旅限無(りょげむ)

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風林火山 其の参

2007-01-18 12:42:55 | 日記・雑学
■長野県の川中島で、4回も激突した武田軍と上杉軍でしたが、双方が自在に軍団を動かしたのは有名な話で、「車掛かりの陣」「鶴翼の陣」「啄木鳥(きつつき)戦法」など、ドラマでもきっと分かり易いCGなどを使って見せてくれるでしょう。しかし、こうした軍略が悪用されると実に困ったことになります。

故に兵は詐を以って立ち、利を以って動き、分合(ぶんごう)を以って変を為す者なり。

■有名な「風林火山」の一説の前に置かれているこの部分はこういう意味です。


戦争というのは、トリックを使って敵の意表を衝(つ)くことに始まり、利益を追求しようという動機で動き、分散と統合を絶えず繰り返すものなのである。

原典には「詐」という文字が含まれているのを見るとドキッとします。昨年は、電話を使った「オレオレ詐欺」が進化して、税務署やら裁判所を騙(かた)った葉書やメールを使った「振込め詐欺」が日本中の弱者を食い物にしました。年が明けたら、今度は「絵画のレンタル」を材料にした大規模な詐欺が発覚したましたなあ。画を描いた(シャレではありません)のは山口組系の暴力団だそうですが、全国のホテルにインテリア用の絵画をレンタルする会社に投資すれば、そのレンタル料が「半永久的」に手に入るという美味しい話だったそうです。

■確かに、ホテルや旅館には、ロビーや廊下から各室まで、あちこちに絵画が掛かっていますなあ。ホテルが倒産でもしない限り、この投資は利益を生み続けそうです。ちょっと考えれば、各ホテルが契約しているレンタル会社は決っているでしょうし、素人からの投資を必要としている危ない経営をしている会社は少ないのではないか?と気が付きそうなものですが、何と、山口組も悪知恵を働かせていたそうで、何処かから入手した「詐欺被害者リスト」を最大限に利用したというのです。これは正に、「車掛かりの陣」と同じ戦法ですぞ!輪形陣を組んで回転しながら攻撃を続けるのがこの戦法ですから、一撃、二撃を凌(しの)いでも、三度目四度目となると固い守りにも隙が生じて最後には敗北するというわけですから、詐欺に遭った被害を取り戻せます!などという攻撃を仕掛けられたら、人情としては防御し切れませんなあ。

■犯罪被害者のリストなどと言う困った物が存在すること自体が恐ろしい話ですが、それが悪人に渡る闇ルートが有るというのでは、敵を左右から包み込んでしまう「鶴翼の陣」で攻撃されているようなものですし、公的機関の振りをして電話やハガキや尤もらしいパンフレットで繰り返し攻撃されるというのですから、これは立派な「啄木鳥の戦法」であります。手を変え品を変え、日本には性悪な「軍師」があちこちに居るという事になりますぞ。


故に曰く、彼を知り己れを知れば、百戦して殆(あや)うからず。敵を知らずして己れを知れば、一勝一負す。彼を知らず己れを知らざれば、戦う毎に必ず殆うし、と。

■「敵を知り、己れを知れば、百戦殆うからず」というフレーズで世間に膾炙(かいしゃ)している、これまた有名な一節ですが、これは『孫子』第三・防攻篇に入っているものです。


「相手の素性や心底をを知り、自分の弱点を知った上で争ったり話し合ったりしても大丈夫。自分の弱点をよく反省して注意深くなっていても、相手の事をまったく知らない場合は、2回に1回は失敗する。自分は大丈夫だと信じ切って油断しているような状態で、正体も分からない者を相手にしたら、何をされるか分かったものではない」

■詐欺犯罪の対処法として書き直したらこんな風になりそうです。尤もらしい名称を使って仕掛けてくる悪い奴は何処にでも居ます。まずは、強がらずに「自分は騙され易い」と諦めて覚悟を決めることで、「己れを知る」ことになるでしょう。それから、仕掛けられたら、絶対に相手の本性を突き止める工夫をすることです。役所や警察に問い合わせるのが一番ですが、家族以外の他人に状況を分析して貰うのが大切でしょうなあ。大河ドラマの「風林火山」を楽しむ前に、命懸けの権謀術数を尽くしていた現場を分析して書かれた古典を読むのも良いかも知れませんぞ。制作しているNHKも、「己れを知り、視聴者を知る」努力をしないと、今年の紅白歌合戦では本物?の裸踊りを披露する騒動が起きるかも知れませんなあ。

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