ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ジャンゴ・ラインハルトのハコモノ

2006-03-06 02:23:03 | ヨーロッパ

 ”Django Reinhardt ;
The Classic Early Recordings in Chronological Order ”

 CDのボックスセットなどというものは、聴くものではなくてそこら辺に置いておく為のもの、なんて発言もあって、それはそうかも知れないなあなどと、その種のものを集める趣味のない当方は野次馬の立場でなんとなく納得してしまったりするのである。

 なにやら意味ありげな特典やら聞く価値が本当にあるのやら分からない”未発表曲”などが、無駄に金のかかっていそうな豪華パッケージに入れられてドーンとおさまり返っている姿など見ていると、確かにこれは手に入れただけで満足してしまい、そこら辺に置いておくだけで十分、もう聞くこともないんだろうなあと思われて仕方がない。あんなものよりはやはり、一枚一枚コツコツと集めた盤を聴くのが本当だろうなあ。

 などといっている当方であるが、イギリスのJSPなる会社が出している、古いジャズやブルースのボックスものには、つい手が出てしまう。
 そもそもが戦前のジャズやブルース好きの当方なのであるが、気になっていた巨匠の歴史的レコーディングが効率よくまとめられ、無駄に金のかかっていないシンプルな箱に収められたそれからは、置いておくためよりは聴くためのセット、という雰囲気も漂い、好ましく思われるのである。

 また音のほうも”優れたマスタリング技術”などと人は言っているのでそうなんでしょう。というのも間が抜けた発言だが、オーディオ関係にはまるで興味のない身であり、お許し願いたい。
 というわけで、かの”ジプシー・スイング”の開祖、ジャンゴ・ラインハルトの5CDセットだ。

 1930年代半ばあたりのジャンゴ・ラインハルトの録音を集めたものだが、こうしてまとめて聴くと、確かに当時のパリで彼らはとてつもなく熱い時を過ごしていたのだと思い知らされる。相棒、バイオリンのステファン・グラッペリと組んでいたホットクラブ五重奏団による演奏をメインに、時にパリを訪れたアメリカのジャズ・ミュージシャンを迎えて、当時の定番ナンバーが次々に、イマジメイション溢れるエネルギッシュな演奏で展開されている。

 聴いていて気がついたのだが、ラインハルトとグラッペリ、ある種の漫才コンビみたいなものなのね。片方に、もう若い頃から流麗なフレーズを湧き出るように繰り出していたステファン・グラッペリがいて、もう一方にまさにイノベイターというべきか、ちょっと間違えれば破滅への道を一気に突き進んでしまいそうな革新的なフレーズを連発するジャンゴ・ラインハルトがいる。
 ジャンゴがボケでステファンが突っ込みって見立てになりましょうか。ジミヘンみたいに聞こえる瞬間があるものなあ、ジャンゴは。

 この二人、どのようにして出会い、互いにどのように評価しあっていたのか。本当の本音のところが知りたいと思う。私が怠け者のせいだろうが、いまだ、その辺の詳しいところが分かっていないのだ。

 ジャケ写真にある五重奏団のステージ写真では、若きパリジャンたるグラッペリがなにやらエエトコのボンボン風にバイオリンを構える後ろで、ジャンゴたちジプシー勢は確かに”禍々しい異人種”の迫力を発散しながら控えている。これはビジュアル的にもかなりインパクトある組み合わせで、そんな連中がこんな凄まじい演奏を聞かせていたんだから、そりゃ濃厚な闇が当時のパリを覆っていたのだろうと、嘆息してしまうのだ。