本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

水車小屋のネネ

2024-05-05 06:36:26 | Weblog
■本
39 八ヶ岳南麓から/上野 千鶴子
40 水車小屋のネネ/津村 記久子

39 「おひとりさま」で有名な社会学者上野千鶴子さんの八ヶ岳南麓と東京との二拠点生活を描いたエッセイです。山麓への移住生活に必要な、土地の選び方、家の建て方、コミュニティとの関わり方、地元食材の料理方法、ごみの捨て方など、山暮らしの良い面も悪い面も知ることができ参考になりました。私個人の結論としては、自然に囲まれた生活には興味はあるものの、虫や人付き合いが苦手で、手先が不器用で、車の運転も下手な私には無理ということになりました。個人としての生活能力の低い私はせいぜい郊外生活が相応しいと思います。山暮らしの日常描写から、終盤では地方での「おひとりさま」生活の可能性や医療・介護資源のあり方にまで考察が深まっている点は上野さんらしく、いろいろと考えさせられました。中古別荘は建てた人の思いが強すぎる間取りや構造のものが多く、意外と住みにくいと仰っていた点は興味深かったです。好みさえ合えば一点ものとしての価値は当然あると思いますが、円滑な二次流通のために一定の規格化が必要な理由も理解できました。私は列車での旅行の車窓から山麓風景は楽しみたいと思います。

40 今年の本屋大賞で2位にもなった素晴らしい作品です。津村記久子さんの作品は、職場での理不尽な要求に翻弄されつつ、それでも与えられた役割は誠実に果たそうと苦闘するロスジェネ世代の人物を描いた作品が多い点と、引用されるオルタナティブ・ロックの趣味に共感するところが多いので、読み続けていました(新作が出るとすぐに購入するというほどの熱心さではない点は恐縮ですが)。本作はこれまでの会社から社会へと大きく舞台を拡大させ、また、主要登場人物の10年ごとのエピソードを40年に渡って描く、スケールの大きな作品となっています。間違いなく現時点での津村さんの最高傑作だと思います。僭越ですが、小説家としての成長が凄まじく、読んでいて慄きました。「だらけきった正義」ならぬ「できる範囲での親切」が世代間で連なっていく様子を、力みなく描かれていて心が浄化される思いでした。壊れた家族や社会を違うかたちで少しでも居心地のよい場所にしていく、共同体の再生をテーマにした作品といってもよいと思います。その再生の要石のような役割を、人間ではないヨウムのネネが果たしている点も実に効果的です。派手さはなくてもできる役割を誠実に果たせる人間が、結局は世界を変えることができるのだという、ささやかな希望を感じました。人の行動を変え得る影響力を持つ、力強くも優しい作品です。


■映画 
39 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎/監督 古賀 豪
40 西の魔女が死んだ/監督 長崎 俊一

39 タイトル通り、ゲゲゲの鬼太郎誕生の背景を描いた作品です。昭和31年を舞台に、目玉おやじになる前の鬼太郎の父と、帰還兵上がりの野心溢れるサラリーマンが、ある村での奇怪な事件に巻き込まれます。人間(特に権力を持つもの)の醜さと戦争の残酷さが、これでもかと表現されている熱量の高い作品で、想像以上に面白かったです。最近の悪役はそれなりに悪に至った背景が描かれたりしますが、本作はただただゲスに描かれていて、報いを受けた際の爽快感はとても大きかったです。謎解き要素もよく練られていて、妖怪とのバトルシーンと合わせてハラハラドキドキの連続でした。もはや誰もアニメ映画を下に見ることはないと思いますが、メッセージ性とエンターテイメント性が両立した、大人が満足できる素晴らしい作品です。

40 田舎で暮らすおばあさんと不登校の少女との束の間の共同生活を描いた成長物語です。どこかで見たことのある里山の丁寧な暮らしの描写や教訓めいたセリフの連続ですが、おばあさんが魔女の末裔であると少女が信じ込んでいるという設定が絶妙のアクセントになっています。二人がわだかまりを抱えたまま別れる点も、甘いだけの作品とは一線を画しています。クライマックスのおばあさんが起こしたある奇跡も、ちょうどいい具合の慎ましさです。基本的には説教臭い作品なのですが、その臭みをちょうど良い塩梅のスパイスで調理した料理のような作品です。
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