”Nuevos Cantares Del Peru”by Diana Baroni
クラシック・ルーツの女性フルート奏者によるプログレッシヴ・フォルクローレ?と申しましょうか・・・
アルバムのヌシ、ディアナ・バローニはもともとはクラシックの演奏家。スイスに遊学してバロック音楽を学んだが、故国アルゼンチンに帰国後、パラグアイのアルパ(現地の大衆音楽で使われる小型のハープです)奏者との出会いにより民俗系の音楽に目覚めた。
以後、クラシックの演奏家とフォルクローレの歌手を兼業していると言う、ユニークな立場の人である。
作り上げた音楽もそれにふさわしく独特なもので、バロック音楽の影響色濃い静謐な空気の中で泥臭いフォルクローレの楽曲が、けだるい響きのバローニ女史の歌声で流れて行く。なんとも不思議な取り合わせ。何曲かではお得意のフルートも聴かせてくれるが、こいつも吹きすぎず、上品にまとめているのが憎い。というか、もっと吹いてくれてもいいような気がするんだけどね。聴きたいんだがね(笑)
彼女はペルーの女性作曲家、チャブーカ・グランダ Chabuca Granda(1920 - 83)を敬愛しているようで、このアルバムでは、その作品がいくつも取り上げられている。とか言ってるが、私がこの作曲家について知るところは少ない。毎度すいません。リマの街を愛し、多くの美しいワルツを書き残した作曲家で、その作品、「ニッケの花」は南米中で愛され、ペルー音楽を代表する歌となっているそうだ。これが知ってるすべてであります。
どの歌も、いかにも温かい土の香りを感じさせる曲調で、それらの優しい持ち味の曲が、アンニュイな雰囲気のバローニの歌や、彼女がバロック音楽から学んだアイディアを投入した巧妙なアレンジで聴かされると、これがますます深いイメージの広がりを感じさせてくれ、なんだか豊かな気持ちになれるのだった。
これ、やる人によっては嫌味になったりするパターンで、その辺、”クラシック育ち”を鼻にかけずに民衆音楽に敬意を払うバローニ女史の心意気が伝わってくる。
彼女をサポートするアルパとバロック・ギターの二人も地味ながら堅牢なプレイを聴かせ、この水彩画のように淡い印象の、それでいて聴きこめば非常に奥深い音楽世界は、南米の民衆の心の水脈に静かにゆっくりと染み込んで行くのだった。