ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ひばり、リズム歌謡を歌う! 1949-1967

2007-01-30 02:29:01 | その他の日本の音楽


 ”リズム歌謡を歌う! 1949-1967 ” by 美空ひばり

 というわけで。これは最近リリースされて、スキモノには話題の一発ですな。美空ひばりが”洋楽”からの影響を見事に自身の音楽として血肉化して歌いこなして見せた”リズム歌謡”の作品群(1940年代から60年代にかけて)を集めた50曲、2枚組のCDであります。

 とか言ってるけどねえ、こんな凄い作品集を簡単に語れるはずはないんで、今はまだ盤の端っこをちょっと齧ってみただけって状態なんだけど。それでも十分、そびえ立つ音塊に圧倒されるばかり。美空ひばりって、”演歌の女王”に祭り上げられちゃう前は、こんなにも面白かったんだそう。

 ブギウギのリズムと伝統的歌謡曲の世界のバッティングの傑作としてとうに定評のある”ロカビリー剣法”や”河童ブギウギ”の痛快さはいまさら言うまでもないけど、それ以外にも知らずにいた傑作群が目白押しだ。

 これはエグい作品だろうなあと期待した”エスキモーの娘”は、普通にジャズ曲で、いやいや曲調はそうなんだけど、出来上がりはやはり強力で、その後、欧米のロック界で何度も登場することとなる”諧謔系オールド・ジャズ志向”の先行作であり、すでに完成されている感があり、であります。おーい、マーティン・マルとかその辺の連中、聞いてるか。聞いてねえだろな。そりゃそうだが。

 同じくファンキーなる出来上がりを期待した”チャルメラそば屋”は、よくある中華サウンド、チャカチャカチャッチャチャッチャッチャ~ン♪”なんて世界が展開されるのかと思いきや、屋台のラーメンのチャルメラの音とペダル・スティールの、頭の線がねじ切れるような並走を見せるイントロに導かれた軽快なカントリーのサウンド。
 でも、どうしてカントリー?なんて質問は受け付ける気配もなく、歌声は中華の双喜マーク乱れ飛ぶ西部の荒野に走り去ってしまうのでありました。

 その他、この調子で書いているときりがないんで、”白いランチで十四ノット””すたこらマンボ ””ペンキ塗りたて ” と曲目だけ挙げておくんで、後は適当に想像してください。うん、現物は多分、その想像のはるか彼方を行くかも知れないが。

 しかし、これだけ多種多様でムチャクチャな曲の数々をあてがわれつつ、それをことごとく歌いこなしてしまった歌手ひばりに改めて敬服、であります。いや、入ってきた異文化をねじ伏せて、見事なエンターティメントにしてしまった作家と歌手の共同作業に敬意を、というべきか。

 それじゃ、私はこれから、この盤の続きを聞かなきゃならないんで、内容に関する詳しい話はまたいずれ、という事で。

”みうなノート”がカワイソス

2007-01-29 01:39:37 | その他の評論

 ”みうなノート” by みうな(講談社)

 ネット書店内をうろついていたら、「みうなノート」なんて本に出会い、複雑な気分になってしまった。みうなというのは、まあ、マニアなアイドル好きしか知らないだろうけど、モーニング娘なんかの所属するハロープロダクションの、やはりアイドルグループ、”カントリー娘”のメンバーだった子です。

 カントリー娘ってのは、北海道で牧場を営む軽いタレント、田中義剛がモーニング娘人気に便乗して、”牧場で働きつつアイドルをやるグループ”なんてものを思いつき、デビューさせてしまったグループでした。モーニング娘のメンバーが助っ人に入ったりもしましたが、けどまあ当然の如く人気グループにはなりえず、はっきり言ってハロープロダクション内にあって、お荷物的存在だったグループでしたな。

 で、今回、話題にするみうなって子も、これはモーニング娘のメンバーのテストに落ちてカントリー娘に廻されたんだっけ?詳しい経緯は知らないが、まあそんなような挫折を抱きつつ、グループのメンバーに加わったはずです。だってあなた、モーニングとカントリー、どちらの”娘”のメンバーになりたいと思いますか?

 でも、マイナーなアイドル好みの連中からはなかなか強い支持を受けている子でもありました。「モーニング娘のメンバーに”昇格”させてやれば良いのに」なんて声が、発表されたモー娘の新メンバーがパッとしなかった時などにファンの間から上がったりしてましたな。

 そんな彼女は、ハロプロ内で結成されたフットサルのチームでも、なかなかの活躍を見せていました・・・というけどねえ。

 この話は以前もしましたけど、なんでハロープロダクションとか巨乳が売りのイエローキャブって、妙に所属タレントにフットサルをやらせるのに熱心なの?どちらの事務所にも、芸能活動では何をやっているのか知らないが、大張り切りでフットサルをやってる姿だけはテレビで見た事がある、なんてタレントが何人もいるでしょ?

