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橋本胖三郎『治罪法講義録 』・第一回 序文

2024年03月18日 | 治罪法・裁判所構成法

橋本胖三郎『治罪法講義録 』・第一回 序文

【コメント】
治罪法(ちざいほう)は、刑事手続について規定した法律です(明治13年太政官布告第37号)。現在は刑事訴訟法といいますが、当時は治罪法という名称でした。刑事手続きに関する法典としては、本邦初であり、法執行機関には治罪法の習得は必須でした。
橋本胖三郎『治罪法講義録 : 上・下』は治罪法が公布後5年経った明治18年に警察官向けに講術されたものです。同書は、明治19年に警官練習所蔵版として博聞社から出版されています。
警官練習所は、現在の警察大学校の前身で、明治18年に警官練習所として創立されています。橋本胖三郎は、警官練習所の教官です。
今回は講述の第一回です。第一回は序文及び総論から成り立っていますが、今回紹介するのは序文です。原文は漢字にカタカナで句点・読点がなく、また修辞的な言辞も多いため、できるだけ平易な現代語とし、その大意を紹介致します。

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第一回(明治18年4月22日)
序文
諸君。私は浅学寡聞の者ではありますが、教官の末席に加えられ、この度治罪法を諸君に講述する栄誉を与えられました。
さて、この講述では、警部諸君と巡査諸君と同時に行わなければならず、少しく困難を感じております。と申しますのは、警部諸君と巡査諸君とでは、修業の長短が異なるからです。執務の難易軽重も大いに異なっております。別々に講述をするのが良いのですが、そうもいきませんので、「長大は短小を包む」という諺に従い、精密な説明を致します。言辞が不明であったり、論理がよくわからず、諸君の胸中に釈然としないものがあれば、質問をして下さい。

さて、ここで述べるのは、専ら治罪法の法理及びその適用論の概要です。文章、字句の配置、法条の整序などの瑣末な説明は致しません。その理由は、諸君の修業時間に限りがあり、詳細な講述ができないこと、諸君は経験豊富であり、実践により自ずから法の細目を了解していただけるものと信じていることにあります。法学の要旨は法理を研究するものであって、細かな章句に拘泥すべきものではありません。
法理を講じるものは、実際の法の活用をしない空論に過ぎないという者もおります。しかし、私が法理を講述するのは、哲学的な領域で高尚な理論を扱うのではありません。法律を執行する者が理解しなければならない法理を講述するのです。法の活用をしない空論などではありません。法理の一原則を理解すれば、数十の問題を解くことができるのです。
私は、ボアソナード氏に法学を学びましたが、氏は常に法理を詳論し、やむを得ないとき以外は章句の枝葉末節に論及しませんでした。
法律を研究するには様々な方法があり、一つではありません。法章の順序に従って逐条で解説するという方法もあります。また、事項ごとに適宜の区別を設けて講述するという方法もあります。前者は注釈体といい、後者は講義体といいます。現在、我が国で刊行されている法典の解釈や書の多くは注釈体であり、講義体と呼べるものはほとんどありません。
今回、治罪法を講述するにあたっては、講義体により行います。法理を講じるには、この方法が最も適しているからです。刑法の講義を担当する高木氏も同じ方法を取られると聞いておりますので、治罪法でも講義体を取ることは諸君にも便益の多いことでしょう。
本日はまず、治罪法の総論を簡単に述べ、次回以降は治罪法を詳しく説明する予定です。

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