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遠い森 遠い聲 ........語り部・ストーリーテラー lucaのことのは
語り部は いにしえを語り継ぎ いまを読み解き あしたを予言する。騙りかも!?内容はご自身の手で検証してください。
 



 朝、早起きして湘南新宿ライン逗子行きに乗った、夕べ買った青春18切符を手に、スイカでグリーン券を3席求めた。娘たちとのちいさな旅....

 二時間乗って 鎌倉に着く。底冷えする寒さである。黒のストールを持ってきてよかった。アラブの婦人のように目だけ出して風を遮る。鶴岡八幡宮の参道は人の波...けれども成人のひとたちはちらほら数えるほどしかいない。初詣とはそういうものなのか、家族連れや仲間同士、カップルがほとんどでひとりで歩く人も少なかった。

 絵馬を求め、家族ひとりひとりのことを記して奉納する。ルイのためににお守りをいただく。階段は登れないので 下でお参りする。静御前が頼朝の御前で
  吉野山峰の白雪ふみわけて入りにし人の跡ぞ恋しき
    しづやしづ賤(しず)のをだまきくり返し昔を今になすよしもがな
と歌い、舞ったのはどこだったのだろう。実朝が殺された大銀杏は....階段を降りてきた娘たちと戒法寺に向う途中鎌倉国宝館に立ち寄る。中に入ると沁み入るような静謐が空間を充たしている。右側が常設のスペース、入ってすぐの地蔵像の端整な理知的なお顔に思わず手を合わせる。つづいて倶生神、生きているあいだ人につきまといその行動を記録して、死後冥府で裁きの時 罪業をよみあげるとある。娘が「どうかお目こぼしを」と拝んでいる。中央には12神将、内奥に漲る力と精神性を秘めて立つ。

 左側は肉筆浮世絵氏家コレクションが特設されている。襟元や裾の緋縮緬に目がいってしまう。着物の意匠の美しさ...日本の色彩感覚の粋がある。着こなしのくずれに「昔もヤンキーがいたんだ」と二女がつぶやく。長女は北斎の小雀を狙う山かがし図に見入っている。蛇が鎌首を上げて小雀を狙っている。一枚一枚の鱗が鮮明に描かれ、その下に蛇苺が配されている。見事だ。隣の「波に雀図」に比較して、その表現がまったく違う。北斎の筆致が作品によって異なるのを肉筆ははっきり伝えてくれる。酔余美人図もよかった。広重の雪月花の三点には静寂があった。それぞれ個性は異なるが、天才の絵には高潔さや孤高の美、思わずその世界に引き込まれてしまう力がある。語り手としてわたしは職人尽くしに描かれている歌比丘尼に興味を持った。女童をふたり連れ、楽を奏でながら、歌い歩いているようだ。この美術館でもうひとつ目についたのはステンドグラスである。星と月の意匠の美しいこと、今日はいいものを見た。

 一やすみしたかったが大佛次郎邸を横目で見て、魅力的な小路を抜け駅に向う。江ノ電に乗って長谷寺に行く。ここはなんとか手すりにすがって本堂へ...金色に輝く見上ぐるばかりの観音像には衆生を救う意志も力もお在すように見えた。畏怖を禁じ得なかった。はるかに材木座海岸から遠い海まで展望できる。青い海..仏を拝んだあと見る海はいつもと違う感じがした。ひとは祈り、この海の向こうに補陀楽(天国)を夢見たのだろうか。ひとはどの時代も幸福を望む。お賽銭をあげ、瓦を寄進し、灯明をあげ、...弁天窟に灯された幾百の蝋燭...この世の幸と極楽往生・あの世の安らぎを求める...いつの時代もひとはそうは幸福ではなかったのかも知れない。

 娘たちに大仏を見に行かせてその間、わたしは旬憩という甘味処でぜんざいをいただいた、目の細かい簾からおだやかな西日が射して店内を茜色に染めている。来てよかった...娘の声がうれしかった。ちいさな旅を今年は幾たびかつづけようと思った。



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