 彼女らもねえ、そんなものやりたくて芸能界に入ってきたわけじゃないんだろうに。こちらファンの側だって、そんな汗臭い姿じゃなくて綺麗に着飾って歌を歌ってる姿や海辺に水着で寝転んだエッチなポーズを見たいんだよ、本来は。
 なんかねえ、裏でなにやらフットサルに絡む、うさんくさい金の流れがあるらしいですけどね、私は詳しいことは知りませんが。(裏事情、ご存知の方はどうかご教示ください)

 つまりは、彼女らも我々も、どこかの誰かの汚い夢の犠牲者だ。もう一回言うが、フットサルなんか見たかねえってんだよ。彼女らだって、そんなものはやりたくないと思うよ、命令でやらされてるが、本心ではね。

 で、話はみうなに戻ります。そんな彼女はこの春、カントリー娘をやめます。その後のことはまだはっきり分からないんだけど、おそらく芸能界を去ることになるんじゃないか。私も彼女には好感を持っていた者のひとりなんでこんな言い方は忍びないが、夢破れて去って行くのですなあ。

 それにしても、そんな彼女が芸能界に残して行く唯一つの彼女名義の作品、”みうなノート”がシングル盤のCDとかじゃなくて、フットサル体験記であるってのが、やりきれないよ、たまらねえよと私は大声で言いたいのであります。

 そんなものを書く事を目的に芸能界を目指す奴なんて、絶対にいないんだよ。そりゃそうだろう?なんとかしてやれよ、関係者。ひどい話もあったものだぜ、まったく。

シルクロード吠え王

2007-01-28 00:32:38 | イスラム世界

 ”Love's Deep Ocean”by Alim Qasimov

 一部の人の間で以前から話題になっていてちょっと気になった、中央アジアはアゼルバイジャン共和国のイスラム歌謡、”ムグハム”を歌う、現地では名人の誉れ高いという男性歌手のアルバムであります。

 なんだかその髪型や、”アジア”を濃厚に漂わす風貌から、ウチの町内に住んでいる寿司屋の板さんか大工の棟梁が歌手してるような印象をジャケだけ見ると受けて仕方ないんだけど、CD廻して飛び出してきた歌には、なるほど恐れ入りました。確かに迫力の歌声。伴奏の民俗楽器を従えて、堂々の渋い歌唱が響き渡る。

 同じイスラム圏の豪腕の歌い手、ということでカッワーリーのヌスラットなど引き合いに出して語られる事の多い人のようで、なるほど、鋼の喉が天を突いてイスラミックなコブシをグルグル廻しながら法悦境へ舞い上がって行く様は、かのパキスタンのイスラム宗教歌、カッワーリーを連想させないでもない。

 しかし、カッワーリーのあの、強力なコーラスや手拍子を伴って濃厚に盛り上がる濃密な熱さはなく、Qasimovの音楽には終始、中央アジアの草原を渡る風が吹いている。歌いかける相手も、アラーの神よりは果てしなく広がる平原やら太陽や月、といった大自然であるように、とりあえず私には聞こえる。一人馬上で旅を行く者の、ひんやりとした孤独を内に秘めた歌声。”シルクロード風馬子唄”って感じなのね。

 ああでも、彼ら中央アジアの騎馬民族が大々的に勢力拡大した昔、地平線の彼方からこんな歌声が聞こえてきたら、攻め込まれる側の兵士たち、怖かったろうなあ。

 まだまだローカルな民俗音楽として存在しているだけで、外国に進出するどころか現地の流行り歌としてさえ機能する以前のもののようだけど、何かのきっかけでこの味わいをキープしたままで”ムグハム”が国境を食い破って走り出したら凄いだろうなあと、多いに妄想するものである。


1990年

2007-01-27 02:45:33 | アジア

 ”1990年”を収めた吉屋 潤1974年のアルバム、「海程」

 この間、発表された”日本沈没”の再映画化って、結局ヒットしたのかなあ?韓国のヒトビトが大喜びで見に走って、かの地では大ヒットしたなんて話は聞こえてきたけど。

 あの映画が最初に映画化された1970年代初期から中頃ってのは、終末ブームとか言われて、妙な末世間が世間に流れていたものだった。ずっと続けて来た高度成長経済が中東発の石油ショックでずっこけてしまったりで、世情も一気に暗いものになり、その風潮に乗って”日本沈没”は大ベストセラーになった。

 そんな行き詰まりの世情の中で、ひょっこり、という感じでチマタに流れ出した韓国発のヒット曲が”1990年”だった。
 「1990年、娘は21」なる歌い出しで、その時点からは16年ほど先のことになる未来に、今は幼い自分の娘が大人になる日の事を歌っていた。その頃には娘はもう恋も知り、あるいはその恋に破れて、私の差し出す酒を受け取ることもあるかもしれない。

