「自信は有りますか」
「もちろん。機は熟しました。いち早くチベットへ入るべきなのです」
■この大きな自信は、一体全体、何処から出て来るのでしょう?話の流れからして、彼らはラサ現地に入るのは初めてです。それなのに、こんなに確信を持って商売の成功を語れるのは、何らかの保証を得ているという事なのでしょうなあ。
鉄道の開通は、チベットへ行き来する人と物の流れに新しい動きをもたらしつつあります。
■このナレーションは、善悪判断を棚上げしています。諸手を上げて鉄道の開通を祝っている人と、それを嫌っている人、そして、仕方がないと溜息をついて無視している人、いろいろな感情が渦巻いているラサに続々と「自信」に満ちた漢族が入って行くのですから、相当な摩擦が起こっていると思われます。
ゴルムドを出発して、およそ5時間。列車は大きな河を渡ります。トト河です。トト河は、中国最長の河、長江の源流の一つです。長江は、列車がこれから向う唐古拉(タングラ)山脈を水源とし、中国大陸を横断して東シナ海に注ぎます。トト河に架けられた橋、長江源頭第一橋です。長江が水源から流れて来て、最初に出会う橋という意味です。
■「水源」と聞きますと、日中友好記念の大プロジェクトとして制作された、NHKが誇る名作『シルクロード』シリーズで、黄河の水源を突き止めるという番組が有りました。感動的に放送されたので、多くの日本人が観たことでしょう。番組が放送された70年代当時、チャイナでテレビ受像機を持っている人は少なかったはずですから、あの番組は日本人向けに制作された友好番組ということになります。そこで「共同作業」として行なわれた、黄河水源の探査でしたが、番組を記念して建てられた石碑とは別の場所に「本当の水源」を示す新しい石碑が建っているという奇怪な話が有ります。
■チベット地域には、黄河・長江ばかりでなく、他の河川の水源が点在していて、インダス・ガンジス・メコンなどの南下する河の水源も有ります。つまり、チベット高原はチャイナ・インド・インドシナの巨大な水甕なのですなあ。地球温暖化によって大量の雪解け水が発生すると、想像も出来ない大水害が起こるということです。それほど大量の水があちこちから流れ出し、徐々に集まって大河に成長するわけですから、本当の水源など特定できるはずも無いでしょうなあ。相当におおまかな範囲を「水源地」と想定するしかないという話です。
■トト河を渡る列車の映像には、上空を舞う黒い物がたくさん写っています。日本の都市住民なら「チベットにもカラスが居るんだなあ」などと勘違いするでしょうなあ。列車の大きさと比較すると、あれはハゲタカでしょう。割と近いところに「鳥葬」の場所が有ると思われます。でも、チベット文化に関するコメントを自己規制しているような番組作りは、あの鳥の群に関しては沈黙しています。
トト河を過ぎると、時刻は昼12時を回っています。車内では弁当の販売が始まりました。値段は、1つ300円。この日のメニューは、目玉焼きと野菜の炒め物です。
「列車で食べる弁当は、なかなか良いものです」
■「この日のメニュー」というのは、些(いささ)か無責任でしょう。日本のように「日替わりメニュー」などという発想は、アノ国には有りません。体験的に表現しますと「いつも、目玉焼きと野菜炒め」なのです。画面に出て来る弁当の容器がプラスチック製になっていたのが気になります。他の路線では、古紙を利用したエコロジカルな容器を使っているはずですが、どうして環境に配慮したと自画自賛している「青海チベット鉄道」でプラスチック製品を使うのでしょう?300円という値段は良心的ですが、多くの乗客は食べたことも無いくせに「高くて不味い!」と言い張って、手を出さないのも事実であります。
-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い
チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種山と溪谷社このアイテムの詳細を見る |
------------------------------------------
チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事