90年代、内陸部の発展を目指す「西部大開発」の一大プロジェクトして計画が再開!総工費4500億円をかけて、2001年の建設開始から、僅か5年で全線開通に漕ぎ着けたのです
■円借款の話が続きます。アメリカ寄りの中曽根政権の後を継いだ、竹下政権の時代に第3次円借款が始まります。1990年から1995年です。田中派から分離独立した竹下派は、中国利権をそっくり取り込んだと言われたものです。この時の援助で北京国際空港が改築拡張されています。何と、第4次円借款は社会党の村山さんの政権が行なったのですぞ!1996年から2000年です。バブルが膨らんでいた中曽根政権時代でも5709億円だったのに、バブルは崩壊するわ、神戸の震災は起こるわ、オウム真理教のサリン事件が起こるわ、そんな村山政権時代の円借款が歴代最高額の9870億円とは、一体、どうなっているのでしょう?
■北京政府が莫大な建設国債を発行して「西部大開発」を進めたのは本当の話ですが、日本からの資金と技術の援助がどう使われているのかをすっぱりと切り捨てて、西寧からラサまでの鉄道を取り上げるのは如何なものでしょう?
標高4000メートルを超えました。切り立った峰峰や深い峡谷に鉄道を通すため、多くの鉄橋が造られています。鉄橋の数は全部で675本、総延長は160キロに及びます。
■古代チベット王国の第31代王タリニュス・ツェンポに仕えたガラン・ザワンは、「チベット七賢人」の一人で、人々に冶金を教えたそうです。薪を炭に加工して銀や銅の精錬を教え、製鉄の技術を広めて、鉄製の農具と武器で国を強大にした上に、「鉄橋」を架けたとも言われています。
■閑話休題。総延長160キロもの鉄橋を架けたり、鉄道レールやら橋脚の鉄筋やら、製鉄技術は日本が教えたものですから、それが巡り巡って世界的な鉄不足を起こし、日本中の下水溝の蓋やら門扉やら、鉄製品が盗まれるような騒ぎになっている訳ですなあ。まあ、鉄や銅の窃盗はチャイナが本場なのですが……。
列車の行く手に、白く連なる巨大な山々が迫って来ました。崑崙山脈東部の最高峰、玉珠峰です。玉珠峰は標高6178メートル。ゴルムドが出た列車が最初に出会う万年雪の山です。白い稜線が青空にくっきりと映えます。頂上付近では強風に煽られ吹き煙が舞っています。玉珠峰の手前で線路は大きく右にカーブします。その先に見えるのは、玉珠峰駅です。「青海チベット鉄道」では、雄大な景色を眺める観光用の駅が、全部で9箇所作られました。玉珠峰駅は、その最初の駅です。現在は通過するだけですが、将来は停車し大自然を楽しめるように計画されています。
■夏には気温が上がって過ごし易くはなりますが、気圧も上がって空気が濃くなる訳ではありません。与圧装置付きの密閉列車から、粗忽な観光客がそろぞろと6000メートルを超える「観光駅」に降りたらどうなるのでしょう?!嗚呼、恐ろしい。駅の看板と玉珠峰をバックにして記念撮影をしたまま、心臓が停止する人が続出しそうな気がしますなあ。特に日本では、驚くほどの軽装で登山を楽しもうという蛮勇に溢れた人々が多いのですから、こんな宣伝番組を見て勘違いしてしまうに違い有りませんぞ。心配な事です。目玉が飛び出すような大金を払ってヘリコプターで下山するしか助かる道が無かったらどうするのでしょう?
■玉珠峰駅の表示板は、一番上にチベット語、その下に漢語、一番下にピンインのローマ字表記になっていました。ひとまず安心しましたが、チベット文字は小さくて読み難いぞ!失礼です。
玉珠峰のパノラマを見ながら、列車はホームを通過します。乗客は車窓に釘付けです。
「どうですか?」
「すばらしいですね」
「どちらから?」
「広東省です」
「広東省にこんな雪山はありますか?」
「有りません。広東省では一番高い山でもせいぜい1000メートルでしょう」
■「車窓に釘付けです」と宮本アナウンサーが情感たっぷりに言う割には、窓際に立っている人が少ないのは何故でしょう?釘付けになっている人の手には小型のデジタル・カメラ!一体、何処の製品でしょう?それにしても、平坦な地形で亜熱帯気候のの広東省から来ている人に、「こんな雪山は有りますか?」と質問するのもどうかしていますが、それをカットもせずに放送しているNHKも変ですなあ。
「とてもきれいですね。壮観です。こんな景色は世界でも他には有りませんよ」
■これも無意味なインタビューです。南北アメリカ大陸にも、欧州にも、あるいは中央アジアにも、恐るべき高山地帯は幾らでも有りますぞ!答える人の年恰好からしますと、文革騒動で義務教育も受けられなかった世代のようですから、世間知らずの井の中の蛙を表現する目的で、こんな無知な発言をさせて見せたのでしょうか?悪趣味ですなあ。