 当時、日本と韓国を、そしてジャズ界と歌謡曲の世界をまたにかけて活躍していた在日韓国人のミュージシャン、吉屋潤の作品で、日本では菅原洋一がカバーを歌っていた。

 これには、ちょうどその頃、自分なりに歌を作って歌いだしていた私は、一本取られた、みたいな気分になったものだった。まったく明るいビジョンが見えてこないみたいな閉塞感にとらわれた人心、というものにあえてぶつけるように、まるで当てにならないものに思える未来に敢えて題材を求め、「幸福になれ」と、自分の娘の未来のための祝福を歌うなんて。

 そして時は流れ。我ら人間は特に絶滅もせずに、が、もしかしたら滅亡した方がまだマシだったかとも思える局面など現出させながらも世紀末を通り過ぎ、21世紀暮らしにもヒトビトは馴染んだ。まるで当てないものに感じられた”未来”たる”1990年”はいつのまにか、もう17年も前に”近過去”となってしまった。

 その、まだ来ぬ未来を歌に歌われた吉屋潤の娘は21+17で、いまは38歳となっている訳だ。あの歌詞を、フォーク調歌謡のメロディに乗せて歌い上げた吉屋潤自身は、”1990年”の5年後、1995年の3月にソウルで亡くなっている。日韓のハザマで、不思議な運命を辿ったミュージシャンだった。

 あれは何の本だったかなあ、ずっと以前に読んだ、”五木の子守唄”の学理的分析をした書の中に、若き日の吉屋順が登場していたのだ。この子守唄に潜在するリズムについて、「よく聞いてみろ。お前の血の中に眠っている、お前の民族のリズムだよ」と、彼は音楽上の師に指摘されていた。
 そのことが吉屋潤の意識のうちにある種の自覚をもたらした、なんて話だった。

 うん、何を言いたいのか分からない文章になっているが、それは毎度のことなんで、このまま終わる。ひどいか。それにしても油断しているとあっという間に時は過ぎて行くよなあ。



ジェットストリーム

2007-01-26 02:34:23 | いわゆる日記

 昨夜の”ニュースステーション”で初期FM放送を代表する番組、”ジェットストリーム”を特集していた。なにか、かの番組にとって意味ある日付けだったのだろうか、昨日は?

 そういえば先日も何かの番組でジェットストリーム回顧が行なわれていた。そちらでは「ようやく生活にゆとりが出来た日本人が、航空会社の提供になる、海外旅行を身近かなものとして取り上げるあの番組を好んで聴くようになっていた」というという理解だったようだ。

 一方、ニュースステーションの特集では、「海外への知識は増すけれども、まだまだ気軽に出かける生活レベルには至らない日本人の憧れを、あの番組は満たしていたのだ」となっていた。”いかにも団塊”みたいなオヤジたちへの思い出インタビューも交えつつ。

 ちなみに、城達也氏のナレーションによる、本来の姿の放送が行なわれていたのは1967年7月から1994年12月という。

 どっちなんだよ?という事で、まったくの思いつきでアレだけれども、便乗してジェットストリームについて書いてみようと思うのだが、実はこれは無茶と言うものであって、私はあの番組のリスナーではなかった。そもそもFMを聞く趣味もあまりなかったのだ。というのも、どうせ自分の好きな一般の支持低調な音楽など放送でかかるとは、はじめから期待していなかったからで。

 それでもジェットストリームの、有名な城達也氏のオープニングのナレーションくらいは聞いたことはある。今、ネットから採取してきた、その現物を下に引用する。

 ~~~~~

遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休める時、
はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は、たゆみない宇宙の営みを告げています。
満点の星をいただく、はてしない光の海をゆたかに流れゆく風に心を開けば、
きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか。
光と影の境に消えていったはるかな地平線も瞼に浮かんでまいります。

 ~~~~~

 音楽の間に差し挟まれる城氏の語りもさまざまな海外ネタが中心であったようで、やはり番組のキイとなるのが海外への憧れであるのは間違いないだろう。
 城氏がオープニングに「ミスター・ロンリー」のメロディをバックに読み上げていた、番組を象徴するようなこの詩(?)も、都会の夜の中に飛び立った外国航路の旅客機の窓外に展開する情景、などを想起させる仕組みになっているようだ。

 でもこの詩、よく読めば必ずしも語り手は飛行機に乗ってはいなくて、地上の、自分の書斎かなんかにいて、頭の上に広がる夜空に想念を広げているという理解も可能ですね。というか、音楽無しでこの詩だけを目の前にすると、そちらの理解の方が納得できるようにも感じられる。

 地上とは思い出ならずや。と言ったのは稲垣足穂だが。思いつきで引用してみただけで、これはこの際、あんまり関係ない言葉だが。この番組、要するに「ミスター・ロンリー」のメロディと、この語り、これですべてなんでしょうね。それだけじゃ1分くらいで終わっちゃうから、いろいろムードを継続できそうな音楽をかけて場をつなぎ、番組を成立させていた。

 1967年7月から1994年12月・・・いろんなことがありました。アホみたいに儲かってそんな時代が永遠に続くかと思えた頃もあり、一瞬にしてそんな高慢の鼻をへし折られた時もあり。

