧州諸国に中国への武器輸出禁止措置継続を求めた安倍首相と、防衛庁を省に昇格させた日本政府へ圧力を加えるメッセージと思う」と語った。……

■さすがに専門家の読みは深くて適切であります。「発足間も無い安倍政権」と「対中武器禁輸措置」の両方に圧力を掛ける狙いとすれば、何度も高価なロケットの打ち上げに失敗している日本に対して圧倒的に有利な立場を確保している、ほぼ唯一の分野と思われる宇宙開発を切り札に使うのは一石二鳥の効果が望めそうです。はたして、生まれたばかりの防衛省ではどんな動きが有ったのやら、「省」に昇格してすっかり舞い上がってしまったまま、「宇宙は自分達の管轄ではありません」などと他人事のように考えているのではありますまいな?!肝腎のミサイル防衛システムにしたところで、どこまで日本が主体的に関わっているのやら、はなはだ心細い限りのようです。


防衛庁幹部は20日、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)所属のイージス駆逐艦2隻(「ステザム」と「カーティス・ウィルバー」)に、ミサイル防衛(MD)システムの基幹である海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載する改修作業が完了したことを明らかにした。米側は日本側に「クリスマス前には運用が可能になる」と伝えている。米軍によるMD対応型イージス艦の日本への配備は3隻となった。
12月21日 産経新聞

■小さな記事ですが、東アジアの太平洋岸にミサイル迎撃の「壁」が構築されているという事実は、宇宙も戦場と考えている国々にとっては無視できない軍事問題なのですが、その「壁」の足元に暮らしている日本ではこの意味が分かっていないような平和な気分が漂っているようですなあ。莫大な予算を喰っているMD計画が、北朝鮮がたまに打ち上げるポンコツ?ミサイルに対抗するのが目的のような話が日本政府内部からは出て来ますが、それは違うでしょうなあ。再びインタヴュー記事に戻ります。


呉主任委員によると中国は、台湾で初の民選による総統選が行われた1996年に大規模軍事演習を実施。台湾近海に複数のミサイルを発射したり、陳水扁総統が与党の民進党主席を兼務した2002年には台湾と正式外交関係があったナウルと国交を結び、台湾外交の切り崩しを図るなど“報復措置”を取るのが常套(じょうとう)手段。過去のこうした手法から、中国が今回も日本を射程に入れた中距離ミサイル実験で、対日圧力を強める意図というのが呉主任委員の見方だ。……

■テポドンが列島を飛び越えた時に比べて、今回の衛星破壊に対する日本の反応が鈍いのが気になります。狙われている側としては、それ相応の態度を示さないと「茹で蛙」になってしまいますぞ!他国の反応は日本とは随分と違っています。

イラクの泥沼が広がる 其の六

2007-01-29 11:48:30 | 外交・世界情勢全般

米国の航空専門誌エビエーション・ウイーク(電子版)は25日、イランが弾道ミサイルを改良したロケットで人工衛星を打ち上げる準備を行い、発射が間近に迫っていると伝えた。専門家はロケットが北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の技術を利用した「シャハブ3」の改良型である可能性があると指摘した。イランと北朝鮮の協力が宇宙分野まで拡大することを意味し、核問題に加え国際社会の懸念が強まるのは必至だ。イランは2005年10月にロシア製ロケットを使って人工衛星「シナ1」を打ち上げたことはあるが、国産技術で打ち上げるのは今回が初めてとなる。イラン議会の有力者もこのほど、近く衛星を搭載したロケットが打ち上げられると語ったという。……

■「人工衛星」の打ち上げならば、北朝鮮はイランの先輩です。ただし、将軍様の栄光を讃える音楽を宇宙から流していると報道されたのに誰もその音楽を聴いたことがないという、変な人工衛星ではありましたが、大気圏外に何かを打ち上げる技術は持っていると考えられているようですから、北朝鮮としては主力商品として売り出したいところでしょう。


