3姉妹の一家が、念願の巡礼にやって来ました。仏への帰依を表わす五体投地を繰り返します。チベット仏教を信仰している人々にとって、ラサは一生に一度は訪れたい聖地です。
■そうでしょうか?少しずつではありますが、「今の」ラサには行きたくない!と言うチベット人も増えているような気がします。ディズニーランドのシンデレラ城みたいな空虚感に満ちたポタラ宮になったら、見物に来るのは外国人や漢族の成金だけになるかも知れませんなあ。
「70歳で初めてポタラ宮を見る事ができました」
「ポタラ宮はどんな場所ですか?」
「言葉では言い表わせません」
チベット人の爺さまの目は、「お前はアホか?」と言っているように見えました。「天安門はどんな場所ですか?」と問われたら、二昔前の「人民」ならば「偉大なる毛沢東主席の革命闘争が……」と小学校から叩き込まれた演説をしたのでしょうが、今は複雑な表情で口ごもる人も増えているのではないでしょうか?チベット人にとってのポタラ宮に対する心情を言葉にしたら、大変な事になるのを覚悟して、このインタビューは行なわれたのでしょうか?少なくとも、「言い表わせない」内容には明るく楽しい話は含まれていません。
ポタラ宮をイメージして造られたラサ駅です。このほど開通した「青海チベット鉄道」、そこには様々な人々の思いと、雄大な自然が息づいていました。
■「様々な人々」というのも意味深ですし、「様々な思い」となるともっと意味深長ですなあ。本当にその通りです。でも、「息づいて」いるのか、息を潜めているのかは判断できないでしょう。妙に広々と区画整理が行き届いているポタラ宮の前に広がる空間は、以前はそこに雑然と集まっていた住民の生活を消し去った跡ですし、最新の技術で開通させ運行され始めた鉄道も、ラサの過去を消し去る機能を発揮して行くことでありましょう。
朝9時半、列車は西寧に向け、ラサを出発します。
■ラサ駅で大量に吐き出した漢族と入れ代わりに、ラサを捨てて出て行くチベット人を乗せて行くような時代にならない事を祈りましょうか。大変な苦労をして撮影したスタッフの皆様には、貴重な映像記録を拝見できた事を感謝します。御苦労様でした。(決して皮肉ではありませんぞ)
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