 シンプルな物語だよ。いつもいつも憧れていたんだ。こんな場所で這い蹲って生きていないで、ストリングスの奏でる、地球の引力の存在を忘れさせてくれるような「ミスター・ロンリー」をバックに流しつつ、雲海の彼方へ出かけてしまいたい。けど、そいつはいつもつかの間の幻想で、気がつけばいつもの部屋で”夜の饒舌なる静寂”に耳を済ませる自分がいるばかり。

 さて、どうせだからエンディングの語りも引用して終わることといたしましょう。あなたのパイロットはマリーナ号でした(おいおい・・・)

 ~~~~~

夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは
遠ざかるにつれ次第に星のまたたきと区別がつかなくなります
お送りしております、この音楽も美しく、
あなたの夢に、溶け込んでいきますように

 ~~~~~



ウクライナのデヴィッド・ボウイ?

2007-01-24 02:48:48 | ヨーロッパ
 ヴョールカ・セルデューチカ。今、現地では受けに入っているらしい、ウクライナのロック・ミュージシャンである。

 「ウクライナのデヴィット・ボウイ」なんて異名を取ってもいるようだ。これを言い出したのがミュージシャン・サイドなのか、音楽マスコミなのかは知らないが、その路線で売り出そうと思ったら、まず体重を10キロ、いやもしかしたら20キロくらいは落とさねばきつそうな気がするぞ。
 退廃を気取るミュージシャンが小太りってのはどうかと思うし、そもそもお前、女装を売りにしているようだが”美形”方向を期待されても困るだろうが。

 と、とりあえず言っておこう。この文章をヴョールカ・セルデューチカ本人が読むことがあるはずはないが。
 で、そんな彼の音楽なのだが、これが面白いのだ。べつにデビット・ボウイなんか持ち出さなくとも、そのユニークなサウンドで勝負すればよかろうものを、と言いたかったわけで。

 どうやら彼の音楽の基本コンセプトは、”ウクライナの民謡を今日化して、独自のポップ・サウンドを提示する”あたりにあるようだ。ロシア民謡と比べると、どことなく楽天的で明るい印象のあるウクライナの音楽。それはそのまま、セルデューチカの音楽の持ち味になっているようにも思える。

 エレクトリックなリズムがバシバシと打ち込まれ、それをはぐらかすようにのどかなアコーディオンが奏でられ、イスラムの香りがするバルカン半島風のブラスの響きが渦巻くように駆け抜ける。その、今日性と土の香りと東洋と西洋の文化のせめぎ合いがなかなかに楽しめる。

 セルデューチカのヴォーカルは常にクールに皮肉っぽい色彩を帯びており、中ジャケにある口をひん曲げた写真から受ける印象通り、パンクの洗礼を受けた世代なのかも知れない。

 ウクライナ語なんて一言も知らないし、ジャケに並ぶのはアルファベットではなく例のロシア語を表記するキリル文字という奴なので、アルバムタイトルも曲名も、意味はおろかどう発音するのかさえ見当もつかない。

 今回取り上げたアルバムも、タイトルの意味が「婚約者がそう望んだ」であることは教えられて知っているのだが、どのような事をテーマに取り上げているのかまったく分からず。だがセルデューチカというミュージシャンが日々感じているのであろう、周囲の世界への違和感と、それをポップに笑い飛ばしてしまおうとする反骨精神は、結構切実に感じ取れる。

 ウクライナのこと、何も知らないな。かって”旧ソ連”における穀倉地帯であったこと、あのチェルノブイリ原発があることくらい。あと、東欧ユダヤ人の音楽について調べていたら、頻繁にウクライナの地名が出てきたこととか。

 今聴いているこのアルバムは2004年の作品なのだが、実はさっき、彼が昨年出した最新作、”Trailli-Valli”が届いたばかりだ。まだ内容は聞いていないのだが、最近はロシアにも活動の場を広げていて、音の作りもグッと重層的になって来ているとのこと。こいつも楽しみだ。しかしセルデューチカ、ジャケ写真を見ると、また太ったように見えるぞ(笑)



ブラインド・レモンのいた頃は

2007-01-23 06:01:29 | 北アメリカ

 BLIND LEMON JEFFERSON ; KING OF THE COUNTRY BLUES

 19世紀の終わり頃、テキサスの田舎町で生まれたレモンは、生まれつき目が見えなかったから、街角に立ってギタ-を抱えて歌を歌い、小金を恵んで貰うしか生活の手段がなかった。幸運を求めてシカゴへ出たが、うまい話はない。プロレスのリングにまであがった。(にわか作りの、目の不自由な黒人レスラ-のために、リングの上に用意されている役回りって、想像がつくだろう?)