……イランは北朝鮮と弾道ミサイル開発で協力してきたと、米国などから指摘されている。メープルズ米国防情報局(DIA)局長は今月、上院情報委員会に提出した書面で、「北朝鮮はミサイルや関連技術を売却しつづけている。国際的孤立で顧客は減ったものの、イランとシリアとの関係は強く、主な懸念事項だ」と警戒感を示した。衛星打ち上げに成功すれば、長距離弾道ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)にも応用可能となる。

■本当に「大陸間」を飛行出来るかどうかは分かりませんが、イランはホメイニ革命後に起こったイラクとの8年も続いた戦争で、世界中の武器商人から大量の飛び道具を売りつけらた経験が有ります。中でも、イラクとイランの両方に自慢の「シルク・ワーム」ミサイルを売って大儲けしたのは中国人民解放軍でしたなあ。同じ型のミサイルは、今でも北朝鮮軍の主力兵器となって時々日本海に向けて発射されています。イラクのフセイン大統領は、米国からの膨大な武器供与を受けながら、ソ連からミサイル技術を買い取って自分の名前を付けて得意になっていましたなあ。


……DIAは、イランが2015年までには射程4500キロのICBMを開発する可能性を指摘していた。北朝鮮は昨年7月にテポドン2号の発射実験を行った。発射実験は失敗したものの、朝鮮半島情勢に詳しい軍事筋によると、イラン技術者が実験に立ち会ったほか、テスト結果のデータなどを北朝鮮側から受け取ったという。同筋は北朝鮮とイランがミサイルの液体燃料に関する共同プロジェクトについても話し合っている可能性を指摘した。イランは北朝鮮とミサイル開発での協力関係は「ない」と否定している。
1月27日 産経新聞

■「射程4500キロ」は、欧州全域を狙える上に、全アラブ地域も標的になるという意味を持ちます。一体、何処を狙うつもりなのか、単にイスラム地域で唯一の核ミサイル保有国になりたいだけなのか、今のところは分かりませんが、少なくとも米国とは対等の外交関係を結べることだけは確かでしょう。地下核実験が成功したら、次は宇宙を舞台とした競争に参加するというのが、1960年代に確立されたパワー・ゲームの常道です。北朝鮮はそれに従っているだけの心算でしょうし、他の国でも独裁的な権力を握った者も、同じ夢を見るものです。


欧州連合(EU)議長国のドイツは23日、「中国が最近、自国のミサイルで人工衛星を破壊した兵器の実験についてEUは深く憂慮する」との声明を発表した。EUは、米国の全地球測位システム(GPS)に対抗できるEU版GPS「ガリレオ」の開発で中国の資金協力を受けるなど宇宙の平和利用では中国と協力関係にあるが、中国による宇宙の軍事利用には明確にクギを刺した格好だ。声明は「人工衛星を標的とした兵器の実験は、宇宙空間における軍拡を避けようとする国際社会の努力と相反するもので、宇宙の安全を脅かす」と批判した。
1月24日 読売新聞

■何故か日本では、中国が実施したスター・ウォーズ実験の成功を大きく取り上げるメディアがほとんど無かったようですが、これは大変な事です。日本が大金を遣って米国と共同開発をする迎撃ミサイルにしても、軍事衛星が無ければ宝の持ち腐れになる代物ですから、いざという時に肝腎の衛星がばたばたと撃ち落されてしまったら、自慢の3段構え戦法の第1段目が無力化されてしまいます。ミサイル迎撃システムに不可欠な軍事衛星を守るための迎撃ミサイルが必要になりますなあ。


台湾の国防部(国防省)は23日、米国からの地対空誘導弾パトリオット(PAC3)調達後、中南部で6つのミサイル発射基地を新設する方針を発表した。国防部によると、中国は台湾に向けて現在、戦術弾道ミサイル880基と最新鋭の国産巡航ミサイル「東海10」100基以上を配備。PAC3など軍備強化が実現しなければ、2020年から15年で中台の戦力比は2・8対1に広がるとし、ミサイル防衛力の強化を図る必要性を強調した。
1月24日 産経新聞

■こうして、地球を一周するように米中対立の構図が徐々に出来上がっているというお話になりそうです。こんなに複雑怪奇な国際情勢を辛抱強く追跡して行く作業は、「世界史」未履修だったり、「地理」の基礎教育も受けていない国民には不可能でしょう。そんな国民が主権者となっている政府に、「防衛省」が誕生したのですから先が心配なことでありますなあ。

