旅限無(りょげむ)

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衛星破壊の波紋 其の八

2007-01-31 09:28:28 | 外交・情勢(アジア)

衛星破壊実験を明確に禁じる国際的な枠組みは今のところない。中国も批准している宇宙条約は、自国の宇宙活動や実験が他国に「有害な干渉」を与える恐れがあるときは事前の協議を行うとしているが、違反しても制裁措置はない。ただ「中国はジュネーブ軍縮会議で、米国のMDを念頭に置いて、衛星攻撃能力を持つ宇宙物体の禁止条約を制定しようと主張してきた。しかし衛星破壊実験は自らが非難してきたことを自ら冒す行動であり、信義誠実の原則に反する」と慶応大学の青木節子教授(国際法・宇宙法)は批判する。

■「信義誠実の原則」などとこんな場面で持ち出すのは如何なものでしょう?こと軍事となれば、核兵器を筆頭に先に持ってしまった者の勝ちなのですから、口先でどれほど文句を言おうと、自分が持ってしまうまでの方便でしかありません。核兵器を開発した時にも、「平和目的」としか言わなかった国ですぞ。それを見習って北朝鮮も同じ事を主張したのですが、誰も認めてくれておりません。まあ、軍事問題と言うのはそのようなものでしょう。


ところで衛星を使えなくすることは、敵対勢力の軍事力をそぐ有効な方法だが、実は物理的に破壊する必要まではない。衛星の電子的な機能を喪失させればいいから、地上からレーザーを照射する方式もある。これならデブリが放出されない利点がある。中国は昨年、米国の衛星に向け、レーザーを当てた破壊実験を行ったとみられている。米国は衛星破壊実験を85年でやめたとされるが、デブリを出さないレーザー照射方式まで放棄したわけではなく、97年に2回、空軍の実験衛星をレーザー照射によって破壊を試みたことが分かっている。米空軍が2004年にまとめた「対宇宙戦略」報告書では、戦争になった場合、民間の人工衛星や中立国の衛星でも「敵対勢力を利するものなら破壊する」とはっきりと記されている。

■こうした技術はレーガン大統領の置き土産みたいな物です。ロシアを経済的に破綻させるために仕掛けた謀略だという噂もあったSDI戦略は、「スター・ウォーズ計画」とも呼ばれたものでした。売れないハリウッド俳優出身の大統領でしたから、専門家の間からも嘲笑されたような大風呂敷で、当時のIT技術では実現不可能とも言われたものです。しかし、技術が空想的な計画に追い付いたということなのでしょうなあ。


米国はこれまで宇宙の軍事利用を制限する条約の制定には反対してきたが、それは自分に足かせをはめたくないというエゴからだった。ASATを抑制する枠組みをつくらなければ、「中国が口火を切る形で、宇宙戦争の時代に突入する」(江畑氏)というおぞましい現実を見ることになる。一方、青木教授はこの実験が、むしろ米国や国際社会の関心を宇宙の平和利用に向かわせることに期待をかける。「軍事衛星に深く依存する米国の兵器体系は、世界で最も衛星破壊攻撃に対して脆弱になってしまった。それが今回の実験であらためて意識された。米国が進むべき道は、自らが宇宙の覇権を握っているうちに軍備管理政策を推進し、宇宙兵器禁止条約をつくることだ。ブッシュ政権の力が弱まっている中、その方向に進む可能性はあると思う」

■確かに、IT技術を産業と社会生活の中に急速に浸透させてしまった米国は、ハッキングやウィルスなどの新しい敵を生み出し育て増やしてしまい、常に経済界や軍関係者はその対応に追われる多大なコストを支払っています。便利な機能を満載した高性能コンピュータを配置したら、それが破壊されないように必死で守らねばならないのと同様に、「神の目」とも言われるほどの情報収集力を持つ衛星群を持った米国は、今度は膨大な数の衛星を守らねばならないというわけですなあ。


<デスクメモ> 15世紀中ごろに始まる大航海時代。欧州列強は地球分割に血道を上げ、北米大陸に到達すると、今度は植民者たちが「早い者勝ち」の論理で土地の分捕り合戦を展開した。今は宇宙空間の占有競争だ。米国は新興勢力の台頭を許さないだろう。見上げてごらん、夜の星を。騎兵隊の雄たけびが聞こえるから。
2007年1月29日 東京新聞

■こんな茶化した終わり方で良いのでしょうか?事はもっと重大で深刻でしょう。あと数十年先には、大昔、大和朝廷が遣隋使や遣唐使を送って身分保障して貰った時代が再来するかも知れないのですから、日本も「援助」などと暢気な気分で技術を献上するような愚かな事は止めた方が良いでしょうなあ。北朝鮮には日本から随分と物騒な技術が表からも裏からも渡っている事が徐々に解明されつつありますが、中国に対しても技術の流出や漏洩に神経を使って来なかったアホな政府の過ちを、大急ぎで検証しなければなりません。そう言えば、新幹線の技術をごっそりと渡して最初の列車が走行を開始したとの報道が有りましたなあ。メディアによっては目出度い事のように報道していて、「将来は国産を目指す」などという恐ろしい話も我が事のように嬉しそうに報道しているところも有ったようです。商売上も軍事上も、中核となる技術は「ブラック・ボックス」にして取引するようにしないと、後で取り返しの付かない事態を招く事になりますぞ!既に、アホな経営者が馬鹿の一つ覚えで「リストラ」をだらだらと続けた結果、「第二の人生」を送ろうと優秀な技術者がごっそりと海を渡ってしまったという恐ろしい現実が有りますなあ。

■実に不思議なことに、チャイナの繁栄を我が事のように喜ぶ日本人が案外と多いのです。しかし、日本の繁栄を我が事のように喜んでくれる人はチャイナには居ませんぞ。このアンバランスは何とかならないものでしょうか?北朝鮮を「地上の楽園」と持ち上げた人は吊るし上げに遭っているのですが……。

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