旅限無(りょげむ)

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衛星破壊の波紋 其の六

2007-01-31 09:27:39 | 外交・情勢(アジア)
■東京新聞でも、力の入った特集記事を書いています。特に米国側が受けた衝撃を中心にした分析なので、これを読んでみましょう。

中国が老朽化した自国の人工衛星の破壊実験を行ったことが、国際的に波紋を広げている。とりわけ米国を慌てさせた。米国は軍事面で衛星に依存する兵器体系を構築しており、衛星を攻撃されたら途端に脆弱(ぜいじゃく)さをさらけ出してしまうからだ。中国が衛星攻撃能力を獲得することは、それに対抗する米国との間で、果てしない宇宙戦争を引き起こす危険をも孕(はら)んでいる。

■こうした書き出しで記事を書いたのは浅井正智さんです。指摘されている通りに米国は他国の追随を許さない技術を独占的に発達させて、宇宙からの情報収集を続けています。ハリウッド映画でも、多少の誇張が有るにしてもスパイ衛星の高性能ぶりが描かれていますなあ。映像解析能力を飛躍的に向上させて、走行中の自動車から歩行者の動きぐらいなら易々と識別できるようですし、移動している個々人の位置を特定できるのですから、ミサイルと連動させれば究極のピン・ポイント攻撃も可能となります。


米航空専門誌「エビエーション・ウイーク・アンド・スペース・テクノロジー」(電子版)によると、実験は今月11日夕(米東部時間)に行われた。中国四川省の上空付近、高度850キロの宇宙空間で、弾道ミサイルに搭載した弾頭で自国の気象衛星「風雲1号C」を破壊した。米政府は18日、この情報を確認したが、中国政府は23日になって、ようやく外務省報道官が衛星破壊実験を公式に確認した。もっとも実験の様子について具体的な説明は一切なく、ただ「中国は一貫して宇宙の平和利用を主張しており、宇宙兵器の軍備競争には参加しない」と事態の沈静化に躍起だった。

■こうした素っ気無い対応が、軍部の独走ではないか?との疑念を生むことになるのですが、たとえ標的が気象観測用の静止衛星であっても、周到な準備が無ければ実行不可能な破壊実験ですから、中央政府がまったく知らなかったでは済まない話です。


衛星破壊は冷戦時代に米ソ両国がしのぎを削っていたが、破壊によってスペースデブリ(宇宙のごみ)と呼ばれるおびただしい数の残骸(ざんがい)が宇宙空間に放出され、自国の衛星にも被害が出る恐れが生じたことから、米国も1985年で実験を中止した。今世紀初めてとなるこの衛星破壊実験に、米国は最も敏感に反応した。「この実験が米国の衛星を想定して行われたのは明らかだ」と中国軍事研究者の平松茂雄氏は断言する。

■自国の衛星技術が仮想敵国よりも劣っている場合、黙って覗き放題に覗かれているよりは、こちらから攻撃を仕掛けて相手国の衛星を無力化してしまえば、少なくとも情報戦においては五分五分で勝負できる勘定にはなります。現在の中国にとって情報戦の仮想敵が米国なのかどうかは即断し兼ねますが、その可能性は大でしょう。太平洋の覇権を求める国家意志を、既に隠さなくなっている中国ですから、海軍に遅れを取りたくない空軍が宇宙へと戦場を広げようとするのは当然の事でしょうなあ。


「中国が衛星攻撃兵器(ASAT)を持ったら、イラク戦争で威力を発揮した精密誘導ミサイルや日本と共同開発を進めるミサイル防衛(MD)など衛星に依存した米国のハイテク軍事システムが無力化されてしまう。米国としては強い危機感を持たざるを得ない」

■バグダッドへの電撃侵攻を可能にした、米国のピン・ポイント爆撃は世界の度肝を抜いたものですが、実際には陸軍の兵士1人1人が衛星からの生情報を共有して作戦に参加できるようになっているとも聞きますから、もしも作戦中に情報源と通信機能を与えてくれる衛星が頭上から消失したら、世界最強のハイテク軍団がただの間抜けな案山子になってしまいます。それは海上での戦闘行動でも同じ事でしょうから、米国軍の編成思想を根本から揺るがすことになりますなあ。

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