旅限無(りょげむ)

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衛星破壊の波紋 其の七

2007-01-31 09:28:05 | 外交・情勢(アジア)

米議会の超党派議員らで構成する政策諮問機関「米中経済・安保調査委員会」は、米政府が衛星破壊実験を確認した翌日の19日、緊急の報告書を公表した。報告書は80ページにわたり、「多くのウオッチャーは中国を平和国家であり、衛星攻撃兵器に関心をもたないと誤って主張してきた」としたうえで、「米国の衛星が攻撃された場合、米軍だけでなく米経済にも破滅的な影響が及ぶ」と深刻な懸念を表明している。中国研究機関、財団法人霞山会(かざんかい)の阿部純一主席研究員は、この報告書があまりにも早いタイミングで出てきたことに注目する。「80ページの報告書が1日でできるはずはなく、米国はかなり前から、中国の衛星攻撃能力に警戒感を持っていたことがうかがえる」米国防総省が出している「中国の軍事力」年次報告書では、すでに90年代から中国が衛星攻撃能力を持つ可能性について警鐘を鳴らし続けてきた。

■その種の報告書を読んだ記憶も有りますが、少々誇大妄想気味の内容で、軍需産業からの圧力を予想させるものだった記憶が有りました。しかし、本当に850キロ上空の小さな標的を見事に撃ち抜いたのですから、米国の懸念は決して水増しされてはいなかった事になりますなあ。


中国側から言えば、衛星破壊実験は50年代以来推進してきた核兵器とその関連兵器開発の延長線上にあると捉(とら)えられる。拓殖大学の茅原郁生教授(中国軍事)は、「中国には『宇宙を制するものが将来戦を制す』という考え方がある。宇宙空間を使った現代の情報戦では、たとえ相手よりも物理的な力で劣っていても、相手の宇宙能力の中枢を遮断してしまえば対抗することができる。ASATもそこに狙いがある」と分析する。中国が過去3回、同種の実験を失敗していたとする米CNNテレビの報道が正しいとすれば、すでに長期にわたって衛星攻撃能力を追求してきたことになる。

■「過去3回失敗」などという情報がCNNに入っているというのも驚きですが、「宇宙制覇」という絵空事としか思えない大計画を、中国が本気で実現しようとしているとすれば、その背景に有る「2050年までに米国を圧する」大国化計画も現実性を帯びて来ます。


この時期に実験を行った理由について茅原教授は「宇宙開発で突出する米国に対し、中国も宇宙大国を目指していることを誇示し、侮るなという姿勢を示すとともに、人民解放軍内部の士気高揚を狙ったのではないか」とみる。では衛星破壊の技術的なレベルとはどの程度のものか。軍事評論家の江畑謙介氏は「軌道上にある衛星を攻撃する技術は、弾道ミサイルを撃ち落とすMDほどではないが、それでも800キロ先の衛星にミサイルを命中させたとすれば、相当な誘導能力を得たとみなければいけない」と解説する。

■衛星破壊には、標的の近くで自爆して広範囲に弾丸となる破片を撒き散らす物と、弾頭がそのまま標的を貫通する物が有るはずですが、今回の実験に使われたのはどちらのタイプなのかは分からないようです。爆発物を命中させた事も考えられますなあ。まあ、広範囲に亘って電子機器を破壊してしまう核弾頭ではなかったのは幸いですが……。


中国の軍事ハイテク化の飛躍的な向上を示すこんなエピソードがある。昨年夏にイスラエル軍がレバノンに侵攻した際、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが、イスラエルの駆逐艦に中国製のC802対艦ミサイルで攻撃を加え、命中させた。この駆逐艦は存在を外部に漏らさないステルス機能をもつだけに、中国製ミサイルの命中は世界の軍事関係者を驚愕(きょうがく)させた。「中国は90年代以降、ロシアを中心に外国から軍事技術の導入に努めてきた。それが今になって実を結んでいる」と江畑氏は話す。

■ヒズボラの後ろにはイランがいて、その又後ろには中国が控えているというのが常識ですから、イランが支援している軍事組織に中国製の武器が提供されるのは驚くには当たりませんが、世界最大の武器見本市と言われる中東で、中国製の武器が注目を集めるというのは非常に危険な事でありますなあ。

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