” Calture Swing ”by Tish Hinojosa
テックス・メックスである。アメリカはテキサス州と、メキシコ合衆国の国境線上に展開する音楽。
たとえばそこのスターだったフレディ・フェンダー(哀悼)の歌声には、国境線上にわだかまる人間ドラマの匂いがする。国境を越えれば”チャラ”となり消え去る過去。あるいは不法に越える国境の向こうに存在するかもしれない儲け話。そんなものに賭けた、人々の体温がある。
その結実がシリアスな重苦しい音楽ではなく、切ないバラードであるところに、大衆音楽としての面目があったと思う。
一方、今回取り上げたTish Hinojosa の音楽においては。人々のドラマはより昇華され抽象化され、国境線上に吹く風の中に気配として舞っている。彼女のポジションとしては”メキシコ系アメリカ人のフォーク歌手”といったところか。あまり、テックスメックス的側面を濃厚に演出している人ではない。あくまでもさりげさが身上である。
一曲め、By The Rio Grandeが気持ちの良い出来上がりで、アルバムのムード決定をしている。彼女は素直な歌声で南テキサス方面の地名を列挙しながら、心躍る旅の楽しみを歌い上げる。控えめに付き添う、メキシコ風アコーディオンの響きが快い。
彼女、テキサス州はサン・アントニオ出身という。今、検索してみたが、水と緑の豊かな美しい町である。素直な歌声の前に素直な気分になって、そんな”南の豊饒”を湛えた彼女の歌声をよすがとして国境の旅の余情の幻想に酔ってみるのもまた良し、かも知れない。