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イラクの泥沼が広がる 其の伍

2007-01-29 11:47:52 | 外交・世界情勢全般

米軍のイラク進攻を主導した実力者、チェイニー副大統領は24日、CNNテレビのインタビューに応じ、「イラク政策が失敗とする意見はたわごとにすぎない」などと、ブッシュ政権のイラク政策を正当化する発言を繰り返した。インタビューは、イラクへの部隊増派の必要性を訴えるブッシュ大統領の一般教書演説を受けて行われた。副大統領はこの中で、米軍が撤退すればテロリストの戦略を認めてしまうことになると警告、断固として増派計画を進めていく方針を明らかにした。……

■一般教書演説の原稿段階でも口出し出来る立場にいる、大統領の後見人ですから、自分で書いた原稿を自分で正当化しているようなものです。増派が必要になったのは自分達の失敗が原因だというのに、それに関しては一切の発言はしていないようです。まだ儲けたり無いのか?!と言われそうですなあ。


…また、フセイン政権打倒は正しかったと強調。「フセイン元大統領が今も政権の座にあったなら宿敵イランと核兵器開発競争を繰り広げていただろう」と指摘。イラクになお問題があると認めつつも、「フセイン政権排除という所期の目的は達した」と成果を力説した。1月25日 時事通信

■インドとパキスタンとの間で続いている「核兵器開発競争」には、双方に手を貸しているのですから、この発言は支離滅裂であります。「フセイン政権排除」を希望したのは、米国の、それも特殊な権益を求めていた人達だけではなかったのでしょうか?虐められていたイラク国内のシーア派の人々も、当時はフセイン失脚を希望していたのは確かでしょうが、「今の状態よりはマシだった」という声が聞こえて来そうですなあ。


イラク治安部隊と駐留米軍は24日、バグダッド中心部のイスラム教スンニ派武装勢力の拠点「ハイファ通り」でヘリからの攻撃を含む掃討作戦を展開、ロイター通信によると、少なくとも武装勢力30人を殺害、35人を拘束した。マリキ政権と米軍は、米国のイラク新政策に基づく米軍増派部隊が参加する大規模治安作戦開始を前に、首都でスンニ派武装勢力やシーア派民兵組織への攻勢を強化しており、今回の作戦もその一環とみられる。……装甲車などがハイファ通り周辺に集結、米軍攻撃ヘリも参加し、地上と上空から、建物などに立てこもる武装勢力を攻撃した。武装勢力側は、迫撃砲や自動小銃などで応戦。数時間にわたる激しい戦闘で、民間人の死傷者が出たとの情報もある。
1月25日 読売新聞

■これでは自ら親米勢力を減らしているようなものです。自分で自分の首を絞めながら、更に兵力を増やそうと言うのですから、スンナ派とシーア派の両方から狙い撃ちされる悲喜劇の中に、米国の若者が放り込まれるというわけです。マリキ政権の要人が暗殺でもされたらどうなるのでしょう?もう一度選挙をすることになれば、過激な主張をする候補に票がごっそりと集まるでしょうなあ。もう民主化戦略も何も有ったものではありません。周りは邪悪な敵だらけで、隣国のイランでは原爆が作られ、欧州全域を射程に収めるミサイルの弾頭に装填されるに違いない!と、イラク攻撃前の「大量破壊兵器」理論と同じ手法で、これまたお馴染みの英国から「極秘情報」が流れ出て来ました。


英紙デイリー・テレグラフは24日、欧州防衛当局者の話として、北朝鮮がイランの地下核実験の準備を支援していると伝えた。両国の協力関係は昨年11月以降に強まっており、イランの地下核実験が今年中に行われる可能性もあるという。……北朝鮮は、昨年10月の核実験で得たデータや情報をイラン側と共有することに同意し、イランの科学者チームを招待した。イランの軍事顧問は北朝鮮のミサイル実験に参加するため、定期的に北朝鮮を訪れており、両国の科学者の相互訪問も増加しているという。……
1月24日 読売新聞