 古いSP盤の中からブラインド・レモンの歌が聞こえてくる。どうしても舞い戻ってしまう監獄の冷たい壁や、つまらない勝負に命をかける流れの博打打ちの物語。安いウィスキ-のもたらす、命を削り取るような酔いのために、なけなしの金を使い果たす悲しみについての歌。
 そしてある日、冷たい北風の吹く冬の朝、シカゴの公園でのたれ死んでいたブラインド・レモン。生きてるやり切れなさに心が凍りつきそうな冬の夜には、残された歌と、それから酒とともに、あいつの魂を飲み干してやっておくれ。

 なんて事をブツブツ呟きながらブルースの輸入盤を扱っている店を探して慣れない東京の街を歩き回っていた青春時代、なんてものが私にはあるのだなあ。吹きつける北風に、あの頃流行っていた長過ぎるコートと長髪をなびかせつつ。冬になるとたまに思い出すのよなあ、別にブルースを聴いていたのは冬だけのことじゃないのに。

 当時はまだ今みたいに個性的な輸入盤店もないころで。やっと見つけたヤズーとかバイオグラフとかの戦前ブルースのリイシュー・レーベルのアルバムの、昔の広告写真をそのまま使ったジャケが宝物に見えたものだった。
 SPから起こした雑音だらけの盤の向こうで歌っている、ずっと昔に生きたブルースマンの歌声は、子供の頃に深夜、一人で目覚めた時に見た夢の残滓の中で響いていた、遠い夜汽車の響きに通じるものがあった。と思えた。

 しかし、地味だっつーのよ、我が青春時代。この歳になっても、ふと”ルーツのようなもの”に還るつもりで弾いてみたフレーズが、戦前ブルースからのいなたいフレーズのコピーだってのは、なんなのかね。いやまああの頃は、そんな地味な世界に浸りこむのがカッコよく思えたんだけどね・・・




