”Ben Buraya Ciplak Geldim”by Nil Karaibrahimgil
ニル・カライブラヒムギルと読むんだそうです、この名前。トルコのぶっ飛びアイドル、Nil嬢の2012年新譜であります。いや、1976年生まれとのことで、アイドルとか”嬢”とか呼んでいる場合じゃないんですが、ジャケ写真や、その音楽性などから、あえてそう呼んでみたい気分なのですな。
盤を回してみると、なるほど噂に聞いた通りの音楽遊園地ぶりで、嬉しくなってきます。その、トルコの各種伝統音楽を踏まえつつ微妙に脱線を繰り返し、果てしなくズッコケ続けて行く暴走の快感、これはクセになりそうだ。
Nil嬢の、やや情緒不安定気味かと見えつつも崩れ落ちることなく、コケティッシュにしてリズミカルに狂って行くハスキーな歌声、これも魅力的であります。先に、伝統音楽を踏まえつつ、などと書きましたが、伝統楽器とエレクトロニクスの要素との混交もかっこよく決まっています。
例えば3曲目に収められている、イスタンブールを歌った歌など、聳え立つ古きモスクの優美な姿の影から、不意にモクモクと今日的な狂気が飛び出し、風景のすべてを不吉な色に染め変えてしまう。そんな幻を呼ぶ手つきも鮮やか。このディープでアーシーな幻想館に一度囚われれば二度と出ること能わず。
まあ、さほど帰って来たいとも思えない現実世界だけれどもね。