■いつの間にか北朝鮮は核実験に成功している事になっているようです。大方の専門家筋では「失敗だった」と意見がまとまっていたはずなのに、他国の世話が出来るほどの技術を持っているのなら、あれは大成功だったことになりますぞ!何でもかんでも隠してしまう北朝鮮の体質を悪用して、怪しげな陰謀話に使うのは如何なものでしょう?外貨稼ぎで合法的な粗悪品でも、非合法な高級品?でも、何でもかんでも売りたい北朝鮮ではありますが、イランが喜んで買うほどの核兵器が有るとは思えませんなあ。それは兎も角、北朝鮮とイランとの間を仲介できるとしたら、それはロシアか中国のどちらかです。口利き料をせしめている悪い奴が居そうですなあ。

イラクの泥沼が広がる 其の四

2007-01-29 11:47:24 | 外交・世界情勢全般

インタファクス通信によると、ロシア外相は27日、米国の中東政策に関し「攻撃的論法に変化がみられず、中東での米軍駐留を増強しようとしている」と批判した。外相は、米露、国連、EUでつくる中東和平4者協議が来月上旬ワシントンで開かれる際に「米国に問いただす」と、イラク駐留米軍増派に反対する考えを示した。
1月27日 毎日新聞

■北朝鮮問題にしてもイランにしても、ロシアは徹底的に羊の皮を被って米国と対決する様子です。天然ガスのバルブを勝手に閉めたり開けたりしている自分のことは「攻撃的論法」とは呼ばないのでしょうなあ。


イラク南部カルバラで、米兵の制服を着た武装集団が検問所を通過して政府系の建物に侵入、米兵4人を拉致する事件が発生した。イラク駐留米軍は26日、「4人のうち3人は遺体で見つかり、1人は搬送中に亡くなった」と発表した。実行犯は12人とみられ、米軍は事件の容疑者4人を逮捕して取り調べている。
1月27日11時42分配信 毎日新聞

■米兵4人は全員死亡で、武装集団の方の12-4=8人は、何処かに逃げてしまったという計算になりますから、米軍は完全に裏をかかれています。これでまた無関係なイラク人を拷問に掛けたりして恨みを買うのでしょうなあ。それにしても、「米兵の制服」を何処から調達したのでしょう?きっと持っていた武器も米国製だったのでしょうなあ。現場の米兵は疑心暗鬼に襲われて、ますます神経が休まりません。こうなった原因を考えると、鶏が先か卵が先か?の難問にぶつかりますから、政策はどんどん前のめりになって泥沼はますます広がって深くなって行きます。


米ホワイトハウスは26日、ブッシュ大統領がイラク国内で米軍への妨害活動を行っているイラン人工作員に対する対抗措置をとることを許可したことを明らかにした。AP通信が伝えた。ブッシュ政権はイランが駐留米軍の死者の大きな原因となっている路肩爆弾(IED)の供給源であると判断し、「米兵の身を守るための必要な手段をとる」ことを認めた。これに関連、26日付の米紙ワシントン・ポストも、ブッシュ政権が駐留米軍に対して、イラン工作員の拘束あるいは殺害を許可したと報じた。
1月27日 産経新聞

■イラクには真偽不明の「大量破壊兵器」を理由にして攻撃を仕掛けたのですが、今度のイランは嬉しいことに?安価な手製爆弾を動かぬ証拠として持ち出せますから、イランの脅威を言い立てるのは容易でしょう。しかし、たとえ爆弾を作って供給しているのがイラン人だとしても、それがイラン政府が養成した「工作員」かどうかは分かりませんぞ!米国内にも多数のイラン人が移住しているのですから、自作自演の疑いさえ有ります。「路肩爆弾」に対する報復が巡行ミサイルやステルス爆撃機による盛大な空爆では、ちょっと釣り合いが取れませんなあ。


イラクのアブドルマフディ副大統領は25日、イラク戦争後の状況と関連して「イラク国民が占領下におかれたのは、ばかげた決定だった」と述べ、米軍を中心とした多国籍軍によるイラク占領に対し不快感を表明した。スイスで開かれている世界経済フォーラム年次会合(ダボス会議)で語った。
1月25日 毎日新聞