楽器演奏者バトン

2007-01-22 01:06:06 | いわゆる日記

 ”楽器弾きのためのバトン”というのを見つけたので、ちょっとやってみます。これまでやったものの中で最長!

 ~~~~~

1.こんにちは。まずはあなたのHNを教えて下さい。

 マリーナ号。

2.居住地も教えていただいていいですか?

 海辺です。

3.では、ご出身はどこでしょう?

 海辺です。

4.生年月日、年齢なども教えて下さい。

 なんか犯罪に使われると嫌だから、回答を拒否します。

5.性別は?

 男です。

6.ご職業はなんですか?

 とりあえず今は”大家さん”と呼ばれてます。

7.あなたの性格を一言であらわすとどんな感じですか?

 自分ではごく普通の平々凡々たる性格と思っているが、周囲の者に言わせれば、いろいろ問題はあるようだ。

8.特技や資格などお持ちでしたらこちらで紹介して下さい。

 特技は、ない。
 資格は、防火管理士とか簿記資格とか酒類管理者とか普通免許とか(行き当たりばったりの人生が見えてきますな)

9.趣味はなんですか?

 アイドル写真集収集。とでも言うしかない、無為な毎日である。

10.好きな言葉も教えて下さい。

 おつかれさま。おやすみなさい。現地解散。自由行動。

11.あなたの担当楽器は何ですか?

 ここは、一番付き合いの長いギターにしておいた方が無難であろう。

12.あなたの演奏ジャンルは?

 ロック経由・世界各国の民俗音楽のデタラメ解釈。

13.自分の演奏ジャンルは好きですか?

 そりゃ、演奏しているくらいですから。

14.何故その楽器を選んだのですか?

 ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズが抱えている姿がかっこよかったから。

15.いつからその楽器を演奏していますか?

 中学3年生

16.MY楽器は持っていますか? 持っている方は詳しいデータを教えてください。

 たいした楽器でもないので詳しいデータも意味ないと思いますが、まあ、今メインで使ってるのは安物のF穴の生ギター。昔、ピックギターと呼ばれた奴ね。

17.持っていると答えた方、楽器に名前をつけていますか?

 つけていません。

18.街で楽器ケースを持っている人を見かけたらどうしますか?

 妙な奴だな、という視線でジロジロ見る。

19.ふらりと立ち寄った楽器店。そこの店員さんに楽器の事を尋ねているお客さんがいます。 そのお客さんはどうやらあなたと同じ楽器のようですが、店員さんが説明できずに困っています。あなたならどうしますか?

 店員の困りようを、見て見ぬ振りをしつつただ楽しむ。

20.自分の理想とする音を教えて下さい。

 分からない。それを探して弾いているのだ、とありがちな答えをしておく。

21.自分の音は好きですか?

 好きなときも嫌いなときも。

22.尊敬するプレイヤーを教えて下さい。

 楽器のプレイヤーなんて尊敬しない。

23.では好きなプレイヤーは?

 たくさんい過ぎるが、今ふと名を思い出したのがエイモス・ギャレット。

24.初見は得意ですか?

 得意なわけがない。

25.暗譜は得意ですか?

 得意なわけがない。しようとしても無理。何度も聴いたり演奏したりしているうち、自然に覚えてしまう、と言うのならありうるが。

26.じゃあ、初見と暗譜、どちらが得意ですか?

 だから、どちらも得意ではない。

27.あなたの恋人(または好きな人、および配偶者)は「楽器いじり」ですか?

 楽器をいじる異性と親しくなった事はない。

28.ではその事(Q27)についてどう思いますか?

 うっかり一緒に演奏して、それが原因で揉めてしまったりする可能性を考慮すれば、これで良かったと思うべきだろう。

29.最近買った楽器用品は何かありますか?

 何も買わない。

30.楽器用品って値段がピンキリですよね。上限いくらまでならOKですか?

 そもそも楽器用品って何だ?ギターケースとか?だったら千円単位までかな。

31.楽器を演奏する仕事ってどう思いますか?

 そりゃ、うらやましいよ、楽器弾いてりゃ金をもらえるなんて。

32.ところで、憧れている楽器って何かありますか?

 アパラチアン・ダルシマー。

33.使用しているMPやリード、その他楽器小物を教えて下さい。

 ???ピックとスライド・バーくらいか。

34.お気に入りの楽器小物ってありますか?

 いや、特に・・・

35.では、楽器小物で「これだけはなきゃ困る!!」ってものはありますか?

 ない。

36.行きつけの楽器店などありましたら紹介して下さい。

 文化果てる地在住ゆえ、”行きつけ”になるほどの近距離に楽器店がない。

37.楽譜に書きこみしてますか~?

 いや、書くこともないし。

38.小節番号は書いていますか?

 そもそも、何でそんな事をするのかが分からない。

39.楽譜入れ(クリアーファイルなど)使用していますか?色や形状など教えて下さい。

 教えるほどの特徴もない、普通の書類入れ。

40.使用している方、シールなどで飾ったりしていますか?

 貼らないよ、そんなもの。

41.アンサンブルやったことありますか?

 質問の意味が分からん。バンドだったらいくつも作っては壊しして来たけど。

42.ではマーチングは?

 おい、いい加減にしろ。

43.ひょっとして合宿とかもやった事ある?

 それは若い頃、何度もやった。

44.それらの思い出を教えて下さい。

 いずれ小説に書いて直木賞を取る予定なので、教えられない。

45.一般楽団に所属していますか?

 属していない。つーか、”一般楽団”って???

46.あなたの楽器はピッチはいい方ですか?

 ???たいした事はないんじゃないか?

47.メロディー、ハーモニー、オカズ、演奏するならどれ?

 ???どれか一つしかやってはいけないのであったら、オカズ。

48.1st、2nd、3rd…あなたはどれですか?

 なんだ、それは?

49.Soloは好きですか?

 まあ、好きと言えば好きだが・・・何だってそんな事を聞く?

