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仮刑律的例 27 兵庫県での 酔狂乱暴につき流刑

2024年04月18日 | 仮刑律的例
仮刑律的例 27 兵庫県での 酔狂乱暴につき流刑

【兵庫県からの伺】明治二年正月
明治2年巳正月7日、兵庫県からの伺い
先日(6日)、当県の判事である喜多村慶二の下男の友次郎が、同県運上所船改役の柘植重次郎及び三浦行蔵に手疵を負わせました。詳細は別紙始末書のとおりです。友次郎には入牢を申し付けました。
重次郎と行蔵が酔狂に乗じて不作法な行為を働き、士道を見失って禍を起こしたことは不埒至極であります。
怪我を負った両名にはすぐに治療を致しましたが、柘植重次郎は余病を発し、翌7日に死亡しました。三浦行蔵は快復してきております。
喜多村慶二判事は特段の落度もありませんので、これまでどおり勤務するようにと申し渡しております。
三浦行蔵及び下男の友次郎にはいかなる刑とすべきかお伺い致します。
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〈喜多村慶二判事から伊藤博文五位(兵庫県知事)への届書〉
昨日(6日)、七つ半頃、船改役の三浦行蔵外二名が面会を求めてきました。ちょうど夕食中であったため、夕食の後に面会しようとしたところ、三浦行蔵はひどく酔っておりました。三浦に同行していたのは船改役の柘植重次郎と杉浦英之進でしたが、この両名は面識のない者でした。面会したものの、具体的な用件もなく、酒がほしいというので、酒肴を出しました。
彼らは酔狂に乗じて暴言だけでなく、様々な不作法をしてきました。さらに酔いが回って私に対してあまりにも酷い悪口雑言を行いました。
三名のうち、杉浦英之進は最初から冷静であり、三浦行蔵と柘植重次郎の乱暴を抑えようとしていましたが、両名は取り合いません。
安井喜代三が来て、杉浦英之進と共に両名を何とかしようとしましたが、両名はますます暴れるばかりです。
これに我慢がならなかったのでしょう、下男の友次郎が勝手から走って参りまして、いきなり両名に対して手疵を負わせたのです。
このような不始末となってしまい、このまま自分の職務を続けてよいかと恐れ多く感じており、謹慎をさせていただきます。この上はいかなる処分もお受け致しますので、よろしく御沙汰ください。以上のとおり申上げます。
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〈兵庫県判事喜多村慶二の下男友次郎(50歳)の供述〉
私は、昨日(6日)、柘植重次郎殿外一名に対して怪我を負わせてしまい、御吟味を受けております。
私は兵庫県東柳原町に住んでおり、主人の喜多村慶二方で昨年6月から奉公しております。
昨日(6日)、夕刻に食事の用意をしていたところ、普段見知たことのない三人の者が主人に面会したいとやってきました。その旨取次の者に伝えましたが、主人の言葉も聞かないうちから玄関から入ってきました。主人は夕飯中であり、夕食後に面会する旨、取次の者が伝えました。
三名はいずれもかなり酔っており、酒を出せと申しますので、彼らのいうとおり酒肴を出しました。彼らは、主人と一緒に酒を飲んでおり、当初は暴力的なものはなかったのですが、段々と酒が進むにつれ、場を弁えず、言葉が粗暴なり、かつ、不作法なことを行い、主人のことを軽侮嘲弄する始末です。心もとないため、隣の間に控えて三人の動静を伺っておりましたところ、いよいよ暴言が甚だしくなり、一人は倒れて酒肴の器を両足で蹴っ飛ばしました。主人が便所に用を足しに行くのを、「逃げやがった」等と罵っていました。
このとき大阪府より急ぎの御用状が届き、これに返答するため、主人は御用状の返事を書かなければならなくなりました。その際に、主人を軽侮嘲弄したのです。主人は酔った者であり、このようなことをされても頓着しないで、平然と対応しておりましたが、彼らはそれにつけ込み暴行に及んだのです。折しも安井喜代三殿が来訪され、杉浦英之進殿でしょうか(その当時名前を存じあげませんでした)を隣室に招き入れ、何やら話をしていた。その間にも、柘植重次郎外一名が、主人に対して暴言を浴びせました。私は、彼らの以前からの粗暴な振る舞いに腹を立て、また主人が屈辱を受けているその心中を推し量り、身分の低い自分ながらも憤慨を隠し切れず、主人の恩義に報いるのは今しかないと思い、覚悟を決めて、主人から渡されていた脇差で二人に傷を負わせました。
このような行為に及んでしまい大変恐れいっております。この上は法に従って処罰を受ける覚悟であります。以上につき相違ございません。
以上。
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【返答】
正月晦日付紙
本件は、柘植重次郎と三浦行蔵が酔って主人の喜多村慶二に乱暴な振る舞いをしたため、主従関係にあるこの者が憤懣に耐えられなくなって切り付けたものである。過激な行動を取ったことは不届きであり、流刑とすべきである。
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【コメント】
本件は、兵庫県の喜多村慶二判事の下男、友次郎が2名の者に脇差しで切り付け、一名を死亡させ、一名に重傷を負わせたものです。
現代であれば、殺人罪か傷害致死罪かが大いに争われそうですが、その点についてはあまり意識された論述となっていません。
友次郎の刑は流罪となっています。



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