■米軍がバグダッドに侵攻したら、民主化を求めて苦しんでいた善良なイラク国民が大歓迎してくれる、というナイーブな絵空事を信じて米兵は市内に突入してものでした。形だけでも民主的な選挙をやって誕生した政権からも愛想が尽きた!と言われてしまっては、ブッシュ大統領の大義は地に落ちたも同然です。「今、撤退したら最悪の事態を招く」という盗人猛々しい言い訳をどこまで続けられるのか?次期大統領選挙で民主党政権が生まれたら、「後は野となれ山となれ」政策に切り替えられるだけのことでしょうか?


米民主党のペロシ下院議長は19日、米ABCテレビで、ブッシュ大統領のイラク政策を「歴史的な大ヘマだ」と痛烈に批判した。議長は「すでに危険な状況にある米兵のための予算を削減することはない」とする一方、大統領を「自分が始めた戦争に責任を持つべきだが、穴を深く掘り過ぎて出口が見えなくなってしまった」と批判。米軍増派の開始を、民主党の動きを封じるために大統領が「早く兵士を危険な状況の中に送り込んだ」と非難した。これに対しペリノ大統領副報道官は19日の記者会見で、「民主党が約束し、大統領も追求している超党派の精神と礼儀に反する」と指摘。増派は「議長の言うような政治的な思惑」ではなく「大統領が正しい政策と判断したため」と反論した。
1月21日 毎日新聞

■米国の大統領は、初代のワシントン以来、軍の最高司令官ですから、統帥権はブッシュさんが独占しています。「穴を深く掘りすぎて…」発言は、無能な二代目として石油業界に入り込んだ頃のブッシュ大統領を揶揄するための意地悪なジョークなのでしょうなあ。何処を掘っても1滴も石油は出なかったそうですから……。それに比べて副大統領のチェイニーさんは、どう転んでも必ず莫大な利益を上げて来たやり手です。戦争産業に投資しておいて、自分の手で戦争を始めて儲け、その後の復興作業を独占してまた大儲けするという天才的?な営業手腕を持っているそうですからなあ。
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イラクの泥沼が広がる 其の参

2007-01-29 11:45:27 | 外交・世界情勢全般

28日付の英紙サンデー・タイムズ(電子版)は、イラクのイスラム教シーア派強硬指導者ムクタダ・サドル師派の民兵組織マハディ軍の幹部の大半が首都バグダッドから、既にイランに逃亡していると報じた。米軍とイラク治安部隊は近くマハディ軍に対する本格的な鎮圧作戦を始めるとみられるが、同軍の中核は拘束を免れる可能性もある。イラクの元閣僚が明らかにした。 
1月28日 時事通信

■敵を一箇所に集め、頃合を見計らって集中攻撃を仕掛けて殲滅する。それは大昔から名将と呼ばれた軍人達が採用した戦法ですからなあ。こうして米軍は「民族浄化」の嫌疑を受けることなく、反抗勢力をイラク国内からイランへと追い込んで行くのでしょう。ペルシア湾内には、戦闘爆撃機を満載した航空母艦が3隻も遊弋(ゆうよく)して待ち構えていますぞ!飛んで火に入る夏の虫ですなあ。


ブッシュ米大統領は26日、イラク新政策で表明した2万人以上の兵力増派について「私が決定権者だ」と述べ、連邦上院で審議が進む増派反対決議案を一蹴(いっしゅう)する対決姿勢を示した。これに先立ち、大統領はホワイトハウスにゲーツ国防長官、イラク駐留多国籍軍のペトレイアス次期司令官を呼び、兵員や装備の迅速な輸送など増派準備を急ぐよう命じた。イラクへの兵力増派に対する反対決議案は上院外交委員会の通過を受けて週明けにも本会議での討議に移る。下院でも26日、ペロシ議長が増派阻止に向けたイラク政府首脳の説得のためバグダッドに乗り込むなど、大統領の姿勢表明で議会を主導する民主党が態度を一段と硬化させることは避けられない見通しだ。……

■「2万人」という増派の人数ばかりが目の敵にされているようですが、既に送り込まれた先遣部隊の主力が「パラシュート降下部隊」だという事実の方が問題でしょう?!バグダッド市内の家捜し作業を手伝いに、精鋭中の精鋭の部隊をちびちびと投入しようと言うわけではありません。この精鋭部隊を日本の航空自衛隊が「武器ではない」という理由で夜陰に紛れて空輸して、沙漠の何処かで特定された武装組織の秘密基地を攻撃する作戦に参加させられたりはしないでしょうな?!