50.好きな曲は何ですか?

 挙げればきりがないが、今思い出したのが、ホーギー・カーマイケルの”レイジーリバー”

51.ではその理由は?

 古いジャズ=ブルースの物悲しさや暖かさが好ましい。

52.じゃ、キライな曲は?

 三船敏郎の娘の旦那の、何たらいうヒット曲。

53.出来ればその理由も。

 臆面も無くベチャベチャネチャネチャグッチャグチャだから。

54.楽器を演奏する時の癖ってありますか?

 なんかあるのだろうが、気がついていない。

55.楽器を演奏する時、体が動きますか?

 「どこも動かしていないつもりでいても、楽器を弾いているときは、体のどこかが必ず動いているはずだ」と、大学時代の音楽サークルの先輩、ワシズカさんが言っていた。そんな気がする。

56.大キライなヤツがあなたのパートに入ってきたらどうしますか?

 入れない。

57.初心者が入ってきたら面倒を見てあげますか?

 見ない・・つもりでいたのだが、人に言わせると、結構面倒見はいいらしい。

58.楽器のポスターやカタログ等、部屋に飾っていますか?

 そんな貧乏臭いことはしない。

59.突然ですが、お酒は好きですか?

 好きに決まってる。

60.本番と打ち上げ、どっちが好きですか?

 打ち上げでやるような事を本番でもやりたく思う。

61.指揮、ちゃんと見てますか?

 指揮って何だ?

62.楽器を演奏する上で気をつけていることってありますか?

 弾き間違えないように。

63.演奏用の持ち物があるかと思いますが、それ専用の鞄とかありますか?

 持ち物?ギター・ケースに突っ込んでしまう。

64.その中身は?

 換えの弦とかピックとか。

65.歌うのと演奏、どっちが好きですか?

 同じくらい。と言うか、片方しか出来なかったらつまらないと思う。

66.あなたはズバリ、お調子ものだ?

 多分、お調子者だ。

67.「コイツだけは許せない!!」という演奏者のエピソードを教えて下さい。 訴追の恐れがない様にちゃんと伏字など使用して下さいね。

 思い出そうとしたのだが、特に腹が立った記憶がないので驚いた。忘れてしまったのか、そのような事がなかったのか・・・

68.歌謡曲のアレンジで演奏するのをどう思いますか?

 歌謡曲以外のものを、と言う意味なのだろうが、それはつまりギャグなのであろうと理解し、クレージーキャッツ風に大ノリでこなしてみせる。

69.コンサート等で演出などやりますが、それで「演奏側」ではなく「演出側」をやった事はありますか?

 ない。

70.その時、「演奏側」だった場合、どんな演出か気になって演奏できないことがある?

 いや。演出なんか無視するし。

71.ビデオ等で自分の演奏、マトモに見れますか?

 まったく平気だ。(演奏以外の、普通の日常生活をしている自分を見せられるほうが、むしろ耐えられない)

72.ではCDやテープなどで自分の音を聴くのは平気?

 完全に平気。「結構いい音出してるじゃん」とか本気で思ったりする。

73.あなたのやっている音楽ジャンルのCD、何枚くらい持ってますか?

 千の単位じゃないかと思うのだが、数えたことも無し。

74.個人練習(基礎練習など)、きちんとやってますか?

 やる気を起こせば何時間もやるし、やる気がなければ何ヶ月もやらない。

75.基礎練習は主に何を何分くらいやっていますか?
 
 先に答えたようにまちまちなので答えようも無し。

76.練習日等含めて週にどれくらい楽器を演奏していますか?

 先に答えたようにまちまちなので答えようも無し。

77.個人で練習する場所(自宅、貸しスタジオ)ってありますか?

 自宅の三階が我がスタジオだ。

78.お勧めの教則本とかあれば紹介して下さい。

 ない。こちらが教えてもらいたい。

79.自分の楽器以外で演奏できるものがあれば教えて下さい。
 
 サックス。マンドリン。ブズーキ。ウクレレ。ハーモニカ。

80.好きな作曲家は?

 ジミー・ロジャース(白人の方)

81.演奏中、眠くなったらどうしますか?

 眠くなったまま演奏を続ける。

82.演奏していてよかったな~、と思う事は何ですか?

 音楽が出来ること。なんだ、この質問は?

83.ではその逆は?

 よかったなあ、としか思わない。逆はない。

84.日常生活と楽器、どっちが大切ですか?

 分からない。まあ、ちょっと考えると楽器なんだが、生活が崩壊したら楽器も弾いていられないし。

85.楽器を持つと人格変わりますか?

 変わらないつもりでいたが、人に言わせると「楽器を持つと生気が蘇る」そうである(笑)

86.人の結婚式等で演奏した事はありますか?

 ないない。

87.練習中、携帯の置き場は?

 そもそも携帯を持っていない(携帯に限らず、電話は大嫌い)

88.合奏中に電話が掛かって来たり、メールが来たらどうしますか?

 無視。

89.寒い時と暑い時、楽器を演奏するのはどっちがイヤですか?

 寒かろうと暑かろうと、楽器を演奏するのを嫌と思ったことなど無い。

90.屋内と屋外の演奏、どっちが好きですか?

 どちらも。

91.突然ですが、セクハラ指揮者をどう思いますか?

 なんだそいつは?とりあえずどんなものか見てみたい。

92.究極の選択(?)ずっとやりたいと思っていたけど、難しくて大変な楽器と無茶苦茶簡単だけどキライな楽器。「移れ」と言われたらどっちに行きますか?

 嫌いな楽器をわざわざ奏でる理由は無いだろう。

93.楽器、移りたい?

 というか、いろいろな楽器を弾きたい気持ちは常にある。

94.楽器ケースにシールなどを貼って飾り物していますか?

 貼らないよ。

95.楽器を演奏している自分に酔った事はありますか?

 多分、酔ってるんだろうね~。

96.どれくらいの頻度で楽器の手入れをしていますか?

 よほどのことが無ければ、しない。

97.楽器を演奏する時、近くに飲み物はおいてますか?

 置いてある。痛風の気があるので、常に水分を取っていなければならないのだ。

98.羨ましいと思う楽器は?

 羨ましいと言えばすべての楽器が。

99.あなたにとって音楽とは?

