”Radio Nagra”by Ivan Kupala
青空を見上げながらヘッドホンを耳に当て、なにやら聞いている長髪の男の写真が表ジャケ。裏返しますと同じような長髪の男3名がステージ衣装なのでしょうか、白いルーズな上着姿で湖に膝まで浸かり、物思いに耽っている後姿が。
ロシアの民俗派エレクトリック・ポップバンド、というくくりで良いのか分かりませんが、イヴァン・クパーラなる音楽集団の2ndアルバム、”ラジオ・ナグラ”です。
ロシア文化関連のサイトでは、”ロシアの民俗音楽をハウス・ミュージックにアレンジして演奏するバンド”との紹介があります。
彼らのステージ写真など見てみますと、ロシアの民族衣装に身を固めた女性4名ほどがステージ前面に出てきて歌い踊り、その後ろでいかにも”田舎のダサいロックバンド”といった風体の髭面とサングラスの男たちがキーボードや民族楽器を操っています。どうやらこの男3名がイヴァン・クパーラの正式メンバーで、彼らがゲストに迎えた民謡歌手をメインに押し立て、ステージを進めて行く構成になっているようです。
実際の音を聴いてみても、”ハウス・アレンジされたロシア民謡”という表現がまったくふさわしい展開がなされています。取り上げられているロシア民謡はかなり土俗的なもので、我々日本人が歌声喫茶的知識として知っているポピュラーな”ロシア民謡”とは相当に違う代物です。フィーチュアされる歌声にはかなり年配の女性の歌声も含まれており、間に差し挟まれる民族楽器の響きもディープであり、相当に本格的なロシアの民俗音楽が演じられていると考えていいのではないでしょうか。
その割にバックに流れる打ち込みのリズムは能天気と言いたいくらいの屈託のない軽快なもので、この辺の落差は凄い。まあ、そのような工夫がなされているので、本来ならばロシア人ではない我々には馴染みにくい本物のロシアの民俗音楽を気軽に聞けるという利点があるのでしょう。その辺が狙いのバンドでもあるのかと想像します。
それにしても、おばあさんの昔語りを分解してリズムに乗せ、ラップ状態にしてしまったり、結構な悪乗り振りで、こういう事をやっていいのかどうか知らんが、まあ、楽しくロシア民俗探訪が出来るのは確かですな。
そもそもこのバンド名、”イヴァン・クパーラ”というのはロシア、ベラルーシ、ウクライナあたりのスラブ民族たちの夏の祭りを指す名称だそうで。それは、花輪を編み、焚き火の上をジャンプし、水浴びをする、といった火と水の祭り。聖ヨハネの祭りということになってはいるんだけれど、その起源は多神教の時代にまで遡るようです。
そんな由来がなるほどと頷ける文化人類学的深さある世界を、電子楽器の打ち込みリズムの上で愉快にダンスさせてみせるこのバンド、かなり好ましく思うものであります。日本盤とか出たらいいのになあ。
PS.
ネットで検索すると、ロシアの少年アイドル歌手のヒット曲である”イヴァン・クパーラ”関連の情報やらYouTubeやらが出て来ますが、それはこのバンドとは関係ありませんので、ご注意。