ブッシュ大統領はゲーツ長官らとの面談後、記者団に対して「議会でも(イラク政策での)失敗は米国に危機を招くことを大半が認識している。私こそが決定権者であり、危機を防ぐため前に進む道を見いだす必要がある」と発言。決議案審議の結果に関係なく、兵力増派を柱としたイラク新政策を実行する姿勢を強調した。……ゲーツ長官は「部隊を展開させる手順が加速できないかを検討中だ」として数カ月を見込んでいた増派準備を短縮する方針を表明。上院決議案など兵力増派に反対する民主党の動きについては「現場指揮官の求めを差し止めることは利敵行為だ」と非難した。
1月28日 産経新聞

■民主党側の平和攻勢?にしても、大統領選挙を睨んだ選挙政治的思惑が絡んで相当に生臭いものです。米国の伝統では、民主党の大統領が戦争を始めて共和党の大統領が終戦工作をするというパターンが多いのですが、今回のイラク戦争は、珍しく共和党の大統領が始めて民主党の大統領が幕引き役を引き受けることになりそうです。外交下手な民主党が謀略渦巻く中東に手を突っ込んだりすると、ますますトンデモないことになりそうで、心配ですなあ。勿論、露骨な戦争商売に古めかしい十字軍の倫理を混ぜ込んでしまうブッシュ政権が優れているというわけではありません。


安倍晋三首相は24日夜、ブッシュ米大統領が一般教書演説で、米軍のイラク増派への支持を訴えたことについて「イラクの安定、復興に強い意志を示したものだ。効果的に成果を出すことを期待したい」と述べた。首相官邸で記者団の質問に答えた。 
1月24日19時1分配信 時事通信

■米国の隠された真意を極意に明かされた上で、こんなコメントを出しているのでしょうか?そもそもイラクの「復興」には日本が主体的に関わっていたはずです。これから始まる米軍の徹底的な掃討作戦が終わったら、またまた日本の防衛「省」に要請(命令)が来ますぞ!その時のイラク国内に満ち溢れる憎悪の炎は、前回の復興支援部隊を派遣した時期とは比べようもないほど恐ろしく燃え上がっていることは間違いありません。今度こそ標的にされそうですが、今の防衛大臣だとひょいひょいと米軍の注文に乗ってしまいそうで心配です。

イラクの泥沼が広がる 其の弐

2007-01-29 11:44:56 | 外交・世界情勢全般

イラク中部のイスラム教シーア派の聖都ナジャフ郊外で28日、駐留米軍およびイラク治安部隊と、正体が不明の武装集団の間で激しい戦闘が展開された。ロイター通信はイラク警察筋などの情報として、武装集団の約250人が殺害されたと報じた。…米軍は戦車やヘリコプターも投入、夜になっても戦闘は続いた。武装勢力がいる地域は包囲され、F16戦闘機が爆撃を加えたという。米軍は、ナジャフ近くでヘリコプターが墜落、兵士2人が死亡したと発表した。武装勢力に撃墜されたとの報道もある。
1月29日 時事通信

■年末年始、バグダッドでは連日の大規模な爆弾テロが続いていまして、日本の新聞にも毎日犠牲者の数と爆発現場と時間を淡々と報道しておりましたが、その原因についての説明は少なかったようです。自然現象のように爆弾テロが急に増えたはずはなく、米国は報道管制を布きながら、多少の?誤認は許容範囲として処理する恐るべき掃討作戦を続けていたのが主要な原因でしょう。バグダッドで何が起こっているのか?いくらマスコミ報道を追ってもさっぱり分かりません。思い出したように駐留している米軍の犠牲者の数が報道されますが、イラクの現状はなかなか分かりません。そんな状況なのに、ブッシュ大統領は頑固に「自分は正しい!」と大演説をしてしまったので、本国でも満場が拍手喝采というわけには行かないという困ったことになってしまいました。「一般教書演説」からイラク関連の部分だけを抜き出して確認しておきましょう。


