今、何かのテレビ・コマーシャルのバックでビリー・ジョエルの”ピアノマン”という曲が流れているでしょう?初期のボブ・ディランが作ったみたいなというか、いかにも60年代のグリニッジ・ヴィレッジ風の、ギターのコードを3つくらいしか知らないような自作自演歌手が作りました、みたいな素朴な感触の曲。途中で差し挟まれるハーモニカの感想も、ただブカブカやってるだけ、みたいな、まさにディラン調のもの。
ずいぶん以前からテレビから流れるのを耳にしている気がするんだが、もしかしたら複数のコマーシャルで使われているのかも知れない。広告代理店関係者におきましてはお気に入りの曲だったりなんかして。
まあ、CM関係者にはお気に入りかもしれませんが、私はこの曲、大嫌いでしてねえ。なんか、いかにもうさんくさいじゃありませんか。ビリー・ジョエルなんて男、コードを三つしか知らないどころじゃない、ひょっとして音楽の専門教育を受けてるんじゃないか?ってな人間でしょ?それがわざと稚拙な曲調の歌を一発、でっち上げて歌っている。
この歌が世に問われたのは70年代なかば、ちょうどそんなアマチュアくさいシンガー・ソングライターたちの”手作りの”歌がもてはやされた時代でした。機を見るに敏な商売人、売れ線の音を「一丁上がり!」ってなノリで、楽勝ででっち上げている。これは胡散臭いですよ。
しかも事はそのままでは終わらず、2コーラス目に入るとジョエルは1オクターブ上に声を張り上げ、一挙に楽曲全体のクオリティを上げてみせます。「本気を出せば、こんなもんじゃないぜ、俺の実力は」って世間にデモンストレーションしておくつもりだったんでしょうかね。こうなってくると胡散臭い上に、このうえなくいやらしいじゃありませんか。
けど、この歌が発表された当時、たとえば中川五郎なんてヒトはコロッと乗せられちゃって、当時、連載していた音楽雑誌の連載エッセイで、この”ピアノマン”を、思い入れたっぷりに歌詞の日本語訳までして見せて”今、ボクが偏愛している曲”みたいな紹介記事を書いていたのを私は記憶しています。一連のシンガー・ソングライターたちの流れのうちに連なる歌手の、それも有望株のうちの一人と認識していたみたいですね、五郎氏は。ジョエルを。
今、中川氏は”ピアノマン”を、そしてそれを評価してしまった過去の自分をどう考えているか、ちょっと訊いてみたい気がしますが、いやいや、本音の答えが返ってくる事が期待できるとも思えませぬ。
まあしかし、この大衆をなめきったジョエルの音楽稼業、確かにいかにも広告屋の皆さんには心根の深いところで共感を抱かせるものがありそうな気もします。
うーん・・・まさかこの曲、CM絡みで再び売れてたりしないだろうな。いい加減にしてくれよ、ほんとに。