”JPN”by Perfume
この場で韓国のポップスについてなど時々書いているせいか、「最近の少女時代とかの軽薄なK-Popののさばりようには腹が立つでしょう」とか、たまに言われることがあるのだが、別に何も腹は立たない。
こちとら根っからのアイドル・ファン、その種のものがどんなにくだらなかろうが腹を立てたりするものか。当方が無条件で罵倒することにしている音楽は、とりあえずラップだけなのである。
そんなわけで我が国の誇るアイドルグループ、パフュームの新譜の出来にも、それは気になるものだったりするのである。
もっとも、アイドルとしてのパフュームの個性はともかく、そのサウンドに関しては以前より大いに文句があるのはご承知の通り。ともかく、あんなにハードな”テクノの音”があるもんか。
テクノなんてものは薄っぺらなオモチャの音楽が本質なのであって、安物のドラムマシンがリズムを刻めば十分。なのに、ドカドカドスドス、やかましいドラムセットの音がど真ん中に鎮座ましますパフュームのサウンドのどこがテクノかね。また、何かというと耳をつんざくギターソロがでかい顔をしてソロを取る。あれではシンセ多用したハードロックバンドの音ではないか。
なんてブツクサ言いながらもCD買っちゃうんだからファン道は険しい。まあ要するに、パフュームのキャラも唄も好きだが、そのサウンドは納得できない、ということなんだけど。とはいえ、そのキャラ設定やら歌声も、その嫌悪すべきサウンドを作っている奴のプロデュースになるものなんだから、こちらの気分もますます複雑で、自分でも何考えているのやらようわからん。
そんな狂おしい存在であるパフュームが、なぜか2年数ヶ月ものブランクののちに世に問うたのが、今回のこのアルバム、”JPN”である。ミュージックマガジンのクロスレビューでは結構評判悪かったみたいな(立ち読みしかしていないので、評価の詳細を知らず)この盤であるが、私は妙に気に入ってしまっている。
これまでの盤にはなかった、微妙な陰影が感じられるサウンドの作りに魅入られてしまったのだ。
とりあえずサウンド。まず、あのやかましいドラムがやや抑え気味となり、時にリズムボックス的な音の刻みとなる箇所もあり、そうかそうか、このなんたらいう名のプロデューサーも、もしかしたら根っからの悪人ではないのかも、などと思えて来たりするのだ。
三人のコーラスと、”ただのキーボード”仕様のフレーズを奏でる鍵盤群とがひとかたまりになってリズムの中を縫い進み柔らかな流れを織り成して行く、みたいな響きが新鮮だった。若干の湿り気をはらんだ”気配”としか言いようのないものが、風の姿をして、そこに吹いている。
そいつは例えば夏の終わり、まだ盛んな日差しの下にふと忍び寄る秋の気配の風、みたいなささやかな、でも決定的な終わりの感触。それを正体も分からず感じ取ってしまうことの喪失感。
そいつは今は、”Have a Stroll”の主人公が買いに行ったプリンの数が足りなかった、なんて形でしか、しかと確認できる姿の現し方をしていないが。その喪失はいずれ全世界を被ってしまうだろう、そのような予感。あるいは。ドライにオシャレな騒ぎを繰り広げているつもりでいて、でもいつの間にかあたりを細かい霧雨が覆ってしまっているような”575”で歌われている情景を見れば、”それ”はもう始まっているのかもしれない。
自分が何を予感してしまったのか自分でも分からぬまま、心の隅に生じてしまった喪失への不安や、失われるであろうものへの哀惜を歌う。そんな風が吹いているから、私はこのアルバムに惹かれてならない。気になってならない。作る側は多分、そんなものを作ってしまったとは自覚していないだろうけれど。