「何をしに行くのですか?」
「商売しに行くのです。宝石を売っています。……メノウや珊瑚です」
彼らは、ラサで暮らすチベット族の人々です。開通した鉄道を利用して、チベット特産の宝石類を行商しています。
「これは一つ4万5000円です」
■「ラサで暮らすチベット族」という言い方が、どうも嫌な感じです。ラサにはチベット族しか暮らしていなかったのですぞ!「東京に暮らす日本人」やら「ワシントンに暮らす米国人」とは言わないでしょう。それなのに北京語でインタヴューするから、考えながらの応答になっていますぞ!失礼です。でも、さすがに商売に関する会話は滑らかでしたなあ。特に「金額」の言い方など……。
確かにチベットは金や宝石の宝庫です。だから「解放」されてしまったとも言えますが……。チベット人はとても御洒落で、特に女性は嫁入りの時に高級品を婿さんに要求するので、祭りともなりますと、宝石類から毛皮まで、全財産を身に付けて重そうにしゃなりしゃなりと歩きます。ダライ・ラマ猊下が「殺生戒に触れるから、あまり毛皮製品を珍重してはダメですよ」と仰っても何のその!
■それにしましても、「珊瑚」は海の無いチベットの特産品ではありませんぞ!インドとの長い交流交易の歴史がもたらした伝統です。シルクロードを通ってペルシアや東ローマ帝国とも交易しましたから、世界中の宝石が集まる時代も有ったようです。画面では、1個4万5000円の商品を見せていましたが、頸に掛けている男は命懸けでしょうなあ。
こちらは座席車。背もたれが倒れず、ゆっくり休む事は出来ません。運賃は寝台車の半分の3500円。
夜11時、社内の一角から音楽が鳴り響いて来ました。
音の出所は、この家族です。
■「夜11時」ですから、寝台車は消灯の10時を回っています。座席車輌は夜の間中、照明を落しません。物騒ですからなあ。慣れないと眩しくて眠れません。だからと言って、夜中に騒いでいたり、けたたましい音楽を流していたら、車掌や乗客から文句を言われるに決っています。でも、番組では深夜の「民謡」を平然と取材していましたなあ。
「何の歌ですか」
「チベットの歌です」
「どんな歌ですか」
「祝い酒の歌です。酒を飲む時に歌うのです」
この人達は、青海省から来たチベット族です。
■確かに、小型のテープ・レコーダーから流れていたのは青海地方の民謡です。夜の夜中に、小さなスピーカーが壊れそうな大音量で民謡を聴きたくなるものでしょうか?それから、あの歌は「祝い酒の歌」と呼ぶよりも、「酒を勧める歌」と言うべきでしょうなあ。歌の合間に強引に酒を飲ませる歌詞が入っていて、それに合せた動作も決っていて、客席に坐っていたりすると酷い目に遭います。名人達はテープやCDに吹き込んで売っていますが、本来は何時間でも何日間でも歌い続けられるように出来ている歌で、即興もやり放題、歓迎の宴席では客は確実に酔い潰されてしまいますから、ご用心、ご用心。
■何だかチベット族は公衆マナーを知らない野蛮な田舎者みたいに見える深夜の場面です。酒を勧める歌を聴いているのに、何故か卓上には酒は無く、カップ麺が登場します。カメラが来る前に酒盛りをしていたのなら、深夜のラーメンも理解出来ますが、ここでの登場は理解に苦しみますなあ。勿論、チベット人相手にチベットの歌の話を質問するのも北京語です。老夫婦は北京語が苦手のようでしたなあ。怒っていたのかも知れませんぞ。