……2万人超の米軍を増派するイラク新政策について「成功の可能性が最も高い」と述べ、理解を求めた。……大統領はブッシュ政権下では初めて、上下両院で民主党が多数派となったことについて、「違いを乗り越え、米国民のために大事なことを達成できる」と協力を呼びかけた。具体的には、共和、民主両党の議会指導者で構成する対テロ戦争遂行のための「特別諮問委員会」の設置を求めた。…2003年にイラクに侵攻した当時とは状況が変化していることを認めたものの、米軍がバグダッドから撤退すれば、イラク政府は武装勢力らに打倒されると指摘。そのうえで、「議員の多くは米国はイラクで失敗してはならないと理解している。失敗は悲惨で、広範囲にわたる影響を与える」と語った。…長期化するテロなどとの戦いに備えるため、陸軍と海兵隊を今後5年間で9万2000人増員することを承認するよう議会に要請した。……石油輸入の6割を中東などに依存している現状について、「輸出を妨害しようとする敵対国家やテロリストに対し、脆弱(ぜいじゃく)になっている」との危機感を表明。27年までに戦略石油備蓄を倍増することや国内での石油生産の拡大を打ち出した。
1月24日 産経新聞

■取って付けたように言及されたエネルギー政策の骨子は、「2017年までにガソリン消費量を20%削減、27年までに戦略石油備蓄を倍増」というもので、何だか思い付きで並べた空疎な数字の印象が強いようです。本当は当選していたゴア大統領候補が、得意のエコロジー方面からちくちくとブッシュ一族の稼業を攻撃しているのが気になって仕方がなかったのかも知れませんなあ。それはさて置き、イラクのバグダッドばかりに目を奪われていると、これから起こる事態に当惑することになりそうです。中東全体が蠢動(しゅんどう)して敵と味方が本音を隠したままで忙しく入れ替わり、思い掛けない楽観論に誘導しようとする動きさえ見えます。


イスラエル政府は28日の閣議で、労働党のガレブ・マジャドレ議員の入閣を賛成多数で承認した。同議員はアラブ系のイスラム教徒。ユダヤ人国家イスラエルで同教徒が入閣するのは1948年の建国以来初めて。イスラエルでは全人口の約2割がアラブ人だが、同国政府は建国以降、ユダヤ人社会に対して重点的に予算を配分する政策を続けきた。アラブ系国民の間には「2級市民扱いされている」との不満が根強く、同議員が今後、アラブ系の地位向上でどのような役割を果たすか注目される。
1月28日 時事通信

■小さなニュースですが、これもパレスチナの政治勢力を分断してファタハの穏健派を取り込みつつ、ヒズボラと結び付いているハマスの人々を炙り出し、レバノン・シリア・イランの「シーア派の枢軸」をくっきりと浮かび上がらせようという動きのように見えます。そうやって鮮明に像が結ばれると、親玉のイランの姿が大きくなって米国にとっては好都合というわけです。


イラク駐留米軍は23日、同軍とイラク治安部隊が過去1カ月半の間にイスラム教シーア派強硬指導者ムクタダ・サドル師派の民兵組織マハディ軍のメンバー600人以上とその指導者16人の身柄を拘束したと発表した。AFP通信が伝えた。…米軍とイラク治安部隊は1カ月半でマハディ軍を対象にした52の作戦を実施。一方でスンニ派武装勢力に対しても42の作戦を行い、指導者33人を捕らえた。拘束されたマハディ軍民兵らはイラク政府による訴追を待っているという。
1月23日 時事通信

■イラクのバグダッドは商品見本の展示場になっているかのようです。民主的な選挙で生まれたシーア派政権を正面から潰してしまっては、ブッシュ政権の「中東民主化戦略」の大義名分が失われてしまいますから、治安維持の名目でシーア派を追い込んで現政権を骨抜きにして瓦解させる計画が有りそうです。
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イラクの泥沼が広がる 其の壱