 月並みだが、生きがいだろうね~。

100.お疲れ様でした。最後に一言感想と、バトンを回したい5人をどうぞ。

 長いっつーんだよ。



2006年間ベストアルバム10選

2007-01-20 04:37:30 | 年間ベストCD10選


1)La Nouvelle Generation Du Reggada / Various Artists(MOROCCO)
2) ”出家コンビ”/ Tossapon Himapan & Waipat Phetsupan (TAILAND)
3)Tangos De Siempre / Osvaldo Peredo (ARGENTINA)
4)Hiya Al Ayam / George Wassouf (LEBANON)
5)Diwan 2 / Rachid Taha (ALGERIA)
6)Studio Cameroon / Sally Nyolo and the Original Bands of Yaounde (CAMEROON)
7)Isla Del Encanto / Enrique Chia (PUERTO RICO)
8)New Faust / Little Tragedies (RUSSIA)
9)ジーネープエナネキンティヤー/ソーサーダトン(MYANMAR)
10)Love Always Finds a Reason / Noyuni (韓国)


1)まだまだ未知の面白い音楽はある。Reggadaとはモロッコ土着の祝祭音楽らしいのだが、ともかくかの地独特のトランス系のビートと、非常に泥臭い絡みようを見せる電子音楽の要素が、実に痛快な破壊力で迫る。ボコーダー処理によってボーカルにイスラミックなメリスマをかけるという奇矯なアイディアには、やられました。砂漠から掘り起こされた千年前のロボットがコーランを読み上げているみたいな。これは凄いや(写真)
2)タイトルをタイ語で書きたかったのだが。以前より惹かれていたタイの仏教系ポップスである”レー”の大物二人の共演盤。かの音楽の大衆娯楽の側面が浮き彫りになっているのが興味深い。
3)下町のタンゴ・バーで地味に歌い続けて来た老歌手の渋過ぎるデビュー盤。臆面もなく繰り出される懐メロタンゴの数々に、アルゼンチン庶民の喜怒哀楽が染み付いているかのようだ。
4)アラブ・ポップスの理想系。ドクドクと脈打つリズムに乗って炸裂するしわがれ声の迫力がたまりません。
5)フランス在住のアラブ民衆の感情の代弁者として独自の音楽を展開して来たアラブ・ポップスの風雲児による、アラブ世界回帰盤。さまざまなものが見えてくる。
6)カメルーンの伝統音楽を思い切り遊んで見せた、楽しい一作だった。
7)この盤の国籍表示がこれで良いのか議論の分かれるところだろうが、カリブ海音楽の一方の雄プエルトリコの、美しいメロディー集。切ないです。
8)ロシアのハード・プログレバンドが思い切り叩きつける、暗くて深いヨーロッパの闇の世界。
9)ミャンマーの仏教音楽とか。不可思議な天然プログレとも言いたいかの地の大衆音楽が描く清浄なる祈りの世界が新鮮だった。
10)いかにも清楚なアイドル風に見えるジャケと、それを思い切り裏切る泥臭くえげつないディスコ仕立てのトロット演歌の世界。この身もふたもなさが逆に痛快!




仏教系ポップス・”出家コンビ”

2007-01-18 00:55:32 | アジア

 Tossapon Himapan & Waipat Phetsupan

 たびたび話題にしてきたタイの仏教系ポップス、”レー”の注目盤、”出家コンビ”をやっと聴き終えることが出来た。いや、別に聴き終えるのに困難が伴うような盤じゃないんだけど、なんかこの頃、音楽を聴くことに不真面目になってしまって、といって何をするでもない、ただ惰眠を貪るだけの毎日だったりするのでね。

 仏教系ポップスとか書いたけれど、まだまだレーのことは良く分からないままだ。タイの演歌とも言うべきルークトゥンの一種で、僧侶が読経をする際に付ける抑揚に影響を受けた奇妙に裏返る、ある種ヨーデルのごとき歌唱法を持つ歌謡曲、と言った辺りが一応の定義と考えていいようだ。

 読経からの影響を持つゆえであるからだろうか、葬送歌である、とかの解説(日本人の研究家による)も読んだことがあるが、それはどうだろうか?それにしては、私が若干持っている”レー”のCDの歌唱も演奏も明る過ぎポップ過ぎるし、なによりジャケのデザインがあっけらかんとしてい過ぎるように思える。

 で、今回の”出家コンビ”は、その”レー”の現時点での第一人者と想像される(CDのりリース量の多さから)トッサポン・ヒンマポーンと、ルークトゥン界の大ベテランであり、こちらも最近、レーにご執心であるらしい、ワイポット・ペットスパンの大物二人の共演盤なのである。

 いきなり、実に鄙びたルークトゥンの響きが流れてきて、トッサポン、ワイポット両者の、いつもよりは数段泥臭い感じの歌唱が飛び出してくる。これはディープだ。タイの僧侶の読経の、とか言っている場合ではない、聴き進むと日本の僧侶のするような、聴きなれた調子の念仏調のコブシまで聞こえてきて、ギョっとさせられたりする。

 そして歌の合間に、かなりの長さの二人の会話が差し挟まれる。お互いの語りの中に相手の名前が頻繁に差し挟まれ、どうやらこれは両者の突っ込み合い、ある種の漫才のような事をやっているように思える。なにやら楽しそうで、これはタイ語が分かったら、そうとう笑えるのではないか。

 このアルバムの映像版を見た人のコメントでは、彼らの歌声にいい年のオッサン、オバハンたちが浮かれ踊っている様が見られるとかで、なんだか韓国のポンチャク・ミュージックのありようを連想してしまったのだが、二人の”漫才”とも考え合わせると、そんな大衆に密着した娯楽を提供する音楽なんではないかなあ、レーというのは。

 やはりこれは”死者を送る歌”とかじゃないでしょう。むしろ仏教説話を音楽に乗せて説く内、盆踊りの中心に位置してしまった河内音頭に近い存在なのではないかと想像されて来た。その種の、縁日の華やぎみたいな市井の至福感が、音の向こうからジワジワと伝わってくるのだ。う~ん、ますます興味深々だぞ、仏教系コブシポップス、”レー”。