旅限無(りょげむ)

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教育基本法改正の年 其の壱拾伍

2007-01-22 12:16:04 | 教育

いじめ自殺や必修科目の未履修に揺れ続けた教育現場の06年。その騒動の余波が残る暮れの冬休み期間中に、現役教師を対象にした格安の海外集団旅行は敢行された。……ツアーの団長は必修科目の未履修が発覚した高校の校長で、申し込みの締め切り日は未履修が全国的な問題になっていた昨年11月10日だった。この団長を含め、未履修校からは、東京都、長野県の5校6人が参加した。……
2007年1月15日 朝日新聞

■これは朝日新聞のスクープだったようです。


高校の校長や教師ら教育関係者約60人が修学旅行誘致の目的で昨年末に催された台湾旅行に参加し、全日程4泊5日分のホテル代、飲食費、現地交通費を台湾当局に負担してもらったことが朝日新聞の調べで分かった妻の分まで支払わせた教員もおり、複数の参加者が取材に「台湾による接待旅行だった」と認めた。「役得」旅行に便乗する教師たちのモラルが問われそうだ。

■これが同日の一面に掲載された記事のリードです。JTBの算定だと15万円程度のコースだそうですが、それを5万4千円で楽しめると言うのですから、露骨に言ってしまえば「賄賂」旅行でしょうなあ。「渇しても盗泉の水は飲まず」などというモラルは持ち合わせない校長先生が日本中に居るのでしょうか?まさか、修学旅行の下見・味見・物見遊山が、新・教育基本法に定める「研究と修養」だとは言いますまいな!?記事は最後まで、学校名と校長・教員の名前を明らかにしていませんが、それぞれの学校では「自分の学校の校長だ」と生徒達は分かっているはずです。一体、どんな顔をして朝礼や集会で「お話」をするのでしょう?「台湾良いとこ、一度はおいで」などと歌うのでしょうか?

■記事には、参加者の詳しい内訳が載っていて、校長7人、副校長・教頭7人、教職員39人、国土交通省職員、財団法人「修学旅行協会」幹部という人達も参加していて、全体の3分の2近くが公立高校の先生だったそうです。国土交通省の役人やら、変な財団法人の幹部やら、さもしい大人が居るものです。こういう輩は、日常的に生徒の家族からの付け届けやら、裏金での飲食やら接待に慣れているような人なのではないか?と失礼な想像をしてしまいますなあ。

■教育再生会議では、「ダメ教師を教壇から追放せよ!」と鼻息が荒いのですが、モラルも能力も無い校長は校長室から追放せよ!とは言わないようですし、教育とは直接関係のない国土交通省の役人やら、どう考えても文科省の天下り先としか思えない財団法人に関しても、一切の提案はしていないようです。さて、このスクープが好評?だったからか、朝日新聞は翌日の紙面に二の矢を放ちましたぞ。


高校の校長らの「役得」旅行は、台湾だけでなく、中国でも催されていたことがわかった。台湾とほぼ同時期に実施され、台湾を上回る100人が蘇州と上海を3泊4日で訪問。滞在費はすべて中国政府に負担してもらっていた。対象は教職員や生徒だったが、生徒に募集をかけずに実子を同伴したり、元教師が参加したりしており、格安旅行への便乗ぶりが改めて浮かび上がった。……全国各地の教育委員会は15日、台湾への「役得」旅行が報道されたことを受けて、事実関係の確認を始めた。
2007年1月16日 朝日新聞

■旅行社の算定によりますと、こちらも「12万~15万円」コースだそうです。これを「4万8千円」で楽しめたのだそうです。参加したのは、東京・神奈川・千葉・大阪・兵庫・三重の公立高校から30人、あとは私立高校関係やら元教師!やら、合計で98名様の御一行だったそうです。中国のケースでは、未履修問題に火が着き始めた10月頃に、日本全国3000校に案内状を送付して希望者を募ったのだそうです。それに喰らいついたのが98人というのですから、まだまだ、恥を知っているまともな教師がたくさん居るという事でしょうか?もしかすると、本当は行きたかったのに、生徒の受験やら進路指導やら、或いは家庭の事情などで涙を呑んで不参加だった先生が、今頃日本の何処かで「ああ、行かなくて良かった」と胸を撫で下ろしているのかも知れませんなあ。

■こうなりますと、旧法に有った「身分の尊重」を削って、「研究と修養」を加える大義を裏書していることになります。あまり身分を尊重し過ぎると、それを「役得」と同義だと勘違いするエライ先生が出て来ますからなあ。今のところ、この「役得」旅行に関しての指導や通達は文科省から出ていないようですが、事実確認が終ったら何かの処分が行なわれるのかも知れません。新学年が始まってからになるのでしょうか?
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教育基本法改正の年 其の壱拾四

2007-01-22 12:15:39 | 教育
■戦前生まれの皆さんが、団塊の世代が残した歴史的遺産やセンター入試制度などの影響力を正確に判断できるかどうか、はなはだ不安なところです。子供の首に縄を掛けて引っ張り込んでいるような塾は無いはずですが、法律が定める義務として生徒を引っ張り込んでいるのは学校の方です。しかも、10万人以上の子供達が「不登校」という拒否を表明しているのですぞ。今回の教育再生会議では、イジメ問題が大きく取り上げられているのに、何故か「不登校」問題は無視されているようです。多くの不登校児を助けているフリースクールは学校よりも塾に近い存在だと思うのですが……。

■さて、新・教育基本法に話を戻して、次の条項を読んでみましょう。第6条第1項が旧法の丸写しだったのに比べて、同条第2項は旧法を完全に削除したばかりか、旧法が教師の身分を保証する内容だったのに、改正法は生徒に対する規定になっているのです!ここが重用だったのでしょうなあ。


第6条第2項
前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行なわれなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行なわれなければならない。

■出ました!「規律を重んずる」は安倍総理の意向が直接働いているのでしょうし、「意欲」には悪名高い「ゆとり教育」へと進んで行った時に突如として現われた、「関心・意欲・態度」という奇怪な生徒の評価基準の残骸でしょうなあ。教育再生会議では「ゆとり教育」を白紙撤回させるような動きが出ているというのに、こんな所に文科省の頑迷さと無謬信仰が現われているようです。因みに旧法を確認しておきます。


第6条第2項
法律が定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。

■新法では「教員」の規定がずっと後ろに移動して、第9条として独立しています。先回りして、その第9条を見てみましょう。


第9条(教員)第1項
法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。

同条第2項
前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られねばならない。

■公務員として不可欠な「全体の奉仕者」の文言が消えています!「全体」ではなく、何か特定の対象に対する奉仕者にする深謀遠慮が隠されているのでしょうか?そして、「使命を自覚し」が「崇高な使命を深く自覚し」になり、「研究と修養」の義務が加わっております。よほど、最近の先生方は「研究と修養」が不足しているのでしょうなあ。まあ、「ダメ教師追放!」という再生会議の提案に直結するように仕組まれているとも邪推できる条文ではあります。でも、「教員」という条文が有っても、特に「校長・教頭」の規定は無いのは旧法も新法も同じなのが気になります。学校は校長で変わる!と言われているのに、実に不思議な話です。

■文科省→県教育委員会→市町村教育委員会→校長→教員というヒエラルキーを考えると、再生委員会では「教育委員会」と「教員」だけに集中攻撃を加えているものの、文科省と校長に関しては何も言わないのは何故でしょう?メンバーに陰山さんのような名物校長が居る上に、会議の取り纏め役がが文科省の役人だからでしょうか?