2007-01-29 11:44:10 | 外交・世界情勢全般
■日本国内では日替わり定食のように手を変え品を変えた「殺人事件」が目白押し。その上、参院選挙を控えた国会が始まったので、新聞は社会面と政治面に力が入っておるようです。しかし、世界情勢は大規模に変貌して、日に日に何処かで見たような風景があちこちに現れておりますぞ!米国で「反戦集会」が開かれて、ヴェトナム戦争末期に酷似したいるようですし、その流れに重ねると朝鮮戦争を「短期間」で休戦に持ち込んでおいて、実はヴェトナムが本当の目標だったかのように戦争が飛火した時代にも似ているような気がします。あの頃は東西冷戦の真っ最中でしたから、ソ連の影響下に有る地域は全部米国の標的になっていたのでした。

■時代が変わって今ではイスラム過激派のネット・ワークが便利な攻撃目標に利用されています。イラク戦争を「短期間」で片付けて、イラクを民主化するという大義名分で、本当はイラク国内と周辺国に広がっているシーア派ネットワークを辿って、総本山のイランが浮かび上がるという仕掛けになっているようです。ぺルシア湾沿岸とカスピ海沿岸は、第一次大戦の頃から欧米列強が奪い合った場所でした。その二つの大油田を南北に持っているのがイランという国で、ここはオスマン・トルコ帝国時代にも一線を画して独自の王国を維持していた歴史が有りますから、石油欲しさにオスマン帝国を崩壊させて赤鉛筆一本で英仏両国が山分けにした時にも、美味しい果実として残されていたというわけです。だから米国の石油資本が政府と組んでちょっかいを出したのでした。イランは米国の標的になってから100年近い時が流れたという裏の歴史を持っているのですなあ。

■第二次大戦が始まるまでは、イランを含めた中東地域を牛耳っていたのは大英帝国でしたから、イランの首都テヘランにはロンドン名物の二階建てバスが走り回り、町並みも英国風に造られていたのでしたが、戦後になると米国の支援でへとへとになるまで戦った大英帝国はあちこちで店仕舞いして引き揚げて行きまして、その後釜になったのが米国でした。ヴェトナム戦争はフランスの縄張りを合法的に?奪い取った戦争でしたが……。時の流れは凄(すさ)まじく、今のイランは米国を中心とした資本群とロシアと中国とが三つ巴の争奪戦を繰り広げる主戦場になってしまいました。日本も米国の尻馬に乗って上手に立ち回って見せましたが、これからの雲行きを読み違えると、完全に蚊帳の外に押し出される可能性も有りそうです。


チェイニー米副大統領は、29日発売の米誌ニューズウィークのインタビューで、国連安保理の制裁決議にもかかわらず核開発を続けるイランに対して米軍が空爆する可能性を問われ、「国連を通じた核問題などの外交的解決を目指しているが、いかなる選択肢も排除しないことも明確にしてきた」と述べた。同副大統領は「(イラン)周辺国の多くは、米国によって安全保障が保たれていると考えている」と強調。「最近のペルシャ湾への空母増派は、米国が中東で展開を続け、イランの脅威に立ち向かうという強いメッセージになっている」と指摘した。 
2007年 1月29日 時事通信

■ブッシュ大統領自身が、イランに対して「すべての選択肢がテーブル上に有る」と啖呵を切っていましたが、それを言わせていたのが誰だったのかが、これですっきりと分かりましたなあ。現ブッシュ政権の実際的な大統領はチェイニーだという事は暗黙の了解が有ったのですが……。イラクが泥沼化してブッシュ大統領の支持率が急降下してしまった死に体となれば、もう何の遠慮も要らなくなって来たのでしょうなあ。ハリバートンなどの戦争屋企業を経営しつつ、大規模な戦争を演出しては大儲けし、たまたま?そこが産油国であれば油田の復興の利権もしっかりと確保!一般の人にとっては泥沼でも、戦争屋さん達にとっては金の成る木なのでしょう。